第311話 違法乗船
そして翌朝となり、俺はリン、ノエル、エナ、ティタと共に飛空艇でグロウス王国に戻る準備を始めるのだが……
「い~や~だ~、私も行くーーー!!」
レオネが飛空艇の上で張り付きながら駄々をこねている。
「なぁ、レオネ」
「やだやだやだ!」
昨日、強権で黙らせた反動かこちらの話を聞こうともしない。
「あの、どうしますか?」
リンもレオネのあの姿を見るのは初めてで対応に困っている。
「そうだな……ノエル」
「なんでしょうか?」
「縛って引き剝がせ」
「わ、わかりました」
ノエルは言葉に従い、作り出した糸で飛行の邪魔となっているレオネを捕まえようとする。
だが当のレオネはと言うと。
「とう!」「は!」「よっ!」
ケートスの上を走り回り、迫りくる糸を回避する。
「ははは!帰りたければ私を連れていくのだ~」
レオネは笑いながらノエルの糸を避け続ける。
「……リン」
「はい」
高笑いしているレオネをよそにリンに声を掛ける。リンはこちらの意図を読み、一度だけ腕を振るう。
「なは、っな!?」
糸をよけるために飛び回っていることが仇となる。レオネが軽く跳ねるとそのタイミングで強風が起こり、レオネが浮き上がり続ける。そしてそのタイミングを逃すことなくノエルの糸がレオネに巻き付けて、簀巻きのような状態となった。
「はぁ~なんでこんなことで労力を使わなければいけない……」
俺の言葉にリンとノエルが頷く。
「糸はどれくらい持つ?」
「私が切り離さない限りいつまでも。そして切り離しても壊さなければ切り離しても数分は持ちます」
「なら、飛空艇が飛び立つまでそのままにしておけ」
もし中途半端なタイミングで糸が消えてしまえば、先ほどの二の舞となってしまう。
「なんか……すまない」
すまなそうにテンゴが謝るほどレオネの行動は醜態と言える代物だった。
その後、完全に身動きが取れない状態になったレオネがマシラの脇に抱えられて、ようやく出発の準備が整う。
「それじゃあ、あとは頼みます」
「ええ、若様の期待に応えて見せますよ」
「ディライ殿も」
「ええ、ご無事な空の旅を」
「レオン、いろいろと頼むぞ」
「おう、俺は防衛、フェウス言語、素材集め、あとは親父の手伝いをするだけだ」
「それだけでもかなり忙しくなるぞ」
「はは、望むところだ」
最後にそれぞれの指揮の長に挨拶を終えると飛空艇に乗り込む。
「ん゛~~~~ん~~~」
「諦めろ、一か月後には招待してやるから」
なんとも諦めが悪くもがいているレオネに向けて告げるが、その返答は不満げな表情だった。
飛空艇に乗り込み終わると、ノエル、エナ、ティタだけは客室に向かわせて、俺とリンだけはコックピットに入る。
「さて、やるべきことを大雑把に上げても当分は眠る時間にすら困るな」
「ご愁傷さまです」
リンのその言葉に苦笑いを返しながら、いくつかのスイッチを押して離陸を始める。
離陸を始めて数分立つ頃、十分な高度を保ち、帰還すべきグロウス王国の方角に進みだすのだが
ドン!!!
一つの震動がケートスに響くのだった。
〔~レオネ視点~〕
「ん゛~~~~ん~~~」
私は抗議の声を上げるが
「諦めろ、一か月後には招待してやるから」
バアルはなんてこともなくそういい、あの不思議な乗り物の中に入っていく。
フォン、フォン、フォン
そしてしばらくすると、翼?の様な何かに埋まっている丸い羽根のような何かが動き始める。
「さて、レオネ、どうする?」
私を抱えているマシラおばさんがなんとも悪い笑顔で聞いてくる。
(ふっふ~、これで諦めるとは片腹痛いよ~~)
視線でそう伝えるとマシラおばさんは何度もうなずく。
「なら、どうする?」
その問いかけられると同時に私を縛っている糸が崩れていく。
「そりゃ~当然追いかけるよ」
「どうやって?」
「ん~~と、これを使って!」
服についてある隠しポッケに手を入れて一つの石を取り出す。
「それは?」
「くすねておいたやつだよ~」
「
「うん」
これはバアルが自分の縄張りを見て回っていた時に拾ったものだった。
「もう、どうすればいいかわかるよね?」
「仕方ない、娘の様に思っているお前の頼みだ、力になってやるとしよう」
「ありがとう!マシラおばさん!」
私は抱き着き感謝の意を表す。
「だが、あの高さとなると私じゃ少し力が足りないな」
「え~~」
マシラおばさんに不満の声を上げるが、空に浮かんだ姿が既にかなりの小ささになっていることを考えればどうなるかも理解できる。
「しゃあない、テンゴ!」
「ん?どうした」
「レオネをあの船まで飛ばせ」
「……はぁ?」
テンゴおじさんはマシラおばさんのいきなりの命令で困惑している。
「さすがにこの高さだと届きようがないと思ってな」
「確かにマシラの力だと届かない、そして俺なら届くが……レオネをバロン達に何も言わずに送り出すつもりか?」
テンゴおじさんの視線が私に向く、そしてそのあとマシラおばさん、最後に兄ぃに向く。
「レオンはいいのか?」
「……下手にクメニギスからグロウス王国へ向かうよりはましだろう」
「バロンとテトにはあたしから説明してやるからさ、頼むよ」
「……はぁ、わかった」
「ありがとう!!」
大声で感謝を述べると、テンゴおじさんは笑顔になる。
「ほら、乗れ」
「うん!」
テンゴおじさんは手足を【獣化】すると、私を乗せられるほど大きな掌をこちらに差し出してくれる。
私は同じように体の各部を【獣化】させて掌の上に乗ると、手にしている飛翔石に力を流して、飛び立つ準備をそろえる。
「じゃあよろしくね」
「おう」
テンゴおじさんはまるで地の上にいるように掌を水平に保ちながら体を捻り投げる力を溜める。
「行くぞ!!」
「おうよ~」
私の返事を聞くと、体に尋常じゃない圧力がかかり投げ出される。そしてテンゴおじさんの手のひらから飛び立つとき、同時に私からも掌から飛び出す。
(ほぉ~気持ちいいーーー!!)
異常なほどの速度で空に放たれる。草原を全力で駆ける時よりも、ものすごい風を感じる。
(ふっふ~逃がさないよ~)
風に慣れてきたころ、目をしっかりと見開くともうすぐそばにあの不思議な乗り物があった。
(バアルから今まで感じたことがない楽しそうな予感がプンプンとするからね~そんな獲物を逃すわけがないね~~)
今までに感じたことがない予感をバアルから感じている。そんな獲物を逃す選択肢なんてありえなかった。
(少し傷つくことは勘弁してね~~)
ドン
爪を立てて乗り物の壁に張り付く。
(逃さないよ~~)
衝撃が完全に収まると、爪でほんの少しの突起を頼りに徐々に上に移動していく。
「んしょ、んしょ、ブルブル、空の上は寒いね」
あと少しで乗り物の背に立てる位置まで来る。
(あ~寒い~~……眠い~………)
体中に力を留めて寒さに耐えようとしているのだが、徐々に体の力が抜け始める。
「ぁあ~ここまで来たのに~」
次第に体から力が抜けていき、腕が震え始めてしまう。
カッ
そしてほんの少しの突起にかかっていた爪が外れてしまう。
再び爪を掛けようとするが腕に力が入らず、体が自然と壁から離れていく。
(あ~~助けてほしいな~)
ガッ
あと少しで背から落ちそうになると手を掴んでくれる腕があった。
「なんでこんなところまでついてくるのか俺にはわからん」
「はは~それは私がついていきたいからだよ~」
その声を聞くと安心することができた。
「ねぇ、寒いから中に入れてよ~」
「わかっている、ここで凍死されても俺が困る」
その言葉を聞くと同時に抱き上げられて横に抱えられる。
「とりあえずゆっくり寝ておけ」
「そうするよ~できれば
「懲りない奴だな」
「まぁね~……」
私は心地よい暖かさと震動を感じながら眠りに落ちていった。
〔~バアル視点~〕
リクレガから離陸して数分が立つ頃~
ウーウー!!
コックピット内でアラートが鳴り響く。
「どうした?」
『緊急事態発生、何かしらの飛来物が接近中』
「画面に出せ」
『了解しました』
画面に飛来物の映像が映し出されるが。
「……レオネ?」
「え?」
俺の声にリンが驚く。
「えっと……どうしますか?」
「さすがに避けて地上に落とすわけにはいかないだろう?」
幸い一直線にこちらに飛んできているため、動く必要はなかった。
「迎え入れるしかないよな」
「ですね、また降りてレオネを置いても同じように追ってくるでしょうし……あの執念なら、下手すればクメニギスを経由して陸路でやってきそうです」
リンも俺と同じ危惧をしていた。
「だよな……迎撃はするな」
『了解しました。受け止めやすい態勢を維持しましょうか?』
「頼む」
飛空艇が飛んでくるレオネを安全に受け止めやすい用意体制を整える。
『警告、対処の速度が低下しません。何かしらの影響で空気抵抗が作用していないと推定されます』
「つまり?」
『対象を受け止める際に強い衝撃が生じます』
ドォン!
警告のすぐ後に飛空艇が揺れ動く。
「この高さまで投げ飛ばされて、この衝撃が」
『その言葉に肯定、幸い壁を破壊するには至りませんでいたが、衝撃により、船内に何かしらの損害を受けている可能性があり』
「文句を言いたいが、言っても無駄だと分かっていると何とも腹立たしい……飛行しながらシステムを再チェックしろ。そしてレオネがどうしているかも映像に出してくれ。まさか落下していないよな」
『システムの損傷の有無を確認します。対象に関してですが、現在は外壁に張り付いている模様』
映像に壁に張り付いている映像が映し出される。
「はぁ~上部にあるハッチを開けろ、迎えに行く」
『かしこまりました』
(本当になんで追いかけてくるのやら)
その後、ノエルに船室の一つを用意するように伝えてからリンと共に上部のハッチから船外に出てレオネを迎えに行く。
その後は落ちかけていたレオネを抱えて船内に戻る。気絶するように眠っているレオネの体は冷えているためすぐさま船室に向かう。
「ノエル、準備はできているか?」
「はい」
船室の一つに入ると、そこではノエルがベッドメイキングを行っていた。
「暖房をつけてくれ」
「わかりました」
部屋に備え付けている暖房のスイッチを押すと、部屋の温度が少しづつ上昇していく。
「ん~~~ふぁあ~~~」
心地よい温度になったのかレオネは気持ちよさそうな声を出してベッドの中で寝やすい体勢を取り始める。
「すまんが少しの間、看病を頼む」
「かしこまりました」
けが人とも呼べるレオネの世話をノエルに任せて、俺とリンはコックピットへと戻る。
「システムの再チェックは終わったか?」
席に着くと、先ほどの衝撃で起きたであろう問題を把握し始める。
『飛行機能には何ら影響はありませんでした』
「それ以外は?」
『緊急時に使用するいくつかのシャッターが機能不能です。シャッターに歪が出来て動かなくなったか、動かすためのモーターに何かしらの影響があるかと』
飛空艇内では何かが起こった際に区画を封鎖できるようにいくつかのシャッターが仕込んである。今回の衝撃でそのいくつかが機能していないとのこと。
「(それぐらいなら問題はないが……)ほかはあるか?」
『システム上の問題は以上となります。ですがシステムで感知できない場所に損傷がないとも言い切れません』
「それもそうだな……衝撃を受けた区画を閉鎖しろ」
『了解しました』
画面で衝撃を受けた部分とその周囲で生きているシャッターが機能して、その部分が封鎖される。
「そこまでする理由がおありで?」
リンはこの対応に少し疑問を感じている。
「一応な、衝撃を受けた際のいいサンプルになるからそのまま残しておきたい」
「ですが、これから損傷が広がり、飛行困難になった場合はどうするのですか?」
「そうなったらどうしようもない。ここには工具もないし、代替できる部品も最低限しかない」
最低限の換えの部品を持ってきてはいるが、壁を張り替えるなどの部品はなかった。
「もう一度確認だが、飛行機能に影響はないんだな?」
『はい、仮に衝撃を受けたであろう部分が完全に破損しても飛行能力に問題はありません』
画面に衝撃を受けた区画が赤くマークされる。そして飛行能力に重要なケーブルや機械のマークが様々な角度で示されるが、かすりもしていなかった。
「と言うことで、ひとまずの問題はない。リンの危惧もわかるが、まだ心配か?」
「いえ、問題がないというなら何も言うことはありません」
リンも対応に納得したということこの件は終了した。
リクレガを飛び立ってから三日が経つ頃、ようやくグロウス王国へと帰国することとなった。
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