第414話 オーギュストの余裕

『怒涛も怒涛、ティラナ選手が押して押して押す!!オーギュスト選手はその場から動けない』


(…………動かない・・・・の間違いだろう)


 観客は盛大に沸いているが、それでもどこかで理解していた、ティラナが圧倒的に不利だと。


 ドドドドドドドド!!!


 今までよりも激しく砲撃が行われるが、そのすべてがオーギュストの触手に振り払われていた。


「さて、バアル、どう見る?」

「どう見るも何も完全に遊んでいるだろう?」

「だよね」


 ロザミアがオーギュストを観察しながら問うてくるが、答えは一つだった。


「なら、逆に聞くけど、ティラナが勝つ可能性があると思う?」

「それはわからん。あの魔具で何ができるのかもどんな手法を隠しているかも見当がつかない」


 今見せているのは赤、青、緑、黄、茶の五色のみの砲弾だが、それ以外の色も出せるかがわからないし、そのうえでそれ以外の攻撃方法があるのかもわからない。


「それも、そうだね。なら彼女がもう少しオーギュストの手札を晒してくれるのを期待しよう」

「そうだな」


 下手すれば俺自身が戦うことになりかねないため、ステージ上の挙動を見逃さぬようにすることとなった。














「はぁああああ!!」


 ドドドドド!!


 ティラナの無尽蔵ともいえそうな砲弾が、数十個オーギュストへと飛来していく。


 だが――


 シュン


 触手が振るわれた音が聞こえると、その数秒後すべての砲弾が破裂して、属性ごとに違う反応を見せる。赤は爆炎、水は爆水、緑は切断する風の繭、黄色は放電、茶色は固まる泥、とそれぞれの効果を与える。


「もういい加減にするである」


 さすがに単調過ぎたのか、オーギュストがティラナに向かって言葉を投げる。


「なに!?私がふざけているとでも言いたいのか!!」

「そうではないが、そうでもあると言うのである。いい加減、様子見・・・の砲撃はやめて、さっさと本気になってほしいのである」


 オーギュストがそういうと、どこからか、嘲笑の声が聞こえてくる。


「なんだ、気付いていたのか?」

「気付かないわけがないのである。一見がむしゃらに攻撃しているように見えたが、アレはブラフであろう?貴女の狙いは乱雑に砲撃することにより、ワガハイの対処の仕方を観察する、こんなところであろう」

「正解です」


 パチパチパチ


 オーギュストが予想を述べると、ティラナが構えを解くと拍手をし始める。


「見抜かれては仕方がありません。正直言えば貴方は不気味すぎるため、もう少し観察したかったところでしたが」

「ワガハイのどこが不気味だと言うのか」


 オーギュストはやれやれと首を振るが、おそらくこの会場にいるほとんどが肯定するだろう。


「では、紳士よ。次は本格的に行くぞ」


 そう言ってティラナが取った行動は先ほどと同じく、砲身をオーギュストへと向けて構えるだけ。


 ドドドドド!


 そしてその後の行動も同じで数多くの砲弾をオーギュストへと向けて放つ。


 これだけでは先ほどと同じように感じるのだが、それには意図があった。


 シュン


「ム?」


 砲弾を触手で打ち払うのだが、その後が違った、まず放たれた弾は水を広範囲に散らす。その後は茶色の弾が連続して放たれ、それが大量の泥を周囲に散らす。だがここで先ほどとは違う点が起きた。泥は固まらず水を吸い、寄り粘性を持つようになった。


「そこ!!」


 ドドド!


 次に、緑色の弾がオーギュストではなく、その周辺に当たる様に放たれる。地面に当たった弾がその場で風の繭となると、泥をより広範囲に飛ばし始める。そしてその泥が飛ぶ先には当然オーギュストがおり、オーギュストは全方向から泥を被せられることになった。それに対してオーギュストは触手の間に膜を張り、守るのだが、泥の量がが多かったのか、薄膜が泥まみれとなる。


 ドドド!


 今度は追撃とばかりに緑緑赤の順番で砲弾が放たれる。


 そして、その結果だが――


『おぉ!オーギュスト選手が大炎に包まれた~~それも先ほどとは比べ物にならない大きさと威力!オーギュスト選手は無事なのか!?』


 緑の弾が命中すると、その場に風の繭が生み出される。それを見ると次の瞬間には泥が飛ばされるのではないかと誰もが思ったのだが、メインはその後ろの赤い弾にあった。


 赤い弾が命中すると、炎が撒き散らされるのだが、炎は風の繭を飲み込むと一気に肥大化しオーギュストを簡単に包んでしまった。


「なるほど、組み合わせて使うのであるか」

「それだけではないがな」


 ビギ、ビギギッ


 二人が軽く会話を躱すと、どこからか何かが軋みだす音が聞こえる。そして大炎は消えていき、その場に残ったのが


「……なるほど、これが狙いであるか」


 オーギュストの現在を言うならば岩だった。オーギュストは自身を覆うように出した薄膜にはどこもかしこも泥が被さっていた。それらが大炎によって水分が飛ばされ、完全に固まっていた。


 ギシッ、ギチ


 乾いた泥により、完全に拘束されてしまった触手は何度が軋む様な音を上げるが、動く気配はなかった。


「ふむ、普通の泥ではないな」

「その通りです」


 さすがのティラナも説明する気はないのか、肯定だけして終わる。


「それでは仕舞にさせてもらいます」


 ティラナが大盾の後ろで何かを操作し始める。さすがに手元で何を行っているかわからなかったが、何かを取り終えると、ランスの手元に持ってくる。


『アレは……魔石ですかね?さすがにアレが何で、どういう用途なのかは不明です。だが何をしてくれるか、とても楽しみです!!』


 ティラナは手に三つの魔石を持っているのだが、それをもう一方の手元、ランスの根の部分に何やら差し込む。


「貴方の敗因は少々遊び過ぎたようですね!!」


 砲身が再び、オーギュストへと向くのだが、先ほどとは違う部分が存在した。


『おぉ!何をしたのかわからないが、ティラナ選手の魔具が色づき始めたぁ!!』


 ティラナの手元から砲身まで、まるで筋の様な、赤色、黄色、白銀色が浮かび上がる。そしてそれらが脈動する様に点滅していく。


「『砲属融合・天滅』」


 ティラナの言葉で砲身の前に金色の球体が出来始める。


「私の勝ちだ!!!」


 その言葉と共に金色の球体からは極太のレーザーが放たれると身動きが取れないオーギュストが光の中に飲み込まれる。


『ティラナ選手の大技が出たぁ!!!放たれた光の柱はオーギュスト選手を飲み込む~~アレは無事なのだろうか~~。だがそれ以上に眩しぃ~~』


 真っ白のレーザーにリティシィ含めて、すべての観客が目を細める。


 そしてレーザが収まると――


『す、すごい!予選に参加した皆さんはわかるでしょうが、ステージは生半可な攻撃ではまず壊れません。ですが見てください、この光景を!!』


 ステージではレーザーの通った部分は端から端まですべて抉れており、抉れた部分からは蒸気が上がっていた。ただ、光の膜は通り抜けることはできないのか、範囲はそこまでで止まっている。


『ここまでの威力がある攻撃は今大会初となります!今後、この攻撃よりも強大な攻撃は現れるのか~~、そしてオーギュスト選手ですが――』


 全員が飲み込まれたオーギュストがいた場所へと視線を向ける。


 そこにあったものは―――

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