第308話 不意の遭遇

 その後、村に入り人伝にファルコの家を突き止め訪れる。


「ハーストさんの頼みじゃ断れないな、それで俺に何をしてほしい?」

「少し案内してほしい場所がある、そこに連れて行ってほしい」


 ファルコは快くこちらの頼みを聞き入れてくれる。そして目的の場所にも案内してもらうことになった。
















 その後、飛空艇をノエルに任せて空を飛び、目的地に向かう。


「……本当に飛べるんだな」


 ファルコがしみじみと言っているのには訳があった。


「いや、これはリンの力に頼り切っている。俺とレオネだけならこんなことはできなかった」


 俺達はファルコの後ろを飛んでいるのだが、全員がファルコの力を借りずに飛んでいた。


「不自然な風の流れがあるが、それがその女の力か?」


 ファルコの言う不自然な風の流れとはリンの力のことだ。なにせ俺とレオネは飛翔石を使い浮かび上がることはできても自身で自由に動くことはできない。そのためリン自身や俺たちを押すための風を作って、誘導してもらっていた。これが不自然な風の正体だった。


(雷閃峰か)


 ファルコの案内でのんびりと空を飛んでいる、雷閃峰が見上げられる場所にまでやってきた。


「お、アレだ」


 ファルコが徐々に降下を始めるとリンも釣られるように降下し始める。そうなれば必然的に俺たちも降下を始める。


 そしてファルコが下りるであろう場所を見ると、周囲の地表には飛翔石らしきものが露出していた。


(石ころのようにそこかしこにあるとなれば採掘する必要はないか)


 上空からでもわかるほど広域な地表に存在していた。


 そしてファルコが下りる地点を見ていると軽く崖になっている山肌に洞窟が存在していた。


「あそこか?」

「その通りだ」


 俺達はファルコの言葉と同時にゆっくりと崖下に降り立つ。


(飛翔石の採掘地、か。これは当分の間は採掘する必要はないな)


 崖の一面に大人と同じような飛翔石の塊が存在していた。


「この中には入ったか?」


 洞窟の目の前まで移動するとファルコに問いかける。


「いや。飛翔石ならそこらへんに転がっているので十分事足りるから、わざわざ中に入る奴はいない。土の中じゃ食料もないだろうし、それに俺たちは空を飛ぶ、地表ならまだしも地面の中での戦いは絶対に嫌だからな」

「それもそうか」


 ヨク氏族からしたら、飛翔石を求めて洞窟に入る必要はない。なにせそれが目的なら適当に転がっている飛翔石を拾えば済む。またあるかどうかもわからない食料を求めて洞窟に潜るのはリスクが存在する。地面の中では通常の人族さえ動きにくいのに、ヨク氏族は飛べない鳥となってしまう、そんな彼らが十分に戦えるとは思えなかった。


(それに獣人達は鋼材を使わない、そう考えれば鉱脈らしきこの場所に来る必要もないか)


 さらに言えば獣人は人族の様に鉄を加工したりしない、ならば当然鉱物も必要が無かった。


「どうする?中に入る?」

「いや、さすがに入りはしない」


 今は飛翔石が存在する場所の確認がしたかっただけだ。


(だがこの大きさの飛翔石が存在しているのは幸運だったな)


 地下にどれほどの量と数が存在しているかはわからないが、地表で大人サイズの塊がある時点である程度の豊作は期待できるだろう。


「中の探索は本格的な人員と機材を用意してからだな」


 今は火急の事態ではないため、無理して洞窟に入る必要はない。


「さて、ほかにも場所はあるか?」

「あるにはあるが、ここよりもだいぶ小さいぞ?」

「だが見ない意味にはならないだろう?」

「まぁ、そう遠くないからいいが」


 それからファルコの案内で他に飛翔石が取れる場所を確かめに行くが、そのすべては山肌に存在する小さな岩場だけだった。それもすべてが半径20mほどの範囲だったため大規模な採掘場としては使えない。


(地下がどうなっているかはわからないが、最初の場所以上にあるとは思えないな)


 最初の洞窟周辺は空から見てもわかるほどの鉱床だったが、それ以外は地上に降り立ち、岩場の前に来てようやく飛翔石が取れることがわかる規模だった。


(しかし、雷閃峰近くの山肌のみしかないんだな)


 ファルコに案内してもらった採掘場だが、最も大きい洞窟のある場所は雷閃峰の中腹にあり、それ以外は雷閃峰の麓やその隣の山肌にあった。また雷閃峰から遠いほど飛翔石の取れる量が少なくなっていることも見て取れていた。


「ほかにはないのか?」

「ないはずだ。もしかしたら誰が知っているかもしれないが、それでも氏族のほとんどが利用しているのはあの6か所だけだったはずだ」


 ほかの場所がないとは言えないが大々的に知られているのは先ほど紹介された場所だけという。


「どうする?ハーストさんが戻るまでまだ時間があるが、周辺でも案内してやろうか?」

「いや、必要はない。一度村に戻」


 ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ


 戻ろうと言おうとすると、虫の羽音が聞こえてくる。


「なぁ、ファルコ、この周辺では虫が出るのか?」

「いや、蛇とか、山羊ならよく出るが、それ以外はめったに表れない」

「ならこの音はなんだ?」


 音の報告を見てみると、こちらに向かって山肌すれすれを飛んでいる黒い点の群れがあった。


「ハーストはアレを駆除しに行ったんじゃないのか?」


 羽音が徐々に大きくなると同時にその姿が見えてきた。


「そのはずだが……聞いていた数と違う」

「と言うと?」

「ハーストさんから聞いていたのは数百の蜂の魔蟲を確認したことだ、だが……そんな数はいないよな?」

「ああ、見た限り50もいないだろうな」


 こちらに向かってきているのは特段に大きな一匹の蜂とその周囲を固めている蜂だった。大きな蜂は体長2mにもなり、胸部と腹部が異様に発達している個体。そして周囲を固めている蜂は体長50~100cmほどの大きさ、全体に堅い甲殻を持ち、前脚が剣の様に発達している個体ばかりだった。


「逃げてきた、わけじゃないよな?」

「ないと思う、何よりハーストさんが向かった場所だと今ここにいるのはおかしい」


 時間と距離が合わないとファルコは言う。となると考えられてるのは一つだった。


「ハーストが向かった方が囮、そして本命がこっちということか」


 『母体』という一個体を逃がすのなら囮手段は十分な効果がある。現に俺たちが居なければこの『母体』はハーストに見つかることなく、どこかへ行っていたはずだった。


「ほら、バアルさっさと片付けよう」


 ファルコは戦う準備をし始める。


「そうだな、この場所なら負けることはないだろうし」


 蜂から視線を話して雷閃峰に視線を向ける。今すぐ山頂を覆っている雲に向かって『飛雷身』を使い、その後『真龍化』を使えばそれだけで過剰な戦力になりえるだろう。


 一応のことを考えて鑑定のモノクルを取り出し、『母体』とその取り巻きを観察し始める。


 ――――――――――

 Name:

 Race:女王母胎蜂マザーウームビー

 Lv:79

 状態:空腹・群体

 HP:736/1238

 MP:1046/2583


 STR:43

 VIT:53

 DEX:39

 AGI:57

 INT:62


《スキル》

【裂刃顎:48】【抗壊毒針:63】【飛行:59】【指令:39】【巣造り:54】【採取:11】【産卵:76】【繁殖:105】【共存:43】【保温:23】

《種族スキル》

【王台作製】

【抗体破壊】

【社会蟲・頂点】

《ユニークスキル》

 ――――――――――


 ――――――――――

 Name:

 Race:近衛英雄蜂インペリアルビー

 Lv:65

 状態:空腹・群体

 HP:1765/1765

 MP:2034/2034


 STR:53

 VIT:66

 DEX:43

 AGI:58

 INT:40


《スキル》

【鋭剣脚術:30】【破砕大顎:9】【抗壊毒針:84】【硬化甲殻:34】【速飛行:22】【軍指揮:39】

《種族スキル》

【戦英蜂】

【女王の盾】

【社会蟲・戦士】

《ユニークスキル》

 ――――――――――



 鑑定の結果、どうやら蜂の中でも最上位の種が逃げ出していることが分かった。


「バアル様」

「どうした?」

「何かようすが変です」


 リンの声で蜂の動きをよく見てみてみると、なにやらあたふたとしている姿があった。


「どういうことでしょう?」

「しばらくすれば答えがわかるだろう」


 あたふたとした後の行動を見ればどういった意味か理解できる。そのために様子を見ていると、魔蟲の群れが徐々に後退を始めていった。


「??逃げているのか?」


 先ほどはこちらに向かって飛んできたことを考えれば蜂のこの動きは何とも不可解に感じる。


「そういうことかよ!」


 だがファルコだけが意図を理解すると、すぐさま【鳥化】を行い、群れに接近し始める。そしてそんなファルコを妨害するように10匹ほどの蜂が前に出てくる。


(ファルコは魔蟲がこちらに向かってきたと思ったら退いた理由を推察できた………ああ、そういうことか)


 周囲を見渡し、正確な方角を把握すると魔蟲がどのような行動をしようとしたのか理解が出来た。


「あいつらウルブント山脈を越えようとしたのか」


 魔蟲がやってきた方角は南、つまり向かっている方角は北ということになる。もしこの方角に目的があると考えれば、そして向かってきて退いた時点で俺たちが目的ではないと考えれば推察は簡単だった。


「この山脈の向こうには何があるのですか?」

「前に聞いた話だと、ほかの鳥系獣人の氏族があるらしい。それもヨク氏族の様に貧しい土地ではなくしっかりと豊かな土地が」


 前にハーストから雷閃峰の北と南で鳥系氏族が分かれていると聞いた。それもウルブント山脈に囲まれた広い草原と海に面した部分があり、暮らすことに何不自由がないとのこと。


「再起を賭けてあちらに移ろうとしていると考えればこの行動も説明がつくな」


 それこそ魔蟲が群れの大半を囮にして移ろうとする価値があるのだろう。


「また魔蟲で大規模な戦いが起きても損するばかりだ、さっさと済ませるとしよう」


 バベルを顕現させて、さっさと終わらせようとすると。


『あ、ちょいと待ってくれんか?』

(イピリア?)


 行動に移そうとするとなぜかイピリアから制止の声が聞こえる。


(なぜ?ファルコが戦っている手前、できれば長く傍観はしたくないのだが?)

『安心せい、あの者は奴の実・・・を食べたのだろう?ならば』


「っ!?くそっ!!」


 ファルコは悪態をつきながら俺たちの間で下がる。


「どうした?」

「……命令された」


 ファルコはそういうと【鳥化】を解き、横で腕を組む。


「それでなぜ待てと言った?」


 その言葉と同時にイピリアを顕現させる。


『んしょ、いや~どうやらこやつらを使えるとリュクの奴が判断したらしくての』

「リュクディゼムが?」


 ファルコが急に退いたことに困惑している魔蟲たちを横目に雷閃峰を見る。


「で、どうしたいと?さすがにここで逃がせという話だったらそれなりの条件がないと飲めないぞ」


 イピリアに確認を込めて問いかけると






『逃がすんじゃないよ、私が飼うだけだ』





 思わぬところから返答が帰ってくる。

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