第495話 有無と詳細
悪魔
その名詞は生きている者は嫌悪するモノだった。
そして当然そんな存在と取引をしている存在など人の社会からすれば許せるわけはなかった。
「言いたいことは理解できた」
「なら、答えてくれ。お前は悪魔と取引をしたのか?」
イグニアは答えしだいでは許さないという雰囲気を醸し出す。
「まず一つ訂正をしておくぞ、オーギュストは生粋の悪魔ではない」
「というと?」
「悪魔となったのは魔具を使用した結果だ」
実際オーギュストの口からも元は人間だと言う言葉を聞いている。
「……だから危険のない悪魔だと?」
「いや、悪魔の力を使える
こちらはあくまで悪魔ではないと言い張る。
「俺からしたらどちらでもいい。お前が悪魔と取引しているという話を聞いたが、弁明はあるか?」
イグニアからしたら悪魔でも、悪魔の力を得た人物でも気に食わないという表情を作る。
(結局は悪魔もしくはそれに類似しているということで、イグニアなら気に食わないのだろう)
悪魔と悪魔の力を持っている人間とでは大きく隔たりがあるはずなのだが、イグニアは一緒くたにしている。なぜ危険視しているかは、おそらくは軍部よりのため悪魔の危険性を良く理解しているからだろう。
(結局のところどちらでもいいが)
俺はイグニアの視線を受け止めて、口を開く。
「
「……本当か?」
イグニアが確かめるように視線が鋭くなる。
「ああ、というよりも、なぜ取引があったと?」
「…………どうやらかなり親密な雰囲気だったからな、確認だ」
イグニアはそう言うが、どうやらこれまでのオーギュストとの接触でいろいろと疑念を持たれていたらしい。
「念を押すようだが、悪魔と取引はしていないな?」
「ああ、何なら『審嘘ノ裁像』の前で宣言してもいい」
「そうか……なら問題ない」
さすがに嘘を見抜ける魔具の使用を持ち出せばイグニアも納得する。
「しかし、それにしては、あの悪魔はお前に入れ込んでいるらしいが?」
「いろいろとあるとしか言えないな」
「そうか、取引がないなら何よりだ」
それから出てくる料理を食すと、程よく時間が経っており、俺達はコロッセオに戻ることになる。
ガラガラガラ
「それで、聞きますが、本当に取引などはしていないのですね」
コロッセオへと向かう馬車の中、対面に座ったユリアが真剣に問いかけてくる。
「くどい。イグニアにも言ったが、そのことに関しては俺は何一つやましいことはしていない」
「では、なぜ悪魔が情報を渡しに来たのでしょう?再戦目的だけでは説明つかないほど親しそうに見えるのですが?」
「さぁな、大体は予想がつくが」
「お聞きしても」
「……どうやら俺のユニークスキルに興味を持っているらしい。それにより幾人かに構われているらしい」
もちろんそれだけではなくアルカナの件もあるだろうが、それは隠していないが、バレるまでは誤解させておく。
「襲われている、ではなくて?」
ユリアは冗談なのか、それとも本当に疑問に思っているかわからないが、そう聞いてくる。
「ああ、一応は全員が理性的に接してくれているからな……それよりも、イグニアと
現在、この馬車には俺とリン、ノエル、ヴァンそしてユリアと、その侍女の6人がいた。またイグニアはというと前方の馬車でジェシカとテンゴ、マシラ、アシラ、そしてアルベールと同乗していた。そして後方の馬車にはクラリス、エナ、ティタ、レオネ、セレナ、ロザミアが乗っている。
「まさか、アルバングルの客人たちと喋りたいと言わないな?」
「それも理由の一つですが…………バアル様が
ユリアの言葉に目を細める。
「単純に人数合わせと思わないのか?」
「はて、そうなのですか?」
ユリアは笑みを浮かべながら確かめてくる。その様子を見て一度ため息をつき、口を開く。
「めんどくさいことは抜きにしよう。ユリア、今回の報酬だが、アレは
「…………ふふ、どうやらそれなりに確信がおありのようですね」
肯定の答えと言えるような言葉をユリアは放つ。
「一応聞くが、その経緯を話してくれないか?」
「話すとお思いですか?」
「……では、話せば必ず俺がドワーフの元に向かうと約束しよう」
こちらがそう告げるとユリアが顎に手を当てて考え始める。
「…………
「了承しよう。それと是非、俺が売り渡されたという話じゃないという言葉を聞きたいがな」
馬車の背もたれに深く体重を預けると、ユリアはくすくすと笑う。
「似たような物でしょうね。一言で言えば、ドワーフは
その言葉に思わず体に力が入り始めた。
「了承したか?」
「いえ、私が行うのは紹介のみ、その後の交渉はあちらでいろいろと用意出来ているそうですよ」
「危険性は?」
「無いでしょう。ドワーフはもちろん、ネンラールからしたら飛空艇をうまく導入できるチャンスが巡ってくるのですから」
ドワーフ、並びにネンラール王家が交渉を邪魔することは低いと見ているらしい。
「輸送と言っていたが、目的は技術か?」
「それもあるでしょうが、それ以上にドワーフの土地を考えれば、いざというときの
ユリアの言葉に色々と納得する。ドワーフの本拠地ともいえるドミニアという年は周囲を鉱山で囲まれており、さらにはそこから南下する道は長く荒野が続いていて、食料の確保が厳しい。それを考えればあながち間違いではない予想なのだろう。
「なるほど」
「それに付け加えるなら、もしもの時のためにノストニアと顔をつなげられる存在と知り合っておきたい、こんなところでしょう」
ユリアは一度後方の馬車に視線を向けて、そう言い切ると同じく深く座席に座り直す。
「もちろん、要求を
「わかっている、あちらに顔を繋ぐことだけで良しとしておくと思わせておく」
こちらの言葉にユリアは頷く。なにもユリアは国内でも機密性の高い技術を売り渡そうとしてるのではない、あくまでそれに繋がる人物と顔つなぎさせておくことで、後々に利があると思わせることが目的だと言う。実際、ここで打ち合わせをしておくだけで、ドワーフに技術を渡さず、顔つなぎだけで満足させて冶金技術を得ようとしているのだから。
「もうすぐコロッセオですが、ほかに聞いておくことは?」
「いや、特にない」
「そうですか、ではお約束をお忘れずに」
ユリアはそういい笑う。
「ああ、お互いにいい話だな」
そう口にしてこちらも笑う。
だが――
(ユリアは気付いていないな、ドワーフの本当の目的に)
その後、馬車はコロッセオへとたどり着き、俺達は貴賓席へと戻っていった。
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