第194話 新たな戦力

 輝かしい琥珀の空間から樹の洞の部分にまで戻ってくれば、従来通り魔力を消費し始める。


(減ってるはいるが、その前に得た魔力がな)


 洞の部分まで戻れば壊れる心配はない思いモノクルを取り出し、自分を鑑定してみる。


 ――――――――――

 Name:バアル・セラ・ゼブルス

 Race:ヒューマン

 Lv:56

 状態:『命蝕毒:5日』

 HP:910/910

 MP:35967/5767+200(装備分)


 STR:109

 VIT:104

 DEX:124

 AGI:156

 INT:194


《スキル》

【斧槍術:67】【水魔法:4】【風魔法:7】【雷魔法:61】【精霊魔法・雷:48】【時空魔法:22】【身体強化Ⅱ:42】【謀略:46】【思考加速:31】【魔道具製作:42】【薬学:2】【医術:10】【水泳:4】

《種族スキル》

《ユニークスキル》

【轟雷ノ天龍】

 ――――――――――


 魔蟲との戦闘でレベルが上がっているのはもちろんだが、今回最も注目するのは魔力の項目。


(ここまで増えるってことは)


 イピリアに伝えられた特性は言葉通りだった。


『おい、リュクディゼム、戻ったぞ』


 俺が自身を確認している傍でイピリアは声を上げる。その声に答えるように蓋をするようになっていた枝が動き洞の出口になる。












『どうだったかい?』

『問題ないぞ、鱗を渡したからな』

『それはよかった』


 洞を出ると近くの岩に腰掛け、イピリアとリュクディゼムの念話が始まる。


「リュクディゼム、一つ頼みがある」

『ん?なんだい?』

「あなたの実をいくつか渡してほしい」


 この言葉にイピリアが不平を言う。


『おいおい、言ったではないか、こやつの実を食ってもお主にはデメリットしか』

「いや、俺が食うわけじゃない」

『ならどういうつもりだ?』


 イピリアは鱗を渡すことを考えていたから忘れているみたいだが、俺の本来の目的はヨク氏族に友として認めてもらうことだ。


 そしてその際に必要なのが、ヨク氏族の皆の前でその実を食すことにある。ただこれは無事にリュクディゼムの元までこれたことを示さなければいけないだけで実を食べることが目的ではない。


 そのため別段手ぶらで帰ってもいいのだが、信憑性を持たせるためにもっともらしい証拠が欲しかった。


「だから、その実はすでに食ったとい言い放ち、その証拠にいくつかの実を余分に採っていたという形にしたい」

『どういうことじゃ?』


 説明すると手順はこういうことになる。


 まず俺は無事に実を入手することができた、だが途中で何かに襲われてしまい、力を手に入れるべく実を食して何とか撃退した。撃退した後は再び実を複数手に入れることに成功、それを証拠にするために戻ったということにしたい。


「これならばとりあえずは実を食ったことにはできる」

『なるほどのぅ、じゃがもう一つ皆の前で食えと言われたらどうする?』

「そこは何とかするさ、それにユニークスキルで帯電すれば信じてはもらえるはずだろう」


 駄目だとしてもほかに手はある。


「じゃあ、リュクディゼム、お願いできるか?」

『いいよ』


 目の前に金色に輝く木の実が二つほど差し出される。できるだけ枝を傷つけないように優しくもぎ取る。


『ええ、それじゃあね、もしなんだったらいつでも頼ってきなさい、バアル君ならいつでも歓迎だから』

「その時は是非。ではいずれまた『飛雷身』」


 こうして目的を達成し、下山することになった。













「おそ~い~~」

「いや、早い方だろう」


 別れた場所に戻ってきたのだが、レオネが文句を言い放つ。時間としては2時間も経ってないのにだ文句を言われるとはこれいかに。


 だがレオネの反応と打って変わってハークスとファルコは信じられない物を見る目だった。ここまで早くに取ってこれるとは思わなかったのだろう。


「それで例の実は?」

「それがな―――」


 ハークスの問いかけに、事前に準備していた案を使う。


「それはよかった」

「よかった?」


 既に食べてしまったと、言い張るとなぜだかハーストは安心する。


「その実は二つ食うと体は雷に焼かれる、だから一つしか食べてはいけない」

(それじゃあ言い訳とかも必要なかったか?)


 一応は何通りかは考えていたのだがその手間が省けた。


「ちなみにこれはできるか?」


 そう言うとハーストは帯電し始める。


「ああ(その実の力じゃないがな)」


 帯電するだけならただユニークスキルを発動させるだけ証明できる。手段は違うが帯電自体は全く同じため正確な判断はまずつかない。


「おお、なら問題ないな」

「ああ。それと証明になればといくつか持ってきたんだが」


 余分に貰って来た実をハーストに渡そうとするのだが受け取らない。


「それはお前がとってきた獲物だ、俺たちが受け取る資格はない」

「そうだ、これはお前の戦果でもある」


(ふつうは自分の領地で採ったものは地主が管理するべきなんだがな、まぁ、いただいておくよ)


 ハークスたちが受け取ることを辞退したため、所有権は俺の手に移る。


「じゃあ、かえろかえろ~」

「そうだな、すぐさま長老に許可を取って戦士達を動かさないとな」


 二人の目的は少し違う気もするが結局は同じなのでさっさと帰ることになる。










 それからはとんとん拍子で話が進んでいく。


 まずヨク氏族に戻るとすぐさま長老のところに向かい、帯電して見せて実を食ったと説明する。その後はハーストが里の半分の戦士、500人を纏めてレオンの元に合流することになった。合流したらすぐさま探索隊を再編し、『王』と『母体』の捜索にかかる。後は捜索の成果を待ちながら怪我人を出さないようにローテーションを組み順繰りに魔蟲を駆除する。


 そして俺はなぜだか、すべての隊の統括をすることになり、事務処理を行うことになっていた。










「で、なんでこんなもたもたしているんだよ?」


 リュクディゼムにあった二日後、即席で作ったテーブルの向かいでルウが不満げな顔をしている。


「いつまで俺たちはちまちまと雑魚共を潰さなければいけない?」

「仕方ない、残りの『母体』と『王』の姿がないのだから、それとも無謀にも魔蟲の群生地にわざわざ突撃を仕掛けるのか?」


 現在はヨク氏族の戦士500人、それと探索が得意なエナの部隊とそれに準ずるルウの部隊により奥の部分に探索してもらっている。だがそれでも広い大地を捜索するとなると、ある程度の時間はかかってしまう。それに加えて、敵の魔蟲には、空を飛ぶ蜂と『母体』はいないが普通の蜻蛉はいたため、空でも戦闘が起こり、すんなり探索ができるとは言えない。


「たっくよ、おかげでみんな不満がたまっているぞ」

「……衝突はあるか?」


 ヨク氏族はレオンたちとは基本的に折り合いが悪い。今はハーストとエナ、レオン、それと主だった連中が何とか抑えているがいつ内部争いが始まるかわからない状態だ。


「それはないさ、まぁにらみ合いは何度かあったようだがな」

「それだけなら問題ないんだがな………」


 こうして心配している理由はレオンとハーストにあった。








 最初にヨク氏族が合流したとき


「おい、地の者、お前らが足手まといじゃないのか?」

「はっ、今まで傍観していた臆病者に魔蟲と渡り合えるのか?」


 レッツ!ファイト!!カーーーン!!!


 となったわけだ。










「はぁ、あの時はどうなるもんかとひやひやしたぞ」

「ははは、お前もまだまだ俺らの流儀を分かってないな」


 後から話を聞いたが、どうやらハーストとレオンはただ相手の実力を確かめたかっただけだそうだ。ちなみにある程度戦ったら両方とも止まってくれたため、ある程共通の認識があるのだろう。





 バサバサバサ


「おい、バアル。今日の探索組は終了したぞ」

「ファルコか」


 頭上から翼のはためく音が聞こえると、テーブルの上にある料理をどかして地図を広げる。


「場所は?」

「F5からG5まで空からの偵察は終了した」


 このF15やG5はヨク氏族の協力の元作った簡易地図の場所割りだ。まず、グファ氏族のすぐ横からAとして南北で1から20まで割り当てている。


 これを量産して探索班にはそれぞれ担当する部分の地域をくまなく探してもらっている。


「まず『母体』『王』の個体は見当たらず。出現する魔蟲はやっぱり主に百足と蜂、ごくまれに蜻蛉と蠍は見つけたが、100匹に1匹の割合だ」

「わかった」


 地図に報告を書きこむ。


 大体、砂漠までの半分を埋めることはできることができた。順調なのが喜ばし半面、同時に懸念点もある。


(レオン達に聞いた話だと『王』は地中から出て来たという、つまりは地図情報が信用できない可能性もあるな……けど『母体』はそうとも限らない)


 百足は地中に生息しているし、蜂は種類によっては土の中に巣を作る。だが普通の個体でもかなりの大きさ、『母体』ともなればさらに大きいはず。


(大きいなら、その分見やすくはなるはず。何も見つけられずにただただ増殖していくのは必ず阻止しなければいけないな)


「御苦労、ファルコ、では交代して今出ている部隊は休ませろ」

「了解だ」


 ファルコは何も言わずに飛び立っていく。


「意外だな」

「そうだな、ヨク氏族の連中は案外おとなしくしている」


 ヨク氏族がこの地に来るとレオンが素早くヨク氏族でも使いやすい家を建てたり、効率よく食料がいきわたるようにしていたことが功を奏したのか割と素直に言うことを聞いてくれる。


「……………まぁいいか」


 もめ事が起こらないならそれに越したことはない。


「ルウ様!!」

「あ~あ~休憩も終わりか~バアル、早く『王』と『母体』の場所を割り当ててくれよ」


 ルウはそう言いながら手をひらひらと振り、探索班と交代していった。


「俺もさっさとことを片付けて帰りたいよ」


 俺がいなくなったことをグロウス王国の連中が聞いたら……おそらくそこまで変わらないだろう。なにせクメニギスに留学している時点で国元に俺がいないのだから。


(ただ、俺が死んだと勘違いしていろいろ動きとかはありそうだな)


 留学したのと死んだのとではいろいろと差が出てくる。


「バアルくん、報告が」

「こっちもだ」

「あたしもよ」


 そんな考え事をしているとどんどん報告に来ることになる。


(素直に聞いてくれるのはありがたい、ありがたいんだが………一つだけ、一つだけ言わせてくれ)








「なんで獣人にはまともに頭脳労働できる奴がいねぇんだよ!!!!」


 結局何百人もの報告を一人で受ける羽目になった。












「お~い大丈夫か~い」

「……ああ」


 レオネに声を掛けられると空が赤くなっていることに気づいた。


「そろそろ宴の時間だよ~バアルの分なくなるよ~」

「残しておけって伝えてくれ」

「ダメだって~おじいちゃんみたいにずっと椅子に座っていると腰悪くするよ~」


 そう言うと強引に腕を引っ張り立たせる。


「おい」

「ほらいこ~今回は私がバアルを酔い潰してあげるからさ~」

「少し待て、道具ぐらい仕舞わせろ」


 すぐさま作成した地図やペンを仕舞う。


「それじゃあしゅっぱ~つ」


 レオネに背中を押されて宴会場まで移動する。

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