第494話 最終日インターバル

『マシラ選手!!ドイトリの剛撃をよけることはできずステージの端まで吹き飛ばされていく!!これは――』


 マシラがステージの端まで吹き飛ばされると、そのまま砂場に体のほとんどを埋める。そして数秒後、マシラの体は光の粒子となりステージの膜へと吸い込まれていった。


 それはつまり――


『勝敗が決しました!!勝者!!“剛武”ドイトリ選手!!!』


 ワァアアアアアアアアア!!!


 リティシィの宣言で観客が沸き立つ。


『それにしても、途中まではどちらが勝っても負けてもおかしくない試合でした。私としては―――』


 リティシィの感想がコロッセオ内に響く中、貴賓席内では、大勢の視線がある一点に向く。


「………………」


 セレナは視線をステージに向けたまま、完全に停止していた。


「ん~~お~~い~~~」


 レオネがセレナの前に出て、様子を確認するが、セレナはピクリとも動かない。


「放っておけ、いずれ回復するだろう」

「いいの?」

「……本格的に移動するまでにもとに戻ればよしとする。それよりもだ――」


 視線をテンゴへと向ける。


「ドイトリを殺すなよ」

「……わかっている」


 テンゴは今すぐにでもドイトリに攻撃を仕掛けたいと言うほど凶悪な表情をしていた。もちろん原因はマシラが負けたこと、明確にはその死に様を見てしまっことにあるようだが、これも試合であるため仕方のないことだった。


「だが、俺との試合でその鬱憤を晴らしてはダメだとは言わないな」


 テンゴの言葉に肩を竦めて答える。


 そしてしばらくすると貴賓席の扉が開く。


「おぉ、マシラ、うん??」


 扉から入ってきたのは先ほど戦っていたマシラで、貴賓席に入ると挨拶なしでテンゴの膝に座り、胸元に顔を埋める。


「しばらく慰めろ」

「……わかった」


 テンゴもマシラの言葉に反論することなく、その頭を優しく撫でる。


 その様子に獣人陣営はまたかという風に呆れた表情を見せた。


「それよりも、このまま、ここにいるつもり?」


 テンゴとマシラを一瞥すると、クラリスが聞いてくる


「確かに、時間があるが」


 最終日は二回戦目が早い時間に行われ、二回戦目と三回戦目の合間が空いている。


「ん?この後の予定は俺たちと会食だったはずだが?」


 こちらの会話を聞いていたのかイグニアが反応する。


「ああ、その通りだ」


 昨夜の襲撃の後、俺はユリアから昼食時、イグニア達と共に会食を行う予定を入れていた。


(ちょうど聞きたいこともあるからな)

「ふぅん、おいしい店かしら?」

「ああ、味は保証するぜ」


 それからの話だと、イグイアは毎年必ず一回は顔を出すほど入れ込んでいる店だと言う。


「では、マシラさんも帰ってきたことですし、移動することに致しましょう」


 ユリアのその言葉が出た、数分後、この貴賓席から人の影はなくなるのだった。



















 総勢十数名、護衛を加えれば50名にもなりそうな集団がコロッセオを出ると当然目を引くこととなる。そのため利用できる場所は限られており、今から行く場所は完全な貸し切りになっているとのこと。


「――ということだ、肩ひじ張らず、自由に食っていいぜ」


 コロッセオの近くにある高級レストランにて、イグニアが、グラスを掴みながら、全員に宣言する。


「おっ、まじで?」

「ああ、まじだ」


 アシラが思わずという風に聞き返すとイグニアは何てこともない様に聞き返す。


(本来は建前・・だがな)


 自由に食っていいと言うのは当然、最低限の食事マナーを守っていればという言葉が隠されていた。


(まぁ、それゆえの配慮なのだろうが)


 レストラン内ではいくつかのグループに分かれて、テーブルを囲っており、その組み合わせはそれぞれが迷惑になりそうかどうかだった。


「それでは、乾杯」

「「「乾杯」」」


 イグニアの音頭でグラスを鳴らし、その後料理が運ばれてくる。料理はフルコースで出されるような形ではなく、それぞれ注文したい物を注文する形式の物になっている。そこらへんも獣人側に配慮した結果となっていた。


(さて、イグニアは何を聞きたいのか)


 グラスを傾け終えると、そのままウェイトレスに注文をして、料理が運ばれてくるのを待つ。


 当然その間は俺とクラリス、アルベール、イグニア、ユリア、ジェシカで話を続ける。


「しかし、彼らがあそこまで突き進むとはな」


 イグニアが会話の途中、テンゴ達に視線を向ける。


「意外、とは言わないがな」

「そうね、彼らはアルバングルで頂点とも呼ばれている。クメニギスと戦争していたことも考えれば弱いわけがないわね」


 俺とクラリスもテンゴ達を見ながら、そう口にする。


「なら、バアルとそこの側近も出場していれば同じような結果になったのかどうか、非常に気になるが」


 イグニアの視線が自分とリンにも向く。


「それならばイグニアも出れば同じぐらいまで行けるだろう?」

「そう思いたいがな、バアルの手勢の平均を考えれば何となく、俺の方が劣っているように思えてな」

「それは無いと思うけど、はむっ」


 イグニアの言葉に返答しようとすると、後ろから声が聞こえてくる。


「レオネ、立ちながら食べるな」

「なら、一緒に食べよ~~」


 レオネは骨付き肉を片手で持ちながら、俺に問いかけてくる。


「済まない、イグニア」

「構わん構わん。こっちに来て数か月だろう?ならグロウス王国の作法など求めないぜ。それに言ってしまえば手食はネンラールの当然の文化でもあるからな」

「そういえばそうだったな」


 レオネの態度について謝罪するがイグニアは問題ないとばかりに笑う。


「あ、あの」

「ん~~なに?」

「その、耳、尻尾、触っていいですか」


 いつの間にか、レオネの横に立ったジェシカが、なぜか手をワキワキとさせながらレオネに問いかける。


「ん~~ま、男じゃないなら、いいよ~~」

「あ、ありがとうございます」


 レオネの尻尾がジェシカの目の前にて振られると、ジェシカはおっかなびっくりに触る。


「もふ、もふ」

「ん~、くすぐったいからあんまりね~~」

「もふ……もふ」

「聞いてない……バアル~~」


 ジェシカが夢中になり、レオネの尻尾をいじっているとくすぐったいのかレオネが助けを求めてくる。


「許可したのはレオネだ。自分でなんとかしろ」

「え~~、でも聞きそうもないんだけど」


 遂には尻尾に頬ずりしているジェシカを見てレオネは呆れた表情をした。


「ジェシカってこんな奴だったか?」

「さぁ?」


 そしてイグニア側もジェシカの行為に目を丸くしていたのが、この昼食で一番印象に残ったのだった。


「そういえば、聞きたかったのだが、オーギュストとはどう知り合ったのだ?」

「まぁ古い知り合いだな」


 事実そうなのでこうとしか答えられない。


「そういえば、オーギュスト殿の目的はバアル様との再戦だと耳にしたのですが」

「その通りだ」


 オーギュストの話を聞いていたのは俺以外にも多くいる、それを考えればここでごまかす意味はない。


「ほぉ、勝ったのか」

「一応な……しかし助かった。あの『戦神ノ遊技場』が一般開放されていれば、即座に戦うことになっていたかもしれない」


 もしネンラール王家が『戦神ノ遊技場』をあのコロッセオ内にて一般開放しているのなら、俺はオーギュストと即戦うことになっていたかもしれない。


「それは無いでしょう」

「なんで~~?」


 ユリアは一般開放が無いと言い切るとレオネが疑問を投げかける。


「盗まれるの?」


 レオネが肉を呑み込むとユリアに問いかける。


「確かに窃盗という可能性も否定できませんが、それ以上に費用・・が掛かり過ぎます」

「費用?」


 レオネがユリアの言葉に首を傾げる。


「ええ、さすがにあの規模で魔具を発動させるとなると相当量の魔力が必要になりますから」


 そこからユリアは説明する。


 魔具である『戦神ノ遊技場』を発動させるにあたって、当然魔力が必須条件となる。ただ、問題なのがその量だった。


「今回のように都市全体にあの場面を見せたり、連日発動するとなると、おそらくは魔石換算すれば金貨数千枚が大会を通じて必要になるでしょうね」

「……わぁお」


 人が死なない場を作り出せるとなると当然、その効果に見合う魔力が消費される。人を雇い補充するのか、それとも魔石を多く用意するのかはわからないが、消費する量を考えればその換算もおかしい数字ではなかった。


「だから気軽には開放できませんね」

「ああ、俺も聞いた話だが、どちらかと言えば多少赤字になるくらい、アレは割を食うらしいからな」


 ユリアとイグニアがそう締めくくるとレオネは納得の表情を浮かべる。


「で、バアルに聞きたいことがある」

「この流れで言うとオーギュスト絡みか?」

「その通りだ」


 そういうとイグニアは真剣な、それでいて好戦的な視線を向けてくる。


「バアル、オーギュストが悪魔・・だということは本当か?そして、お前は悪魔と取引・・・・・をしたか?」

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