第254話 戻ったぞ
まず最初にルンベルト地方にたどり着いたのは俺とエナ達だった。こちらはたった5人という少人数で移動しているおかげか、どの部隊よりも足早に進むことが出来た。
「それでどうするつもりだ?」
「まずはレオン達と合流する、話はそれからだ」
現在はルンベルト駐屯地に、もっと言えば山脈を挟んで反対側にあるレオン達の拠点に向かって馬車を走らせている。そして道中に中継機を配置して、か細いが通信エリアを広げていた。こうすることにより、レオン達のもとにいても十分連絡は可能となる。
そしてレオン達の元に戻ることにエナ達は異論はなかった。
「おい!?俺はどうするつもりだ?!」
だがその中で成り行き上で連れてきているライルだけが声を上げた。
「さぁな、まぁ時間が来たら解放してやるよ」
「俺は何度か獣人との戦争に参加しているんだぞ!?蛮国に入ったら殺されるんだが!?」
「安心しろ、ティタかエナが傍に居ればその心配はない、はずだ」
そういうとまだまだ不満はあるが、言っても無駄だと分かったのか、おとなしくなった。
(………どう考えてもこいつが利に繋がる存在に思えないな)
ライルの事を見ながら考えを巡らせる。だがその間に馬車は荒野を進む。
「なぁバアルさん」
夜、荒野の安全な場所で馬車を止めて夜を越そうとしていると、ライルが話しかけてくる。
「なんで、あんたはこいつらに協力している?」
「それを聞いてどうする?」
俺の返しに嫌な表情をしてそっぽを抜き始める。
「あいつらを見ていると普通に生きてるんだなと思ってな」
「罪悪感でも出たか?」
「………おれも傭兵だ、割り切る部分は割り切っている。だがそれは戦場だけだ」
「つまりエナ達の生活を見て、考えが変わったと?」
ライルはわずかに頷く。
「獣人を嫁にもらっているバアルさんには悪いが、俺は仲間を獣人に殺されている、そして俺も獣人を殺している。…………だが確かに日頃のあいつらを見て、俺たちとは変わらない存在だとは感じもした」
ライルが深刻そうな顔で告げる。
「お前がいることで俺たちの行動が阻害されるか?」
「ああ、仇がいるのなら、獣人にいい感情は持たれないだろう?」
「だろうな………だがお前を野放しにはできない」
ライルはいまだに信じることはできない。なのでしっかりと脅しと命を握りコントロールをするしかない。
「まぁ蛮国では知り合いに檻の中でゆっくりとしていてもらうつもりだ。それとなレオネは嫁じゃない」
「………え?」
ライルの顔には『あれで!?』とありありと書かれてあった。
それから二日が経つ頃、ゼブルス軍は無事にフロシスに入り補給を始める。そしてフィクエアの部隊は想定以上の速度でクメニギスの北西部から西部に移動し、ルンベルト地方に差し掛かっていた。
そして俺たちなのだがすでにルンベルト地方にそびえたつ二つの山脈の一つウェルス山脈に登り始めていた。
「やはり規模が小さくなっているな」
山頂付近から北西の方角を見ると、即席で造られている駐屯地があった。
「バアル、あれをどうするつもりだ?」
「………まぁ見ていろ」
エナに何をするのか聞かされるが、はぐらかして答える。
「………………」
その様子にティタは何かを言いたげだったが、結局は何も言わなかった。
「な、なぁ、お、おお、おま、えたち、は俺をこ、ろす、つもり、じゃないん、だ、よな」
何ともギスギスとした雰囲気の中、場違いな、また憐れなしゃべり方をしているライルが話を遮る。
「寒いか?」
「寒、くな、い、はずない、だろう!!」
ライルの格好はきちんと防寒のための服装にしているのだが、それでも冬始めの中で標高の高い場所にいるのだから、きついものがあるのだろう。
「な、なんで、あん、たたち、は問、題ない、んだ、よ?」
「それは【身体強化】しているからな」
【身体強化】は様々な作用があり、そのうちの一つに防寒のために使うことも可能だ。だが現在ライルはその魔力自体がティタによって封じられているため、何もできない普通の人でしかない。
「…………先を急ぐぞ」
ティタが全身を【獣化】させると、全員が乗れるサイズにまで大きくなる。その様子に驚きもないエナ、レオネは蛇の背に乗る。
「……………」
「……さっさと行くぞ」
「っ!?ちょっ!おい!!」
ライルがティタが大きな大蛇に変化したことに口を開けて驚いていると、ティタはその遅さが煩わしかったのか尻尾でライルを宙づりにして、そのまま進みだす。
「乗らなくていいの~?」
「ああ」
レオネが声を掛けてくるが、俺はティタの背に乗るつもりはない。
(『飛雷身』で見えている範囲なら移動できる。それに)
俺はエナとエナを乗せているティタに視線を向ける。
(疑惑が解けるまではこいつらと距離を置いた方がいいだろう)
その後、山頂を伝い、蛮国へと向かう。
ウェルス山脈を渡りきるとルンベルト駐屯地と同じような場所に何やら藁や枝、石を積み重ねた住居らしき建物が立ち並んでいた。そしてそこは様々な動きをしている獣人の姿があった。
「たっだいま~~~!!」
「おい、レオネ」
まだ下山の途中だというのに、ティタの背から飛び降りると、急勾配の山肌を駆け下りていく。
「よく戻ったな!!バアル!!」
レオネに続いて、集落に入ると、なぜか仁王立ちしているレオンがいた。
「どうした?」
「戻ったぞ」
「……戻った」
俺に続いてエナとティタが村に入ってくる。
「おう、お帰り」
レオンが返答するのを聞くと二人はレオンの肩を叩いて集落の中に進んでいった。
「それでそいつはどうした?」
「……大丈夫なのか?」
レオンの視線を受けるとライルがわずかに後退る。ライルは武器を持っておらず、魔力が使えないため、レオンからしたら裸も同然だった。
「こいつはライル、いろいろあってともに行動している。ちなみに敵に近いから警戒を解くなよ」
「っおい!」
レオンに警戒するように促すとライルは驚きの声を上げる。敵に近いと言われてさすがにライルも穏やかにはいられないのだろう。
「だから、レオン、こいつは殺さずに何かしらの檻にでも入れておいてくれ。ライルも好きに動いて殺される可能性があるよりも檻でじっと生かされている方がいいだろう?」
「そう、だな」
ライルも俺たちと居ていつ殺されるかわからないよりも、じっと檻の中に入れられた方が安全だと判断したらしい。
その後、レオンの呼びかけで近くにいる獣人がライルを連れていく。魔力が使えないライルでは普通の大人にはまず勝てない、下手すれば子供にすら負ける可能性がある。
「それよりもバアル、なんで戻ってきた?」
「……少し協力してほしいことがあってな」
「了解だ、そういった話なら親父たちも交えたほうがいいな」
「じゃあ案内してくれ」
そういってレオンの横を通り過ぎるが、レオンは動こうとしない。
「どうした?」
「それだけか?」
レオンが何を言いたいのか全く理解できなかった。
「はぁ~お兄ぃも頑固だね」
俺は訳も分からず、レオン何を待っていて共に動かない。そんな最中どこからかレオネが現れる。
「どういうことだ?」
「まぁ簡単に言うと、こういうこと………バアルお帰り」
「………いや、お前も一緒に帰ってきたじゃないか?」
思わず出た言葉にレオネはやれやれと首を振る。
「いやいや~私はバアルよりも先にここに入っていたよ~ならこういってもおかしくないじゃん?」
確かにレオネは文字通り山を駆け下りて先に集落に入っていた。
「いや、確かにそうだが」
「なら、私は迎え入れる言葉を言うし、バアルは~?」
レオネの言葉によってようやく言いたいことが理解できた。
「(俺の家ではないのだがな)……無事に戻ったぞ」
「おう!!」
レオンが手を挙げるのでそれに合わせて手を叩いてやった。
それからレオンとレオネと共にバロンのもとに案内される。
「また、大きく作ったな」
案内されたのはほかの住居よりも3周りはおおきい家だった。ほかの家とは違い土台に大きな岩を使い、その上に枠組みとなる大木を並べて、屋根には藁を敷き詰めていた。そしてその構造から、真ん中は吹き抜けとなっており、なぜかそこから大きな笑い声が聞こえてくる。
その吹き抜けから中に入るのだが
「「「「「「「「「「ガハハハハハハハハハ」」」」」」」」」」
まるで戦争中とは思わせないほど陽気な笑いと、いつぞやに嗅いだ事のある肉の匂いが漂ってくる。
「おう、よく戻ったな」
バロンの第一声はレオンと似ているなと思いながら、何しているのかとも思う。
「レオン」
「仕方ない、親父たちは暇さえあれば肉を取ってきて宴をするからな」
「だね~」
どうやらバロンにとっては恒例の行事らしい。
「テトは?」
「今は狩りに行っている。さすがにこの人数だと、何度も大物を取ってくる必要があるからな」
レオンの話だと、現在この集落には約15000の戦士がいるとのこと。となれば当然、一度に必要な食糧は天井知らずで増えていく。そのためルーティンを汲みながら何度も狩りを行っているらしい。
「一応、この辺りは獲物が豊富だからあと半年は持つとは思うが」
「そこまで行くと、この土地を殺してしまうからね~」
さすがに彼らも周辺の獣を狩りつくせばどうなるかくらいは察しがついているらしい。
「まぁいい、それよりもバロン」
「なんだ~?」
何とも酒が回っているらしい。今は呂律が回っているが、あと少ししたらそれすらも怪しくなりそうだった。
「聞きたいことがある」
「なんだ~?」
先ほどと同じ返しをされて今話すべきかと悩み始める。だが時間がないので詰められる場所は詰めたかった。
「バロン、国を興すつもりだな?」
「ああ」
「その国の名前はどうする?」
この言葉はなぜか宴の場に響き渡り、その後静寂をもたらした。
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