第203話 深まる理解(不本意)
ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ
「すごい光景だな」
宴の翌日、怪我などで残る者以外はテス氏族へと向かって移動している。
だが、大人数が一斉に移動を始めているため少し高い位置から見たその光景は、ある意味では壮大さを感じ取らせる。
「それでは我らも行くぞ」
空にはハーストたちがいる。彼らも帰る準備をしていた。
「ああ、また今度いろいろ話をさせてもらいに行く」
「わかっている、あの土地が欲しいのならそこらへんも話し合いをしたいからな」
既に昨夜、ハーストには報酬で戦士の身分を手に入れることを話しており、そうしたら『飛翔石』が取れる場所を縄張りにしたいということを伝えている。
そして簡易的だが、その返答は『是』に近いらしい。ある程度の採掘場所を残してくれるのならばあとは好きにしていいとハーストは思っているらしい。
『飛翔石』が手に入れば、かなり面白いものができうると確信がある。
「ではな、戦友
ハーストがそういうとヨク氏族も羽ばたき、氏族の里へと戻っていく。
(あいつ、達って言ったな)
『いずれはお前らとも手を取り合いたいものだな』
宴の時の言葉は本当にそう願っていたのだろう。
「はぁ~めんどかった~」
ヨク氏族が飛び立つとレオネが嫌な顔をしながらやってくる。理由はある一人に攻めよられていたことにあった。
「私はファルコなんて興味ないのにーー!!」
いつの間にかはわからないがファルコはレオネに惚れていた。
「やっぱりバアルのそばが気楽でいいな~~」
(今のが聞こえていなければいいが)
恋心に煩わされた少年を憐れに思っていると、レオネは寄りかかってくる。
レオネは構うと、どんどんうっとうしくなるので下手に構わずにいろいろ考える。
(さて、どうやって人族の軍に対処するか)
ただ力だけでしか解決できない魔蟲とは違い、人族となると搦め手が効く。
(クメニギスは俺の件である程度譲歩が引き出せる、フィルクの方も
その場合は少しだけ面倒になる。さすがにゼブルス家の戦力を削ることはしたくなかった。
「お~い、バ~アル~」
「ん?どうした?」
「前、前」
顔を上げて、前を見ると先ほどまでいた軍の姿が一切見えなくなっていた。
「もう、お兄ぃもムー姉ぇもエナ姉ぇも行っちゃったよ?早くいかないと怒られるよ」
「…………了解」
(こんな短期間でいなくなるなんて…………あいつら体力配分考えているのか?)
『なぁ、競争しないか?』
『いいぜ、じゃあ誰が一番に着くかな!!』
『ずりぃ!俺も混ぜろ』
『『『『『俺も俺も!』』』』』
「……………」
脳裏で何があったかがとても鮮明に予測できた。誰かが面白がり競争を持ちかけて、それが伝染して全速力で移動した、もちろん今後のことも考えずに。
(………なぜだろう、高確率でこれだと分かる)
今の表情は遠くの何かを見ていることだろう。
「それじゃあ私も行くけど、バアルはどうする?」
「いや、俺も行くよ」
本来なら『飛雷身』で移動したいんだが、残念なことに今日は雲一つ見えない晴天だ。こんな状況下では消費魔力の効率が最悪となる。となれば普通に【身体強化】を使用して走ったほうがまだ効率がいい。
「じゃあ行くよ~【獣化】」
レオネの体の一部がネコ科の特徴的なものになる。
(そういえば、レオネのステータスは見ていなかったな)
モノクルを取り出し鑑定する。
――――――――――
Name:レオネ
Race:獣人
Lv:67
状態:普通
HP:688/688
MP:743/743
STR:54
VIT:60
DEX:72
AGI:81
INT:40
《スキル》
【鋭爪拳:62】【鋭牙:7】【抉肉蹴:23】【跳躍:27】【雷魔法:42】【身体強化Ⅲ:56】【威圧:27】【野生の勘:421】【第六感:―】【天性勘:―】【暗視:14】【四足歩行:225】【思考加速:37】【敏嗅覚:26】【感覚強化:67】【雷耐性:13】
《種族スキル》
【獣化[天勘狩猟豹]】
【獣化[迅雷狩猟豹]】
《ユニークスキル》
――――――――――
(……………獣化が二つ?)
スキル構成の前に気になるのが獣化が二つ存在している点だ。
(今まで見た獣人は変化できるのは一つだったが……レオネは二つ?)
「じゃあ、おっさき~」
「あ、おい……行ったか」
また【獣化】について謎が出てきたが、とりあえずはテスの里を目指す。
「はぁはぁはぁ」
「にゃははははは、これぐらいでバテるなんて」
(本当に、
レオネも共に移動していたはずなのだが、道中では一切息を切らすことはなかった。
(肉体労働させたらどれだけの効力生むか………クメニギスが奴隷にしたがるのもわかる、国の法を無視するなら俺も欲しいほどだ)
出立したのが昼過ぎなので既に太陽は落ちかけており、あともう少しで夜になる。
「大丈夫、大丈夫、ここら辺はもうラジャの里の近くだからあと少しで着くよ」
「ふぅ、あれだな」
既に視界の奥にラジャ氏族から出ている光らしきものが見えていた。あとはゆっくりと移動しラジャ氏族の里に入るのだが。
「……………何をやっている?」
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
あちこちで笑い声と焼けた油のにおいと酒精の匂いが漂ってくる。
「おう、レオネ、バアルお前たちも到着したか」
大声で笑っている集団の中にいるアシラがこちらに気付く。
「アシラ、何している?」
「???見てわからんか、飲んでいるんだ」
「いや、そうじゃなくてだな」
まだ終わっていないことを告げようとすると、肩に手を置かれる。
「いいんだよ、何かを成し遂げたらパーッと騒がなくちゃな」
後ろから声をかけてきたのはマシラだった。しかも片手に酒を持ち、もう片方に肉を持っている。
「それでバアル、何してんだとはどういうことだ?」
「いや、それはな」
「いいんだよ、ラジャ氏族まで道中に故郷がある連中はそっちで騒いでいる。戦士たちにも休息は必要だろう?」
アシラの問いに答えようとすると、先読みしたようにマシラが答える。
「…………」
「それに安心しろ、あたしたちは確かにぶつかり合うことはある、だがそれは常識の範囲内で、友としてだ。さらには友だから助けにも行くんだよ」
(……懸念していることも見透かしてくるか)
獣人も人と同じく感情を持つ。なにを当たり前と思うかもしれないが、感情とは厄介なもので、生きたいという生存欲、死にたくないと思う恐怖は生きている限りは誰もが持ち得てしまう。それこそ頭では戦場に立って家族を守らなければいけないと分かっていたとしても直前で心が折れて逃げるという行動取ってもおかしくない。
だから為政者は戦場までは恐怖や帰りたいという欲望をできるだけ抑えさせる。これがいわゆる士気というものといってもいい。指揮を保つため、負けたら家族がどうなるのかを語り、兵に連帯感を持たせ罰を作り、あるいは実を作ることで何とかしている。
もしここで戦士たちが家に帰り、死にたくないという欲を得てしまったらクメニギスとの争いに参戦しない可能性がある。なので本来は家に帰さずに最速でクメニギスに向かわせるのが普通のはずだった。
(……マシラの言葉を信じるならば大丈夫だろう、が)
仮にもラジャ氏族の長の妻だ、ある程度は信用に値する。だがそれは確証とは言い難いため、やはり納得できる対応ではない。
「はら~辛気臭い顔してないで飲も飲も」
レオネが腕を引っ張って席の一つに案内させる。どうやら話し込んでいる間に既に飲んでいたようで、若干のアルコールの匂いが口から洩れている。
「いや、だからなレオネ」
「な~に?」
「この席はだいぶ居づらい」
俺の正面ではレオンの仏頂面が見える。
「それならお前の方がどこか行ってくれないか?レオネから離れて」
周囲はルウを除いたいつものメンバーだが。全員がまたかといった表情をしている。
「いい加減、その類の言葉は聞き飽きた…………それよりも聞きたい、人族に対してはどのように対処する?」
全員が驚愕する。おれからこの言葉が出ることがそれほどまでに、という感じだろう。
「なぁ、バアル悪いことは言わないから、戦争には加わるな、確かに魔蟲の時は手伝ってくれたが、今回は」
「そうよ、あなたは同胞を殺すことになるのよ」
「そうじゃ、戦争が始まる前に返すから安全な場所にいなさい」
(優しいな……けど、上に立つ者がそれだとダメだ)
魔蟲の時の俺は単なる戦力扱いで何も問題ないが、人族の戦争では問題になる。
「なんだ?素直に帰してくれるのか?毒については?」
「もちろん解毒し「しない」」
全員の視線が声を発した一点に集中する。
「おい、エナ、笑えない冗談はやめ「冗談じゃねえ」」
ドン!!
アシラの拳が大地をたたき大地を振るわせる。
「おい、言葉に気をつけろ、俺も限度がある」
「言葉?オレは一つしか言ってないぞ、バアルは人族には帰さねぇし、毒も解除しない」
レオンとレオネ、ティタ以外がエナに向けて怒気を放つ。もはや殺気といってもいい。
「エナ、戦友を
「そうだ、それが『母体』と『王』を葬ってくれた恩人に対しての言葉か」
「心情は腐っていないと思ったが、そうでもなかったのかのぅ」
アシラ、ノイラ、エルプス、それぞれが【獣化】しかけている。俺の解毒を固くなに拒否していたエナが責められる流れになった。
(だがおそらくそれはあり得ないのだろう?)
「っく、ハハハハハハハハ」
エナが全員を見返すと突然笑いだす。
「おい、エナ?」
「すまん、すまん、だけどアシラ、今回はオレが正しいぞ」
「なんだと?」
「こいつは野放しにした時点で、自分ためだけに動く。それこそ、今はオレたちと共にいる方がいいと思っているだろうが今後はどうなるかわからんぞ。それにだ、俺の鼻がそう告げているからそうするまでだ」
全員の視線がエナに固定される。そしてその判断の元凶は全員が信用している。
(同じ獣人の圧力にも首を縦に振らないか)
周囲に押されて無事解毒されればこちらとしては穏便に済ませられるだろうが、エナからしたら今だに危険な匂いがするため押さえつけておきたいのだろう。
『のぅ、なんで『天龍顕現』を発動したときにあいつらの命と引き換えに解毒を迫らんかった?』
(それが絶対に行われるならそうしたさ、だがこいつらが意固地となり要求をのまない確率も存在していた)
『??儂からしたらこやつらなら飲みそうな引き換えだと思うが?』
(確かに普通に考えれば命と解毒する条件ならどう考えても解毒に傾く。だがエナのユニークスキルが何かを察知していたらどうする?)
解毒した先で俺が獣人に対して害意を持つ場合があるならエナは解毒しようとはしない。極端な話、解毒しても獣人が全員奴隷に落とされるなら、エナは軍団を見殺しにでもしてしまうだろう。
(こちらとしても命を第一と考えているため、意固地によって解毒されない可能を踏まえるとその手段に乗り出さないこともエナのユニークスキルは読み取っていた可能性がある、か)
エナのユニークスキルはかなり曖昧な範囲だがその分、根拠が計り知れない。また何かしらの方法で察知している結果もでている。
(まだ問題ない。それにこの先で俺を解毒しなければいけない場面が絶対に出てくる)
『そうか』
今ここで解毒しなくてもクメニギスとの戦争が終わればほぼ確実に俺は解毒される。もちろんあいつらの善意ではない、そうしなければならなくなるだけだ。
(それに今俺がクメニギスに身柄を渡されても、俺自身に旨みがない)
受け渡されるとなると解毒され、引き渡されるだろう。だが、それでは獣人が負ける可能性が出てくる。そうなればとても希少な資源地が手に入ることはない。それどころか、クメニギスに獣人という戦力を与えてしまい、国としての戦力も大幅に広がることになるだろう。
だがここで獣人に協力し、無事人族を撃退することができたのならそれらを阻止できる。
(勝てば無事に資源の土地が手に入り、負けてもただクメニギス辺りに保護されるだけだ……その場合は土地は手に入らないが、どちらに転んでも損だけはない)
結局のところ、勝てば解毒に利益を負ければ解毒の可能性が退くなるとなれば協力するのは獣人側となる。
それに
「アシラ、仮に俺が返された場合、どんな待遇になると思う?」
「???ふつうに故郷に帰されるだろ?」
「そんな穏便に済めばいいな」
「おい、人族では違うのか?」
「違うに決まっているだろう。なにせ俺はお前らのことを知っている、そんな俺を穏便に返すと思うか?何かにつけて俺から情報を引き出し、地形の把握をしたり、人数、個々の強さ、指令系統がどうなっているかを把握するはずだ」
俺としても敵地なため、そこまで粘ることはできず情報を吐くだろう。こちらとしても獣人に勝ってもらいたいのでそれでは困る。
「そうか………ならエナの言う通り、まだ返さないほうがいいだろう」
「そうしてくれ、ただ代わりに俺は戦争には参加しないからな」
「それはもちろんだ」
あっさりと不参戦でもいいと言われた。さすがに本格的に参戦したとなると、獣人に囚われていたという言い訳が使いにくくなる。
「さて、それでレオン一つ聞きたいことがある」
今までは魔蟲に余力を割いていたから、あまり気にしなかったが。
「人族と戦争になったのはどういった理由だ?」
戦争の引き金になった原因を知りたい。
なにも軍が動くためには利益だけではない大義名分、いわゆる第三者から見て都合のいい理由が必要になる。
「なにって、そりゃお前、人攫いに決まっているだろう」
それから戦争の経緯が詳しく話される。
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