第253話 並べ終わった盤上
「おい、食料を持ってきたぞ」
「「「「「「「「おぉおお~~~」」」」」」」」
今度はロキを操作し、腕に刻まれている『亜空庫』の魔法陣を発動し、食料を取り出していく。
なぜロキが食料を持っているかというと、ほんの少し前に『飛雷身』で近くまで来て、誰にも見つからずにロキとだけ接触したからだ。その際に『亜空庫』の中の食糧を移していたためロキの『亜空庫』に2000人の食糧が入れられてある。
「すまないな」
食料を受け取り、配っていく中フィクエアが声を掛けてくる。
「本当なら、もう少し少人数になると思っていたのだが?」
「それは悪かった。奴隷となり、狭いあの部屋に閉じ込められていた彼らの目を見てしまったら、な」
フィクエアの視線はがつがつと食事をし、笑いあっている獣人の子供たちに向けられている。
「フィクエアはあいつらを連れていくことはできると思うか?」
「さぁな」
「おい」
フィクエアの返答はどうでもいいとばかりの無責任な回答だった。
「これからの動きに関わる事柄をさぁなで返すつもりか?」
「そんなつもりはないが………お前の言う連れていくというのは、どの意味合いだ?」
「どういう意味合い?そんなの一つしかないだろう?俺たちはあいつらを連れてきた。ならば彼らを無事に故郷に返す必要があるんだぞ?」
連れてきたはいいが、置き去りにしてはまず問題しかない。
「食料の面でも不安があるのに、こんな大勢で動いてみろ、すぐさま見つかることになる。ほかにも昨日まで奴隷だった奴らだ、そんな連中の歩みが早くないことぐらいは予想ができる」
「???やや遠回り的な言い方だな。要は時間までにある地点まで移動しなければいけないのだが、今の状況ではお前はできないと思っているということだよな?」
「簡潔に言えばな」
フィクエアは簡単に言うが、そんな軽いものではない。想定していたプランではこの集団が最後の鍵を担っていた。そして問題なのが鍵穴が開くタイミングだった。
「ゼブルス家の軍がフロシスを出て、ルンベルト駐屯地に行くまでにこの集団はそこに接触しなければすべてが水の泡になる」
「そんなことか」
するとフィクエアは獣人の前に立ち
『聞け!』
大声を出し、食事をしていた獣人の注目を集める。
『私たちは赴く場所がある!そして私たちはお前たちを助けた手前、そこにお前たちを連れて行かなくてはならない!またそこはお前たちの故郷のすぐそばだ!無事に着くことが出来たらお前たちはクメニギスにつけられた忌々しい首輪から完全に解き放たれることになるだろう!!』
ここまで聞いて獣人の反応は喜色の色合いが強かった。もちろん長年の奴隷生活で心がすさんでいるのか、本当なのかという表情もいるがそれは少数だった。
『だが、私たちは様々な問題に面している。その最たるが、速度だ!お前たちが虐げられてきたのは知っている!だが、今こそ、お前たちの本領を発揮しろ!私たちはお前たちが颯爽と走る獣になることに期待している!』
フィクエアが拳を挙げるとともに獣人の咆哮が上がる。
「おいフィクエア」
「お前は難しく考えすぎだロキ。彼らを抱え込んだのなら最大限の成果が出るように動くのみ。事態も知らせずにただ歩かされるより、今が緊迫した状態であることを伝えてそれぞれに最大限の努力をしてもらう方がいいと考えるぞ」
「移動はそれでいいとして、食料とかはどうするつもりだ?」
「そんなの最悪は私たちだけで農村でも襲撃して食料を奪ってくるだけだ」
「堂々とした犯行声明だな」
思わずな答えに肩をすくめて答えるしかなかった。
「それにな、ロキ、お前たちは彼らを甘く見すぎだ」
「どういう意味だ?」
「お前は彼らが疲弊した弱い存在と捉えているようだが、私たちには真逆に見える。彼らの力はあれぐらいでは弱まらない」
フィクエアは自信のある瞳でこちらを見つめてきていた。
「ほかの問題はどうするつもりだ?」
「主だっては食料と隠れる場所だったな」
「ああ、彼らの頑張りで2000人の大移動でも十分な速度になったとしてもだ。表立っての問題として、食料とルートの問題となる」
いかにエルフがいるとしてもたった2000の軍でしかない。下手に見つかって討伐隊でも編成された日にはここにいる獣人のうちのどれだけが残ることになるだろうか。
「大丈夫だ。両方とも考えがある」
「その考えを聞いていいか?」
俺のその言葉を聞いてフィクエアは何ともわかりやすい笑顔となる。
「まず食料だが、これは
「現地調達、ね」
現地とはどこを指示しているのかは聞かないでおくことにする。
「そしてもう一つ、見つかる問題についてだが、フィニィ!来てくれ!」
「お呼びですか~?」
フィクエアの呼び声で一人の女性エルフがやってくる。フィニィと呼ばれたエルフは何とも穏やかな形容をしていた。歩けばふんわりと揺らぐ長い金髪に母性豊かな体、またおっとりとした顔つきをしておりとても戦闘ができるとは思わなかった。
「どうなさいましたかフィクエア様」
「フィニィ、お前ならこの集団をいつまで隠すことが出来る?」
「皆さんを?」
フィニィは振り返り、獣人達を見渡す。
「そうですね~3日間が限度でしょうか」
「なに?」
「ご、ごめんなさい、短いですよ、ね」
こちらの返答を不満と取ったらしくすぐさま胸前で手を合わせて謝罪してくる。見る人が見れば一目ぼれするようなかわいい謝罪だった。
だがこちらの返答は不満だけではなく、驚きだった。
「三日間ずっと彼らの姿を隠せるというのか?」
「ええ、寝ている間もお風呂の間も食事の間も全部ウェンちゃんにやってもらうから」
「フィニィの精霊は“
「曖昧な説明だな」
「敵になるやもしれないお前に能力のすべてを話せと?」
そういわれると何も言えなくなる。
「ですが、代わりに私はあまり強くないので、そこは心苦しいのです」
「余計なことを言うなフィニィ」
フィニィは代わりに自身が弱いというが、俺はそうは思わない。
(暗殺向きな能力、だな)
自身の存在を知られなくていいのならそこまでの武力は必要はない。なにせ無防備な姿で致命傷を与えられるだけの武器があればいいのだから。
「アルム様からどう聞いているかわからないが、私たちは精鋭部隊、一人で同胞1000人を護送できるくらいの能力は持っていると考えてもらっていい」
フィニィの隠密能力とまではいかないが、それぞれに何らかの長所を持っているという。
「それはそれは人族の身からして魔力が持つとは到底思えないな」
2000人に持続的に魔法をかける、当然そうなれば通常の二千倍の魔力を消費することになる。いかに魔力が豊富なエルフでもそれはできないと思ってしまう。
「確認だが、今回集められた隊の魔力量はどれくらいだ?」
「平均で言えば2万は超える、一番多いい奴だとその倍だな」
フィクエアの顔は嘘をついている表情ではなかった。むしろ神樹の実という魔力量が増える果実の事を考えれば少ないとも思ってしまった。
「神樹の実を使って万か」
「知っているのだな」
「一応な」
「ならお前の考えを訂正してやろう。神樹の実は何も魔力の量を増やすだけじゃないの同じ色の果実を食べればより魔力は洗練される」
「もう少しわかりやすく頼む」
「精霊魔法の消費量が減るということだ」
フィクエアの言葉が本当なら、ただでさえ膨大な魔力を有するのに、さらに発動するための量も減ることになる。そうなれば2000人に姿を隠すための魔法を使っても十分持つことになる。
(つまりは差し当たっての問題は食料のみとなったわけか)
速度は獣人自身に頑張ってもらうとして、身を隠す方法はエルフたちが魔法をかけることで対策ができる。となれば問題は残り一つとなる。
(食料か………策はあるから問題はないだろう)
「しかし、お前は話していて心地がいいな」
食料の問題も一応の解決策があるため、そこまで重く見る必要はないと考えていると、フィクエアはよくわからないことを言い出した。
「どういう意味だ?」
「いやな、人族が私に向ける視線は大抵下卑た物だったのでな」
フィクエアはエルフの美貌に豊満とも言える身体をしているため、わからなくもない。
「あの伯爵とやら見たく男の象徴をそぎ落としてやればいいのですよ~」
こちらの会話を聞いていたフィニィが出した言葉の中に何とも物騒な部分があった。
「………そぎ落としたのか?」
「ああ、もちろん殺すのは禁じられていたから、治癒はしたぞ、物はないが。城の中でそぎ落としたからすでに物は灰になっているんじゃないか?」
フィクエアもその光景を見たらしい。冷っとした感覚が背筋を襲う。男としては同情を禁じえなかった。
こうしてすべての役者がルンベルト地方に進み始めた。
まずロキが指導している集団だが、問題が解消されたため、フィクエアたちは獣人達を連れて目的の場所に向かい始めた。食料は俺がゼブルス領に赴き運搬していた。一度に9日分は無理があるので、獣人の一回の量減らし、一日分を三日分に分けることになった。もちろん量が確保できればその分食わせるのだが、こちらもそこまで余裕はないためこれで何とか我慢してもらうしかなかった。また移動の際はエルフたちは獣人の全体に姿を隠す魔法を使い、また獣人はフィクエアの激励が効いたのか、空腹であるにもかかわらず歩きとは思えない速度で移動を始めた。
また彼らがルンベルト地方に向かうと同時にゼブルス軍もルンベルト地方に進んでいた。ゼブルス軍5000名、ノストニア軍3000名、近衛騎士団100名、そしてリンたちもこの軍に合流していた。そんな彼らは何日もかけてフロシスへと目指し、そしてルンベルト地方へと目指すことになる。
そしてクメニギス国内に滞在していた俺もようやくすべてを終らす手はずが整ったため、ルンベルト地方へと目指していた。
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