第344話 騎士団採用試験
翌日、王都の門の前に多くの人の姿があった。
俺は一つの馬車の前でエレイーラと握手を交わしている。
「昨日はすまない、義妹と相性が悪いと思わなくてな」
「いや、謝罪は必要ない。誰しもが友達と言えるほど青臭くはないからな」
そんなおめでたいことを言っている馬鹿ではないため、合わない人間がいることぐらいは理解があるつもりだ。
「それじゃあ、今度、と言ってもいつになるかわからないが」
「そうだな。獣人の人員が揃い次第こちらから連絡を送る」
挨拶を終えると、移動し、今度はフィルクの馬車列に移動する。そしてその中でラファールの姿を探し出す。
「それではな、リーティーのことはくれぐれもよろしく頼む」
「こちらとしても気に掛ける。そこのところは安心してくれ」
ラファールは以前着ていた、神官服ではなく白金色の鎧の姿をしていた。そのため、握手を交わすのだが、感触が固くひんやりとしていた。
「それと、ソフィアの件はどうなった?」
「やや、グロウス学園と王都の教会の面々には渋い顔をされたさ。だが枢機卿が国の安全のためと言い張れば向こうは断れはしないさ」
ラファールの地位であれば無理やりと言えるようなやり方は可能だった。もちろん心証が悪くなるだろうが、それでも問題はほぼないだろう。
「だが、やはり、友達との別れはつらいようだな」
ラファールの声を聞き、ソフィアの方角に視線を送ってみると、そこにはオルドを除いたいつもの面々と別れの挨拶をしているソフィアの姿があった。
「仕方がない、それが宿命と言える」
「友達と出会いもあれば、別れもある、か」
ラファールが感慨深くつぶやくと、遠くの方から、出発するための鐘の音が聞こえてくる。
「それじゃあ、またな」
「ああ、息災でな」
その後、ラファールやソフィアが馬車に乗り込み、前の方から少しずつ馬車が進み始める。
そして馬車がすべて王都の門を通り過ぎると、見送りに来ていた人たちが解散する。
だがその中で、馬車の進む方角を見続けるアークの姿だけが残っていた。
「ふぅ~~これで終わり、と思いたいが、無理なんだよな~~~」
クメニギスとフィルクの馬車列を見送ってから二日後、王都からゼブルス領へと向かう馬車の中で父上は盛大にため息を吐く。
「新しい街壁の建設で、当分は休みなどありませんよ」
「……それはバアルもだろう?」
何とも憂鬱そうな表情をしながら、これまたやる気が削がれるような声でそういわれる。
「そうですね。それと確認ですが」
「ああ、すでに手紙は出している。ゼウラストに戻っているころにはすべての候補者が集まっているはずだ」
「そうですか、では帰ってから日程を決めて、早速
クメニギスと奴隷改変に伴う作業をアズベン家に一任し終えると、あと行わなければいけないのが、臨時研究所の設立、機竜騎士団の団員募集と訓練と運用、そしてアルバングルから奴隷に平和的に移動してもらうための案内人を出してもらうことぐらいだ。
「そういえばあの二人はどうした?」
「二人とも後ろの馬車に乗っています」
ロザミアもリーティーも俺らと共にゼブルス領へと向かっている。
「扱いはどうする?」
「ロザミアは借りる家を斡旋して、そこに移るまでは屋敷の一室を貸し出します。そしてリーティーは直接ゼウラストの教会に放り込むつもりです」
ロザミアはともかくリーティーは拠り所となる教会があるため、そこで生活してもらう。
「それで父上にお願いがあるのですが」
「
父上はお見通しとばかりに言いたいことの先回りをする。
「そうです。影の騎士団に頼んでもいいのですが」
「ゼブルス領内では私の方が
「はい」
俺が頷くと父上はすぐさま決断する。
「よかろう、こちらで手は回しておく」
「ありがとうございます」
「問題ない。ゼブルス家の管轄内ではこちらの目を光らせておく必要があるからな」
こうして二人の監視を取り決めた後も馬車は土を踏み鳴らしながら進んでいった。
ゼウラストの街の中心にはゼブルス家の面々が暮らす城館が存在している。もちろん一つの都市なだけあり、十分な防衛能力を備えている。そして城館では大きく二つに分けられている。一つが様々な文官や武官が出入りし、書類などが保管されている区画、通称行政区画。そしてもう一つが領主館と呼ばれる私的な目的で作られている生活区画だった。
そしてその行政棟では一つの大部屋に100人近い人員が集められていた。
ゼウラストに帰った日から四日間は、ロザミアに家を斡旋し、リーティーをゼウラストの教会に預け、採用試験ための準備を整えるために奔走していた。
そして五日目、俺は部屋を見渡し、全員が机に向かい、準備が整っていることを確認すると合図を出す。
「では始めろ!」
その言葉と共に俺は机にある砂時計をひっくり返す。そしてこの部屋にいる者は全員が机に置かれている紙をひっくり返し、ペンを取り始める。
「さて、付き合わせてすまないな」
「ええ、わかっているわよ」
部屋の四方の壁には、俺が用意した監視役がそれぞれ十名並んでいる。そして正面に俺と護衛のリン、そして魔法監視役にクラリスが座っていた。
(魔法によるカンニングには、魔力が見えるエルフが一番だな……さて、平均点はどれぐらいになるだろうか)
魔法に関してはクラリスに任せ、部屋の中を監視しながら、どれぐらいの点数になるかを予想し始める。
「1」
「「「「「「「「「「!!??」」」」」」」」」」
砂時計が完全に落ち切ると、回数を宣言しながらひっくり返す。
(どうやらあまり、いい点数とは言えなそうだな)
一回目だというのに、ほとんどの受験生は驚きを貼り付けた顔をしていた。
そしてその後も砂時計を何度もひっくり返し、そのたびに何回目かを宣言していく。
「そこまでだ。全員ペンを置け」
そして12回目の砂時計はひっくり返すことは無く、合図を出す。合図を聞いて全員が動きを止める。ここで指示を聞かずに動いてしまえば、せっかく飛空艇に近づけるチャンスを不意にすることになると理解しているのだろう。
そして全員がペンを置くと、後方にいた監視員が全員分の答案を回収していく。
「それでは明日、個別での面接を行い。5日後に合否の通知を出す」
いかに筆記で高得点をとっても、飛空艇を運用していく上ではコミュニケーションが欠かせないため、こちらも調べる必要があった。
「それまでは申告した宿に滞在していてくれ」
この言葉を最後にここにいる全員が解散していった。
その後、翌日に100人に渡る人数の面接を行う。その時にコミュニケーションに難がありそうな人物は容赦なく落選させ、残りの4日で筆記の点数と面接のコミュニケーションの面で合否を出すこととなった。
そして採用試験から五日後。
「それでは、これを受験者に届けてくれ」
「かしこまりました」
俺は自室にて、100通の合否が書かれた手紙を手配した文官たちに渡す。あとはこれが行き渡り、向こうが承諾すれば晴れて機竜騎士団の団員となれる手筈だ。
「忙しそうね」
「あぁ、本当にな…………」
採用試験から五日間はとにかく忙しかった。なにせ採用試験だけにかまけているわけにもいかない。公爵家の長男としての公務や、イドラ商会の運営、そしてロザミアの希望する研究所の割り当てと建設予定の作成、そして機竜騎士団の訓練手順の作成。また体を鈍らせないために、手の空いているものと模擬戦したり、アシラから棍術の指南を受けている。
「肩でも揉んであげましょうか?」
「そこまで年は取っていないつもりだ」
クラリスが何ともいたずら笑顔で提案してくるが、何か裏がありそうで断った。
「それで?いつから、本格的に動き始めるの?」
「一応の期間として一か月の猶予を与えている。さすがに合格してすぐに働けと言うのもひどい話だからな」
こちらとしても寄宿舎の手配や教材の準備、訓練用飛空艇の準備など、様々な物の準備が必要だった。
「そう、それでこれからどうするの?仕事も終わったようだし、遊びにでも行く?」
「残念ながら、まだ終わっていない。リン、マシラがどこにいるかわかるか?」
傍に居るリンにマシラの位置を確認する。
「現在は訓練場にいます。同時にエリーゼ様とアルベール様、ラインハルトさんもいますね」
「じゃあ、そこに向かうとしよう」
「……なによ」
立ち上がり、マシラの元に行こうとすると、クラリスが何やらぼそりと呟いた。
「どうした?」
「なんでもないわよ。それと私も行くわ」
それからリン、ノエル、そしてクラリスを連れて訓練所に移動する。
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