第434話 初ステージの変化
昨夜襲ってきた暗殺者について俺はマーモス夫人を動かし終えると、貴賓席に戻ることになる。
「遅かったわね」
貴賓席に戻ると、クラリスがからかうような笑みでそう言ってくる。
「仕方がない。それよりも本戦の方はどうなっている」
「あと少しで始まるところ、ほら」
自分の席に座り、クラリスの指さす方向を見る。
『さ~~て、やって参りました!!本戦三日目!!いや~本日もまた来ましたね~~、そして遂に―――』
クラリスが指し示す先では実況役のリティシィが今日も元気に声を上げていた。
「しかし、テンゴは此処にいていいのか?」
貴賓室を見渡してみれば、そこにはテンゴの姿もあった。
「ああ、アギラに丁度いい時間で迎えに来ると言われたからな、問題ないだろう」
テンゴはそういいながら、テーブルに置いてある果物を口にする。
「しかし、今日はバアルの手勢ばかりだな」
テンゴが全く気負った様子がないのを確認し終えると今度はイグニアから話しかけられる。
「テンゴにアシラ、そして新たに近くにいる、そいつ」
「あ?」
イグニアの視線はテンゴとアシラを巡り、そして最後には壁際に寄りかかっているヴァンに向く。
「どうやって口説いた?」
「成り行きに任せただけだ。それよりもだ」
軽口を叩く、イグニアに強めの視線を送る。
「暗殺者について、そちらで確認していることは何かないのか?」
そう言うと貴賓席の雰囲気が引き締まる。
「その問いをするということは外れだったのか?」
「本人の言葉と様子を見る限りでは、白だった」
「それで見逃したと?破滅公にしては優しすぎると思うが?」
イグニアに言葉に肩を竦めて答える。
「今日の試合の終わりまでに俺達を襲撃した者と証拠を掴めと脅しておいた。出なければ、恐ろしい目に会うだろうな」
「バアル様のですか、それは怖いですね」
俺とイグニアの会話にユリアが加わり始める。
「ユリア、確認だが、暗殺者に心当たりはないな?」
「私には今一度ですか、少々心外ですね」
ユリアは頬に手を当てて、ため息交じりにそういう。
「心当たりがないのなら、それでいい」
「誰を狙ったのかわからないですが、たとえそれが誰にしろ、外交上の問題に発展しますね」
狙った先が、イグニアでも、ユリアでも、ジェシカでも、俺でも、果てはクラリス、獣人だとしても、結局は問題にしかならない。
「こちらでも調べている最中ですので、何かわかればお教えしますよ」
「頼んだぞ」
コンコンコン
とはいえ、ユリア側に不利な情報があれば隠すのであろう、と思っていると扉がノックされる。
「テンゴ様、お迎えに上がりました」
「うっし!じゃあ行ってくるぜ」
扉の向こう側からアギラの声が聞こえてくると、テンゴは椅子から跳ね上がる。
「テンゴ」
「なんだマシラ?」
うきうきとしながら出口へと向かうテンゴをマシラは呼び止める。
「球を潰されないように注意しなよ。潰れたら、慰めないからな」
そう言うと、テンゴが少しだけぞっとした表情をする。
「嫌な部分を思い出させるなよ」
「あの、お急ぎを」
テンゴはもしそうなったらと考えるとげんなりとした表情をし部屋を出ていく。
「まぁ、気楽にやりな。最悪でも同じ女になるだけだ」
マシラはそう笑いながらテンゴを送り出すのだった。
(あれもあの夫婦なりのじゃれ合いなのだろうな)
マシラの出番は明日、先ほどの意地の悪い言葉かけはそのことに対する、不満でもあったのだろう。
そしてしばらくして、テンゴはグラウンドに姿を見せるのであった。
『それではやって参りました~~神前武闘大会本戦三日目一回戦目……少し長いですね、通算15試合目とでも呼びましょうか?』
リティシィの自問自答でコロッセオ内から苦笑の声がちらほら聞こえてくる。
『では、場も和まったことですし、両選手に入場してもらいましょう!!シード選手“破壊剛腕”テンゴ選手、そしてもう一つは一回戦を勝ち抜いた“破壊球遊”イーゼ選手!!』
そして呼ばれたことにより、グラウンドの入り口から、いつもと変わらないテンゴと、一回戦とほぼ同じ装備のイーゼがグラウンドに入ってくる。
「いけーーー!!テンゴさん!!!」
そしてその様子を見るや否や、手すりぎりぎりのところにいたセレナが応援の声を上げる。
「あの、兄さん」
「どうした?」
「セレナはなんで、あんなに金にがめついの?」
アルベールは問いかけると同時に視線がセレナの手に握られている券に向く。
「仕方ない。セレナはいまだに200枚強の借金を俺に抱えているからな」
「え!?……何がアレばそこまでの借金を」
現在残っている借金額の凡そを教えると、アルベールはセレナが何をやってそんな借金を負ったのか気になり始めた。
「気になるなら、調べてみるんだな。それよりもセレナ、観戦の邪魔だ」
「あ、はい、すみません」
こちらのホログラムへの視線を遮っていることを伝えると、セレナはすんなりと横にずれる。
『さて、それでは恒例のステージ変更のお時間で~~す』
リティシィの声で、視線をそちらに向ける。
『いや~一日目と二日目でステージに変化がないのは正直、見ていてつまらなかったです。ですが、ですがですが!今回は何かしらの変化があると思いたい!そして唐突ながらルーレットスタート!!』
リティシィは残念という表情を浮かべてすぐにルーレットを回し始める。
『さて、この時間は暇なので、最初の選手のお二人に聞いてみましょう。お二人はどのステージになってほしいですか?』
その言葉を共に、二人の元にフォーカスが当てられる。
「俺はどこでもいい」
「私も右に同じく」
『二人とも欲がないですね~~別に自分が得意なフィールドを答えても、結果は変わらないんですよ~~』
「「…………」」
リティシィの問いかけや言葉に二人は何を言うまでもなく、そのままの表情でいる。
『くぅ、無視されて悲しいですけど、同時にこれが実力者の姿でもあるので、何とも微妙な気持ちです』
リティシィの言葉を聞いて、コロッセオの観客のほとんどが呆れ顔をした。
そしてそんなこんなをしていると、ルーレットは止まり、フィールドが決まった。
『決まりました!!今回フィールドは『砂場』『砂場』に決まりました!!』
リティシィの声と同時にフィールドに変化が起こった。フィールドの石畳が端から粒子化していき、最終的には完全な砂場、違う言い方をすれば砂漠の一面の様に変化していった。
「テンゴに有利に働くか?」
「相対的に見れば有利だろう」
テンゴがステージの恩恵を受けるのか、気になっていると、イグニアが答える。
「そう言える理由は?」
「ん?バアル、お前、気付いていないのか?」
イグニアの言葉に肩を竦めて答える。
「そっちの御夫人は理解しているだろう?」
「ああ、今回の戦いは、油断しなければ十中八九テンゴの勝ちだろうな」
マシラもどうやらわかっているらしい。そしてイグニアも我が意を得たりとマシラの言葉を聞いて頷く。
「リンはわかっているか?」
「私はおおよそですね」
「私は見えているから」
「ちなみに私もわかるよ~~」
リンも何となく理解しており、さらには横から入ってきたクラリスとレオネも理解しているとなると、少しだけ気落ちすることになる。
そしてその後、着々と準備が進み、テンゴとイーゼがステージに乗り
『それでは15試合目開始ーーー!!』
ワァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!
本戦三日目の試合が開催しだした。
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