第八章 義の獣達
第166話 事の顛末
ガタ、ガタ、ガタン!!
「っ~、もう少し丁寧に運べよ」
さて、現在、俺、バアル・セラ・ゼブルスは
ガタン!ガタガン、ガタン!
檻を載せた台車が爆速で道を進む。ちなみに台車にはスプリングなどは存在しているわけもなく振動がダイレクトに伝わっていて、何度も舌を噛みそうになり、天井に頭をぶつける。さらに今通っているのはただの獣道らしく平たい地面などなく凹凸だらけだ。
「****、******?」
「*****、**********」
檻を運んでいるのは、聞いたことのない言語を喋っていて様々な獣の特徴を持つ
「くそ!!おい!!!!俺を誰だと思っている、お前らのような蛮族が触れていい相手じゃないんだぞ!!!!」
台車の上には他にも檻があり、その中には同様に拘束された人物がいる。
獣人はクメニギスでは奴隷として認知されており、扱いがいいわけもない。状況もわからないバカならこんなことも平気で言えてしまうくらいに低く見られている。
だが当然こんなことを喚けば
「****!!!!」
「がはっ!?」
豪華な服装を着ている人物がうるさかったらしく棒で叩かれている。
(本当になぜこうなるのか………)
事はマナレイ学院の研究発表で起こる。端的に言えば、なぜだか研究発表の際に獣人が乱入、場をかき乱し数人を拉致、現在どこかに逃走中。俺は最悪にもそれに巻き込まれてしまった。
(手際から考えてかなり前から計画していたはずだ………ルナの奴に賠償金でも請求してやる)
こういう時の人員のはずなのに役に立ってない。セレナの比じゃないほどの大金を請求しても文句は言われないはず、いや言わせない。
(進む方角は詳しくは分からないが、西方向か)
残念ながら拉致された時には気を失ったので、攫われてから目を覚ますまででどこまで来たのかはわからない。
唯一分かるのは日の登り沈みで西に向かって進んでいることぐらいだ。
そのまま檻に閉じ込められたまま、どこかに向かって進むのだが、獣人がいくら速いと言ってもそんな数日でたどり着けるわけがない。
なので当然、時間が立てば夜になる。
「*****」
獣人の一人が檻の中にクッキーに似た何かを置いて行く。
「んぐ(味は案外好みなんだよな)」
柔らかいクッキーではなく、固く。甘いわけではなく、塩味が利いていて、さらには肉らしきものも入っている。
もちろん本来なら食うべきではないが、とある事情で食わざるを得ない。
「………」
「……なんだよ?」
時たまに檻の外にあのハイエナの獣人が監視に来る。
「安心しろ、
どうやらは寝ている間に俺の体に何かしたようで現在魔力を使用できない。
もっと具体的に説明すると魔力をうまく操作できない。例えると全身麻酔を打たれているような感覚だ。
それは体外で発動する魔法も、体内で発動する身体強化も、スキルの
(まさか、ユニークスキルを封じる方法があったとはな)
根本的に使えなくさせているわけではないが、十分に封じる手段として存在している。
なにか痕跡はないかと体を調べてみたら腕の一部に針を刺したような跡があった。おそらくこれが原因だろう。
そしてこれが食料事情に関係する。
(『亜空庫』が開ければ、食う必要もないんだがな)
いざという時に重宝する魔法が使えない。その中には当然食料を保存している『亜空庫』も例外ではなかった。
なので仕方なく、獣人が用意した食料を食べている。
(攫った以上は使い道があるはずだ、それがある間は殺される可能性は退くと考えていいだろう)
こういった理由から毒が仕込まれている可能性は少ない。
またこの食事が魔力が使えなくさせる可能性も考えて最初の1日は何も食わずにいたのだが、魔力が使える気配はなかった。
(なので食事が原因ではない……とは考えられないが、現状だともしも逃げ出すときに体力を残しておかなければいけないから断食はしないほうがいい、それに)
ギヂィ
ほんの少し手に力を入れると蔦が軋む音がする。
(全力を出せば手錠も檻も素手で壊せなくはない、機を見るのが一番だろう)
やろうとおもえば魔力が封じられている現状でも抜け出すことはできるはずだ。
おそらくは通常のステータスなら抜けられない強度なのだろうが、残念ながらこちらはすでに大人よりもはるかに身体能力が優れていた。
逃げることはいつでもできるため、今は雄飛の時を待つ。
ジィーーーー
「だから、なんなんだよ」
さっきからハイエナの獣人に見られて落ち着かない。
「******?」
声がすると今度は俺を拉致した蛇の獣人が現れる。
ハイエナの獣人と裏腹に真っ白い肌に、白銀の髪をしており、目つきは鋭くまさに蛇というにふさわしい。
「******、*******」
「*****」
「**************」
「*************」
「********************」
なにやら目の前で会話が始まるが、言葉が理解できないので、内容など知りえるはずもない。
(しかし、俺を拉致した理由は何だ?)
他の檻に入っている人物を見て考える。拉致されたのは成人した男性のみ、子供もいなければ女性もいない、しかも言動や身なりから結構な立場の人間だと判断できる。
(………とりあえずじたばたしても始まらないか)
檻の中で楽な体勢を取る。
(やることは大まかに三つ。一、身の安全の確保。二、現在地の把握。三、魔力が使えない理由の解明)
一つ目の安全の確保は言わずもがな。
二つ目は逃げるための布石、現在地がわからなくて帰れないなんて笑い話にもならない。
そして三つ目だが
(まさかとは思うが魔力を封じる方法が永続だとは思いたくない)
一生魔力が使えないなんてことになれば笑い事ではない。
(ま、そんな方法は未だに発見して…ないんだけどな……)
楽ない体勢を取っているからか徐々に眠気が襲ってくる。
(リンやノエルはどうしているのだろうな。俺を守れないから自決なんてことは……そんなことはしないか、するなら一人で蛮国にでも突っ込むぐらいか)
そんなことを思いながら眠気に身を任せる。
〔~リン視点~〕
バアル様が攫われた数日後、私はマナレイ学院の医療施設にいた。
「放してください!!!!!!」
「その体じゃ無理だよ!?奇跡的に瓦礫の隙間に挟まったからいいものの、普通に考えればぺしゃんこだからね」
獣人は門を崩すため無茶したようで門はかなり大規模に破壊されていた。いくらステータスが高いとしてもあまりにも大量の質量に押しつぶされればただでは済まない。
だが幸いにも私がいた場所は大きな瓦礫の間の隙間で命は助かった。
「ですが、バアル様が攫われたのですよ!!!!」
ベットの上で動かない体に鞭を打ち起き上がろうとする。
「無理よ。左腕は潰れ、肺には肋骨が刺さり、右足はちぎれかけて左足は膝から曲がっていたんだ、学院の魔法でなんとか治ったけど今すぐは無理。リハビリを行わないと、後遺症が出るのよ」
壊れた体はマナレイ学院が総力を挙げて治してくれた。だが、今回のように肉体欠損がある怪我の場合、怪我をする以前に戻るにはリハビリをしないといけない。
これを怠ってしまえば、修復した箇所が十分に機能しなくなる。腕を生やせば、ろくに動かなく、足を直せばろくに走れなくと言った具合に、必ずと言っていいほど障害が残る。
「それにバアルの行先がわからない以上はとりあえずは安静にしておくべきだよ」
「ですが!!」
「落ち着きなさい、探しに行くにしても、今の体で?どう考えてもバアルの足手まといになるのは目に見えているでしょう?」
「っ」
たしかに今のままでは十分な戦力としては見られることはない。それは私自身が痛いほど理解していた。
「それに、バアルの捜索はマナレイ学院が全力を挙げて行う。見つかるのも時間の問題だろうね」
「!?なら、私もそこに、っ」
立ち上がろうとするが腕に裂けるような痛みが走る。
「言わんこっちゃない、治癒した体は言うなれば取り換えたばかりの体なんだよ、少しずつ体に慣らしていかないと」
「でも!!」
「だ、か、ら!!!最後まで聞きなさい!!!!」
ゴンッ!!
ロザミアの頭突きで強制的に寝かされる。
「いてて、聞いて、確かに捜索は行われる、だけどそれは捜索の得意な人員のみでよ、そしてそこに私たちが入ることはできないわ」
「っなら」
「落ち着きなさい、本題はここからよ」
そう言うと、一つの紙を取り出す。
「いい、今回の襲撃は獣人による同胞救出。つまりは多くの救助者がいる、それはつまりどうやっても動けば見つかりやすい」
身体や数が多くなれば見つかりやすくなるのは当たりまえだ。
「だから最初に捜索に長けた先遣隊を出すの。そして次が本命、実力の長けた人たちが集められた実働部隊が先遣隊を追いかけて、襲撃者に追いつきバアルとほかのみんなを救出する。だけど実働部隊を編成するのには時間がかかるの。なにせ襲撃してきた獣人に加えて、逃げ出した獣人の奴隷も相手にしなくちゃなんないから」
「……どのくらいで編成し終わりますか?」
「正直なところわからない、こればかりは人と物資が集まる時間によるから、けど獣人は町の倉庫から大量の食料も盗んでいったから早くて1週間はかかると思っていいと思う」
「なら、私もそこに」
「残念ながら、ドクターストップ。リンの様子からだと最低でも四か月は安静にしなくちゃダメだ」
「そん、な」
それではとてもじゃないが間に合わない。
「そう悲観しないの、この四か月という期間は
「……どういうことですか」
ロザミアさんの言い方だと、普通じゃないやり方もあると聞こえる。
「私が持っている特殊な手段の一つを使えば、まぁより早く治ることは間違」
「お願いします」
「………逸る気持ちがあるのは分かるけど、もう少し落ち着きなさいよ」
「無理です」
私は当然ながら即答するのだが、その様子にロザミアとノエルはため息を吐く。
「説明ぐらいは聞きなよ……激痛を伴うけど大丈夫?」
「問題ないです」
「即答だね、じゃあ……いくよ」
右手が足に左手が瞼の上に乗せられる。
すると
「【再現しろ】」
「がっ、あ゛ああああああああ!!!!!!!!!」
触られたところから今まで感じたことのないような激痛が走り、脳内には何かの映像が見え、直接何かの感覚を感じた。
「リンさん!?ロザミアさん!!」
「わかっているよ」
ノエルの一言でロザミアが手を放すと嘘のように痛みは消えた。
「はぁ、はぁ……い、今のは」
「まって一からちゃんと説明してあげるから」
そう言うとロザミアは深く椅子に座りこむ。
「まず、欠損を直した際に、なぜリハビリが必要なのかというと、感覚を慣らす必要があるのよ」
それからの説明では。
どうやら腕や足は元に戻ったわけではなく、新しく生やしたと言った方がしっくりくる処置をされており、治した部位は新品同然と言える。そんな状態で直ぐに激しく動いてしまえば、それはすべての刺激に対して異常に反応したり、イメージの動きと実際の動きの齟齬、下手をすれば感覚の鈍化などを引き起こしてしまう。
しかもそれらは治ることなどせず、永続的に。
故に欠損が起きた際には長い時間をかけて、感覚を馴染ませていかなければいけない。
その期間が大体三~四か月とされているようだ。
「そしてなぜ、四か月という期間が制定されているのかと言うと、考案されたリハビリをすべて行うとそれくらいの期間がどうしてもかかってしまうからさ。そしてリハビリだけど、これは刺激を順序だてて経験していく内容になっている。すべてのリハビリを終えれば感覚のチューニングが終わったと言ってもいいよ。そして私がやったことだけど」
もう一度足に触れられる。
「そして私がやったのはリハビリの再現よ」
「どう、いう、こと」
「簡単に言うとね本来受ける刺激とその時の映像を瞬時に流してあげたの、これは10項目のリハビリ内容ね」
「……ちなみに何回これをやればいいのですか」
「ざっと、日に20回」
「っ」
あの痛みを20回も……
「あ~勘違いしないでね、普通のリハビリならこんな激痛は来ないから。あくまでこれは凝縮した分、普通の痛みが何十倍にもなっているからだよ」
「……ではそちらでお願いします」
「いいのかい?下手すれば心が死ぬよ?」
「それがいち早くバアル様の元に行けるなら」
迷うはずがない。
「了解だ、では処置を始めていくが、やめたくなったらいつでも言ってくれ」
そういいロザミアは再び手足と瞼に手を添える。
「【再現しろ】」
「が、ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
この日から学院の一部から絶え間なく絶叫が走ることになる。
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