第468話 荒れる気配
ホテルのラウンジで俺は三人と面会している。
「それで、用件があるだろうウェンティの話を聞こう」
「と言っても、用件らしい用件って、どう考えてもウェンティしかいないけどね」
俺達のほかに横にいるロザミアがそう言いながらおどける。
「それも、そうなのよね」
ウェンティは少女の姿で頬に手を手て、二人を見ながら馬鹿な子供を見るような目になる。
「いや、私はバアルの傍に居れば
「ワガハイは再戦前に、二人によって摘み取られないか心配してきたのである」
「するわけないわ」
「したら振り出しだ」
何とも三人は和気藹々とした雰囲気の中、会話を続ける。
「……正直意外だ。お前らのことだから、それなりに仲は悪いと思っていたんだが」
予想ではそれなりに親交はあるが、友人とは言えない関係だと判断していたのだが、そうではないようだ。
「いろいろとあるのよ。
ウェンティは知れだけ告げると胸の前で手を合わせて話題を変える。
「さて、私の要件だけど、明日にはこの国を出るから、今回はその挨拶なの」
「それはまた、本戦を最後まで見て行かないのか?」
「結果はほとんど見えているから必要ないわ。もちろん絶対とは言わないけど」
ウェンティは本戦の結末がどうなるか、ほとんど推察がついているという。
「なるほどな、ちなみにどこに帰る?」
「ドラキュラでもそれは教えられないわ。もちろん、私の物に成るなら別だけど」
ウェンティはそう告げると両手を広げて、赤子を抱きしめる母親の表情で待ち構える。
「残念ながらそのつもりはない」
「つれないわね。そう言うことだから、今夜は酒の席でドラキュラと語りあかそうと思って」
「こちらをどうぞ」
ウェンティの言葉で背後に控えているバルードがいくつかのドライフルーツや燻製肉、何本かの酒瓶をテーブルに置く。
「私の農場で育てた最高のものよ、ほら、食べて食べて」
ウェンティはこちらに食べ物を勧めながらバルードに酌をしてもらう。
「なら、私もいろいろと出そうか」
「ワガハイもと言いたいが、残念ながら手持ちがないので、これで手を打ってほしいのである」
ダンテは以前の『亜空袋』から何やら様々な珍品を取り出して、オーギュストはなにやら懐から黒い玉を取り出す。そしてそれを見てウェンティもダンテも問題ないと黒い玉を受け取る。
「……俺も何か出した方がいいか?」
予期していない宴なので、残念ながら今の用意はなかった。
「ドラキュラはいいわよ」
「どちらかというと歓待される側だね」
「うむ」
三人とも俺がなにも持参していないことに文句はないという。
「なら、今回はこの場所ということで納得してくれ。おい」
「なんでしょうか」
「支配人にラウンジを借りると告げてきてくれ」
「かしこまりました」
騎士に伝言を預けたあと、ホテル側から快くこの場所が貸し出されたことで急遽宴の席が決まった。
「それにしても、バアルは最終日までいるつもりなの?」
それぞれが酒とつまみを味わい、様々な話で盛り上がる中、ウェンティがこちらを見て問いかけてくる。
「ああ、その予定だが」
「……気を付けなさいね。この国少し不穏だから」
ピクッ
ウェンティの言葉で酒の気が引き、本格的に脳が動き出す
「あら、その様子だと何か知っているのかしら?」
「……そっちの把握している事情と同じかはわからんが」
「ふぅん、じゃあ、勝ち残った選手が今夜襲撃されることは?」
「可能性は高いとは聞いている」
ルナから襲撃がある
(しかし、ルナとウェンティが襲撃を予測したということはほぼ確実に起こると思った方がいいな)
ほんの、ほんの少しだけ酒を口の中で含み、味を回しながら様々ことを考える。
「ダンテ、動いてもらえるか?」
「ん?私かい?」
「ああ、俺の食客になる予定なら手伝ってくれ」
「そういわれると、いいよ」
ダンテは最初に渋りそうな表情をして、すぐさま笑顔で快諾する。
「……気軽に言った手前なんだが、安請け合いしていいのか?」
「ああ、というか、ここいる全員、バアルを守りに来ているけど?」
ダンテはそういうと、二人に視線を向ける。
「そうなのか?」
「その通りよ」
「であるな」
ウェンティとオーギュストはダンテの言葉を否定せずに肯定する。
「感謝する。だが、そのうえで聞きたい、それは俺だけか?」
「もちろん」
「であるな」
二人の返答を聞いて、やはりと思う。
「なら、頼みがある。守るのを俺から、このホテル内にいる宿泊客に変更してほしい」
そういうと、二人とも、目を白黒させる。
「ああ、そうね。ドラキュラはお客さんを連れてきているんだったわ」
ウェンティはそういえばそうだったとばかりに言う。
「クイント、問題ないわね?」
「は~~い」
ウェンティが声を掛けるとバルードの横から突如として声が聞こえる。
「その少年がか?」
バルードの横に現れたのは、銀髪を切りそろえ、品の良い服を着ている、赤い瞳を持った子供だった。事情を知らぬ者が見ればいい所の坊ちゃんという印象を与えるだろう。
「そうよ、たぶんバアルの手勢だと誰も勝てないんじゃないかしら?」
「……だろうな」
力量を読む力がない俺でもわかるほど、クイントは異様な雰囲気を放っていた。
「一応聞くわね。捕縛した方がいいかしら?無駄だと思うけど」
「無駄とはどういう意味だ?」
「なら、見せた方が早いわね。クイント数体は捕縛しなさい」
「了解です」
急なオーダーなのに対してウェンティの言葉だからかクイントは簡単に了承する。
「では、クイント」
「お嬢様~ご褒美が欲しいです~~」
「なら、こちらに来なさい」
クイントがウェンティの傍に来ると、ウェンティはクイントの頭を撫でる。
「お願いね」
「わっかりました!!!」
ウェンティからのなでなでで簡単に上機嫌になったクイントが宙に溶けて消えていく。
「私の出番はないな」
「ワガハイもである」
二人はこれで何も問題ないと判断して、再び、酒やつまみに手を伸ばし始めた。
「それにしても、ダンテが食客になるのね」
「傍に居るのなら、それが早いでしょうから」
「それもそうね」
ウェンティとオーギュストはダンテの行動を聞いても何も言うことは無かった。
「おい、今、外にいる奴らを呼び戻せ」
「かしこまりました」
(しかし、思わぬところで襲撃の件について解決したな)
ウェンティというよりもクイントの働きにより、ホテル内が安全圏となったため、それぞれを呼び戻すように騎士たちに通達する。
「さて、ウェンティ、この国が不穏だと言うことについてもう少し聞きたいのだが」
「話したいのだけれども、そうもいかないの。だけど私の経験上、こういった雰囲気が訪れた国は確実に大きく荒れるのよね」
ウェンティはそう言って、酒で口を塞ぐ。
(これ以上は引き出すのは難しそうだな)
元から喋るつもりがなさそうなので、これ以上は口を割らないと判断して話題を変える。
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