第189話 厄介な少女

「で、お前たちはどういう関係なんだ?」


 会議室で俺とレオネは尋問を受けている。


 問いかけているレオンの瞳は、今までのような穏やかな雰囲気はなく剣呑としていた。


「さっき言ったが、俺は寝ている時にいつの間にかこいつがいたそれだけだ」


 今回の件は完全に俺は関係ないと主張すると、今度は視線がレオネの方に向かう。


「怪我を治してもらったんだけど、その時の光が心地よかったからだよ~」


 この言葉に思わず、?、となったのは俺だけではないだろう。


「レオネ、もう少し分かりやすく」

「そうだね~バアルの近くって暖かい陽だまりのようで心地いいのよ~」


 先ほどの剣呑な雰囲気が消え、レオンが頭を抱え始めた。


「なぁ、あのレオネって」

「……まぁ一言でいえば直感だけで動いているバ、んん、子だな」


 いつも冷静なティタですら苦手そうにしている。


 理論を並べるのではなく自身の直感という物だけで動くタイプなのだろう。それゆえに理論やらが一切通用しない。ある意味では一番たちが悪い。


 その間にレオンとレオネの間で話は続くが。


「ということで私はバアルのそばにいるからよろしく~」

「だがな」

「いいじゃない、私も腕は立つよ~」


 そう言ってレオネは胸を張り、それ以外のみんなが溜息を吐いている。


 そして会話の中に気になる点があった。


「強いのか?」

「……ああ、まともに戦えるのはレオンとエナ、それとアシラぐらいか、それ以外は普通に勝つだろうな」


 ティタの言葉でレオネは実力者であることも判明した。あんなにフラフラとした人物なのに、実力ははっきりしているとのこと。


「いいじゃん、いいじゃん、私もあと少しで雄を探すことになるんだからさ~。お兄ぃも毎回毎回聞いてきたじゃん」

「それは獣人のいい相手を見つけろという意味なんだが」

「そうよ、よりにもよって人族なんて」


 レオンとムールが何とか説得しようとするが、どれも無駄に終わる。


(と言うよりもなぜ、レオネは俺に付いてきたがる?)


 レオネが俺に執着する理由もわからずついてこようとしていることに疑問しか覚えない。


 そんなことを思っている間もどんどん話は進んでいく。


「だめだ、だめだ、俺が認めてない奴と一緒に旅をするなんて。同衾した時点で俺はバアルを縊り殺したいのに」

「ぶ~~、お兄ぃは毎回そうじゃん、男の子を遊ぼうとすると力試しを申し込んで、遊びの邪魔ばっかりして!!」

「それは当たり前だろう!兄としての役目だ」


(いま、かなり物騒な言葉が出てきたのだが?)


 その後は言葉のの応酬が始まった。


 それと


「なぁ、レオンって………すこし………」

「ああ、シスコンだ」


 聞くまでもなくエナは即答した。


「レオンは筋金入りの家族びいきでな姉、弟、妹、従妹、従弟にだだ甘なんだよ」

「……そう、おかげでバロンの家系に婚姻を申し込むならレオンを殺せって噂が出回ったぐらい」

「ちなみにそれは起こったのか?」

「「ああ」」


 なんでも数回、レオンの姉や妹に婚姻を申し込もうとした奴らがいてことごとく打ちのめされたらしい。


「レオネ!」

「いや!お兄ぃでも今回は譲らない!!」


 そう言うと双方にらみ合う。


「レオン、レオネちゃんがここまで言っているんだから諦めたら?」

「……ぐぅ」


 いつの間にか参戦していたビューラが観念するように賛成に回るとレオンの視線がこちらに向く。


「勝負してもらうぞ」

「はぁ?」


 返答する暇もなくレオンの拳が飛んでくる。


 ドン!!


(危ね!?反応できたからよかったが!!)


 すぐさまバベルを取り出し拳を防ぐことができたが代わりに家の外に吹き飛ばされる。


 それは運よく壁に当たらず開ききっている窓から綺麗に出る形になった。おそらくはきちんと計算しながら吹き飛ばしたのだろう。


「ぐるぅ!!」

「っと」


 体勢を立て直そうとすると、すぐさま蹴りが飛んでくる。


 だが戦闘態勢に入ったことで反応ができるようになった。


「いきなりなにすんだよ」

「なに、言葉で説明してもお前は受けてくれないと思ってな強引に力試しをしているだけだ!!」

「だからなんで急に力試しする?」

「お前がレオネの邪魔にならないかの確認だ!試練を受けておんぶにだっこでレオネの負担になりそうかどうかの確認にな!!」


 完全にとばっちりを受けた状態だ。


「じゃあ、レオネを連れて行かなければいいんだろう!!」

「それができるなら苦労はせん!あいつの外見は儚げで愛らしい美少女だがな中身は一級の戦士だぞ、本人が納得せん限り勝手について行くに決まっている」


 儚げの部分は置いておくとして。もし置いて行くとなったら勝手についてきそうなタイプではある。


「だから、お前が負担をかけてレオネに怪我させるか見極めるだけだ!!」


 ドン!


 レオンのかかと落としが地面にひびを作る。


(たしかに威力はすごい、だけど)


 レオンの動きには精彩さがない。明らかにタイミングが遅れて攻撃が繰り出される時がある。


「病み上がりなんだから無理すんなよ」

「っが!?」


 石突の部分での攻撃が簡単に通る。


(やっぱり血が足りてないんだな)


 こんな短期間で増血できるわけがない。


 血が少ないのであれば酸素を運ぶ量が減る。酸素がなければ体内でエネルギーを作り出すのが遅れる。となれば腕力や脚力、果ては判断速度まで鈍らしてしまう。


 なので


「がはっ!?」


 隙だらけの腹に軽めの蹴りを入れる。


「だからさ、今のお前は全快じゃないんだよ、そんな状態で本気では戦えないだろう」

「だが、お前は明日には試練とやらに挑むんだろ、ならば今のうちに試さなければ意味が無い」


 そう言うとレオンは目を閉じる。


「先に謝っておく、少し本気を出すぞ」

「それは構わんが、絶対に後で後悔することになるぞ?」

「だろうな、まぁ一週間も寝込めばいい方だろう」


 個人的にはもっと寝込んでもおかしくないと思うんだが。


「【獣化】『炎心エンジン』」


 レオンは二足歩行の獅子となると毛の先が揺らめく。


「死ね!!」

「まんまだな!?おい!?」


 ユニークスキルのおかげか先ほどとは打って変わり動きが苛烈になっていく。


「そらそらそら!!」


 一つ一つの拳が重くなり、止める度に両手が軋みそうだ。


(だけど爪を仕舞っているから、かろうじて理性はあるんだな)


 とりあえず拳を逸らし、流して、対処する。


「がぁ!」


 一際大きく空振りするのを見逃さずにバベルを打ち込む。もちろん『慈悲ノ聖光』ですぐ治せそうなくらいにだ。


 ニィ

「っ、切れねぇのか!!」


 バベルの刃はレオンの剛毛により防がれて通らない。手心を加えたという意味合いもあるが、それ以上にレオンの強化の幅が大きいのだろう。


「武器を奪わせてもらうぞ」


 レオンはバベルを掴み強引に引き込む。


「っち」


 バベルを放し、距離を取る。


「どうする?お前の爪が無くなったぞ?」

「ならこうすればいいだけだ【紋様収納】」


 すぐさま紋様に変化させて回収し、取り出す。


「ふむ、武器を取り上げるのは不可能か」

「かもな」


 振り出しに戻った。


「その状態で攻め切るしかないか、では!!」


 そして仕切りなおして再び戦いが始まろうとするのだが。







「では!じゃな~~い」








 横からの飛び蹴りがレオンに脇腹に入る。しかも


 ビギッ


「ぐぁが!?」


 何かが折れた音がし、レオンが膝から崩れる。


「もういいでしょ!お兄ぃのこの状態で十分にやりあえているんだから問題ない!」

「いや、それは今俺が本調子じゃないから」

「言い訳するの?男らしくないよ~そういうの~」


 そういうとレオンは何も言えなくなる。


「なぁレオンいいんじゃないか?」

「エナ!?」

「ああ、本人がこういっているんだ、もういいんじゃないか?」

「ムールまで!?」


 女性二人からの援護で最後にはレオンが折れた。


「……いいだろう、レオネ好きにしろ」

「ほいさ~!!」


 一連のやり取りでレオネがついてくることが決まった。


(いや、どう考えても邪魔でしかないんだが?)












「ぷっは~~いや~~おいしいね~~」


 その夜、椰子の殻らしきもので果実酒を飲んでいるバカが一人。


「いや~いい気分~~どう、バアルも飲まない~」

「飲まん、それと絡みついてくるな!」


 質の悪い酔っ払いとなったのはなぜだかやたらとべたべたとしてくるレオネだ。


「ほりゃ~のめ~わたしのさけがのめんのか~」

(本当になんでこんなに付きまとわれんだよ)


 いくら拒否しても、ぐいぐいとくるので仕方なく受け取り飲む。


「ん?やけにあっさりだな」


 ほんのりと甘みを感じさせて、後味があまりなく、スルっと飲めてしまう。


「そりゃね~お母さんが大事にとっておいた奴をがめてきたからね、おいしいはずさ」

(おい)


 そういってレオネはぐびぐびと飲む。


「おお、いい飲みっぷりだな、ほらよ」

「おお~くるしゅうない~~」


 諦めないなら、構えなくさせるだけだ。


 それからはわんこそばの要領で飲み干したらすぐ注ぎ、飲み干したらすぐに注ぎを繰り返しべろんべろんにする。


「うにゅ、もう無理~~~」


 スタスタスタ、トン


「スピ~~」


 なぜだか寝入ると背中に回り、体重を任せる形で眠りにつく。


「おい寝るな……………エナ」

「自分で何とかしな、行くよティタ」

「……がんばれ」


 助けを求めるが、エナとティタは俺を見捨て、この場を離れていった。


「はぁ~どうすっかな」


 近くの奴らを見てみると全員が視線を逸らす。


 その理由は


「…………………」ジィ~~~


 レオンが鋭い視線でこちらを見据えている。


 誰もレオンのあの視線を受けたくないのだろう。


「こら、いい加減割り切りな」


 ムールが肉を持ってレオンに近づく。


「けどいずれ家長と為る身としてはだな、妹たちにいい相手を見繕う義務が」

「それは何も実力や性格だけじゃないでしょ」


 今度はビューラも果実を持ちながら近づいていく。


「ほら、血が増えやすい果実よ」

「いい、そんなもの食わんでも」

「また、そんなこと言って、ほら」


 ビューラは無理やりレオンの口に赤黒い実を突っ込む。


「っうぐ!?」

「吐き出さないでね」


 何とかレオンは飲み込む。表情から本当に食したくない果実なのだろう。


「うげ、これは渋いから嫌いなんだよ」

「だめよ、レオンは小さいころからこれが苦手だけどそろそろ克服しなくちゃ」

「そうはいってもな、嫌いなものは嫌いなんだよ」


 そういうとビューラが延々とレオンに説教する。


「おうおう、やっぱビューラもレオンを尻に敷いているな」


 ルウがレオンを指さしながらからかう。


?てことはビューラもレオンの妻なのか?」

「ああ、って、知らなかったのか?」


 初耳だ、レオンに複数の嫁がいることは知っていたが。


「だから、ほら」


 ルウが指さした先では、涙を流しながら地面を殴っている数人がいた。


「まぁモてない奴からしたら嫉妬狂いしそうになるわな」

「ルウはどうなんだ?」

「俺?俺は4人いるぞ」


 ここにも嫉妬の対象がいた。


「俺の弟もレオネに求婚したことがあるんだが拒否されてな」

「………どう返してほしいんだ?」


 嫌味なら言われても困る。むしろその弟を呼んでこいつを引き取ってほしいぐらいだ。


「いや、弟は将来有望されていたんだが、そんな弟を拒否したのにお前にはべったりでな、不思議なだけだ」

「俺もなんでこいつがこんな、なのか知りたいぐらいだよ」


 ルウも認めているほどレオネは実力者だという。


「お前、明日はヨク氏族に行くんだろう?ならきちんと体調を整えておけよ」

「いや、この状態をどうにかしたいんだが?」

「嫌なら、そこらへんに転がしておけよ。まぁそこまで酔っているんなら他の雄が襲い掛かるかもしれないがな」


 ルウは笑いながらそういうと離れていった。


「はぁ~仕方ないか……よっと」


 仕方なくレオネを背負うとそのまま寝床に連れていく。

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