第277話 謁見
エレイーラから事の顛末を聞き終えると王族という点から先に呼び出されて、そのあとすぐに外交団が呼び出されていた。
「バアル様」
「なんだ?」
「あの、お顔が」
そして全員でクメニギス国王に謁見を行うために移動していると、リンが話しかけてくる。
「何かおかしいか?」
「いえ、その、一応は笑顔ではあるのですが、怒気が漏れていると言いますか」
「…………ふぅ~」
深く息を吸い、そして吐くと、再び表情筋をうまく動かす。
「これで問題はないか?」
「ええ、まぁ」
リンが微妙な反応をしている辺り、まだどこか違和感を感じているのだろう。
「バアル」
「どうした、エナ」
そんな俺に好き好んで近づいてきたのはレオンの傍に居たはずのエナだった。
「問題ない」
「………一応聞くが何がだ?」
「部屋を出るお前は利の匂いしかなかった」
「………損の匂いの間違いじゃないのか?」
「いや、利の匂いだ」
エナはしっかりとこちらを見据えて、そう告げてくる。
「…………」
「疑うなら疑えばいいさ」
こちらが何も言わないとエナは再び離れていく。
(
長い通路を進みながら先ほどの条件で何があるのかを考える。
結託されて、魔道具の製法を渡す羽目になった。これ自体はどう考えても損としか考えられない。
(なら、ほかの部分に利があるという、どこだ…………!?)
先ほどの会話の内容を思い出すと、面白いくらいにこちらの利になる部分が存在していた。
(なるほど、そこを突けば、あいつらを)
「――アル様、バアル様」
リンの声で思考の渦から現実に戻ってきた。
「そろそろ、謁見が始まります」
「わかった」
リンの声で前方を見ると、大きな扉に向かっているのが確認できた。
そしてレナード、フーディ、レオンが扉に近づくと、扉が開いていく。
(見てろよ、俺を嵌めたことを後悔させてやる)
扉の先に外交団が進みだす。
中に入ればまるで道の様に赤い絨毯が敷かれており、自然とその上を進みだす。
(意外にいるな)
そしてその絨毯の両脇には100を超し、下手すれば300まで届きそうなほどの人員が列をなしていた。
また絨毯の行きつく先は階段があり、そこから上った場所に豪華な台座が用意されていて、そこにクメニギス国王が座っていた。
特徴的な灰色の髪に、やせこけた頬、目の下に隈を作っていて、装飾品だらけの服装を着ているが見るからに不健康そうな体をしていた。だがその瞳には明らかに強い力を感じさせたこともあり、何とも不気味な感じがした
外交団は階段から少し離れた場所まで進むとそこで止まる。
「お久しぶりです、レゼード陛下」
レナードが跪くと、背後にいる外交団は同じように跪く。
「ふん、よく来たなと言いたいが、今回は歓迎はできないな」
「それはご容赦を、こちらとしてもこのような結果になりとても残念に思っております」
レナードと一通りの会話を行うと視線が外交団の両脇にいる集団に向く。
「そなたらが蛮国とノストニアの使者か」
「ああ、その通りだ、クメニギスの王」
クメニギス王の答えにフーディは一切敬っていない態度を取る。
「クメニギスの王よ、我々の国は蛮国とやらではないアルバングルじゃ」
またレオン達もグレア婆さんが翻訳して声を上げる。
「王に対して無礼な」
「何を勘違いしておる、私たちはお主らとは一切が国交がないノストニアの使者だ。仮に交友があるグロウス国王なら頭を下げるつもりだが、こちらに害を成しているだろうクメニギスであるなら話は違う」
列からフーディを批判するような声が上がるが、フーディはすぐさま反撃する。
またフーディの言葉通り、ノストニアの使者であるフーディが頭を下げる必要はなかった。そしてそれはレオン達も同様だった。
「失礼ですが、早速本題に入ってもよろしいですか」
レナードが話を遮る。このままフーディに容赦のない発言をさせるのはまずいと感じたためだろう。
「どのような内容だ?」
「ではお言葉に甘えまして」
クメニギス王の問いを聞くとレナードが立ち上がり、部下から一つの書状を受け取る。
「我々グロウス王国、ノストニア、アルバングルではこの度連盟を結ぶこととなりました。そしてその連盟からの要求ですが―――」
それからレナードは連盟の締結したこと、この三か国がクメニギスの奴隷制度で被害を受けたこと、そしてそれに対しての要求と断った際にどのような行動に出るかを大声でこの空間に知らしめた。
「また、この連盟に参加しているすべての国はクメニギスの奴隷制度の被害証拠を速やかに提示できます」
レナードは言い逃れはできないと言い放ち、しっかりとクメニギス王へと視線を向けていた。
「そんな証拠お前たちの出ちあげだろう!!」
「そうだ!証拠がお前たちに作られたわけではないと証明できるのか!」
このような声が上がると、次々と不満の声が上がり始める。
「静まれ」
だがそんな喧噪の中、大きくないにも関わらず響いていく声があった。
「……エレイーラ王女殿下」
声の主は玉座の後ろで並んでいたエレイーラの一声だった。
「お父様、発言を」
「うむ、許す」
クメニギス国王から許しの声が出たことで、エレイーラが前に進みだす。
「よく聞け、今不満を挙げているその気持ちはよくわかる。だが考えてみてほしい。戦益奴隷の制度はおよそ300年前に発足されたものだ。当時は数多の国が乱立してそこかしこで戦争が起こっていた」
エレイーラの声はよく響き渡り、列に並んだ誰も声を上げることはなかった。
「その時であればこの制度の有用性は理解できる。いくつもの国を欲し、円滑に活用するために必要だったからだ。だが今はどうだ。クメニギスはすべての国を飲み込み大国へと発展していった、そして同時に力をつけていったことによりクメニギスの地は平和となった。だからこそ、聞こう。今のこの平和な世界でこの制度は必要か?それも犯罪にも利用されている制度がだ」
(もしここで対面での演説ならば、もしエレイーラが王族でなければ、声が上がっただろうな)
「西にはフィルク聖法国、東はグロウス王国、両国とも同じように様々な国が一つとなり大きくなった国だ。ぶつかり合えば双方とも深手を負うだろう。では北のノストニアはどうだ?エルフに戦争を仕掛けて彼らの逆鱗に触れるか?」
誰からの声も上がらない。
「では聞くが今の時代、クメニギスの周囲に戦争を仕掛けられる国はあるか?」
「ば、蛮国がごさいます」
列の一人から何ともか弱い声が聞こえてくる。
「そうだ、様々な思想があり、クメニギスはアルバングルの地へと踏み入った。だが結果はどうだ?私が危惧した通り、アルバングルが第三国に救いの手を求め、そして我が国の発展を妨害しようとしてきたではないか」
エレイーラの視線がこちらを向くと同時に周囲の視線がすべて外交団に向けられた。
「よく考えてほしい、今の時代にこの制度は必要か?当時と何もかも状況が変わった今でだ」
誰も何も言えない。現にエレイーラの言う通り、今のクメニギスに気軽に戦争できる相手などいない。そんな状況で戦益奴隷の制度はまず必要がないからだ。
「それに付け加えよう。獣人にはアルバングルという国があることは確認した。では、もし我々が獣人の奴隷を持っていないとして、周囲の国すべてが我々の国と友好的に接している状況でこの制度を残していたらどうなるだろうか?答えは簡単だ、犯罪者が友好国に入り込み、村を燃やして人を攫ってくることだろう」
周囲の連中は何も言えない。起こりえる確率の方が大きいと分かっているからだ。そして現在クメニギスはそれをグロウス王国、そしてノストニアに行っている状態だった。
「わざわざ、このような制度を残して、友好国との戦争の火種として燻ぶらせている必要があるか?私は無いと考える」
一際透き通る声で、宣言し終えると、エレイーラは自分の父親、つまりはクメニギス国王に顔を向ける。
「私の主張は以上です、お父様」
「ああ、お前の主張はよくわかった、だが」
「肝心の証拠が本物かどうかですか?」
エレイーラの問いにクメニギス国王は頷く。
「でしたら。レナード殿、ここで証拠を提示できるか?」
「ほんの少しだけお時間をいただけたら」
エレイーラもレナードも笑顔で会話する。レナードはエレイーラのおかげでスムーズに要求が通りそうであり、エレイーラは自身の言葉に力があることを知らしめられたからだ。
(求心力が無いという声も上がりそうだが、こうなるビジョンが見えていたとエレイーラが言い張れば何も言えなくなるな)
エレイーラの主張は侵略する気が無いと言っているのではなく現時点でできなくなるということを示しているだけのため、そういった面での追及は避けることが出来る。
(しかし、ルドルがこの場にアレを持ってくることをよく了承したな)
視線を後ろに向けると、10人ほどの近衛騎士が扉の外に出ていくのが見える。おそらく
そしておよそ10分も経たないうちに、何やらフードを被った少女と増員された近衛騎士団が中に入ってきた。
フードの少女は近衛騎士団の案内でレナードの後ろに立たされる。
「レゼード陛下、彼女はグロウス王国国民でありながらクメニギスの戦益奴隷に落とされた
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