第120話 地に足を着ける

「セレナ?」

「……もしかして」


 俺とセレナは一つの可能性に行きつく。


「おい、話を聞かせてもらうぞ」

「誰がお前なんかに!」

「ちょっ!?」


 セレナが驚いている中、俺は静かに額に手を当てる。


「なんだ」

「『放電スパーク』」


 醜い悲鳴が訓練場に響き渡る。


「さて、話してくれるか?」

「だ、だれが」

「『放電スパーク』」


 もう一度電気を流してやる。


「今度はどうかな?」

「はっ、はなすこ」


 拒否しそうだったのでもう一度流してやる。


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 これらのやり取りを30回ほど続けるとようやく話してくれるようになった。


「で、なんでこんなことをした?」

「………」

「もう一度やるか」

「!?待ってくれ、話す!話すから!!」


 それから『信じられないと思うけど』と続けながら話してくれる。


「俺は前世の記憶をもっている」


 思わず額に手を当てることになった。


「信じられないのはわかっている!だが信じてくれ!本当なんだ!!!」

「とりあえずすべてを話せ、それからだ」


 その後、とあるゲームをしていると死んで神と呼ばれる人物にあったこと、代償を払いユニークスキルをもらったこと、そして転生したこの世界がゲームの世界だと分かったことを話す。


「そうか、では本題だ、なんでクラリスに話しかけた?」

「……」

「言いたくないのならもう一度」

「!?言う、言うから!!」


 クラリスに勝負を挑んだこと、それは一言で言うなら欲情だ。


「本来ならチュートリアルが終わって旅立った後にクラリスに出会うんだ。そして勝負して勝つと仲間になる、そして……」


 オルドは言いどもる。だがその反応からどんなことになるかは大体予想がつく。


「それで、クラリスを仲間にしたくてあれだけ勝負を挑んでいいたのか?」


 オルドは静かに頷く。


 はぁ~


 それと同時に大きなため息を吐く。


 そして同時に納得した、こいつの貴族への対応やら、青臭いところが。


「俺がやっていたゲームは『アルティアフロンティア』ってゲームだ」

「へ?『ロイアルラバーズ』じゃないの?」


 セレナが思わずといった風に口に出してしまった。


「あ」

「え」


 二人は少しの間お互いを見合う。


「お前も、なのか?」


 セレナはこちらを見て確認してくる。


「いいだろう話してやれ」

「は~い」


 許可を出すとセレナも話し始める。


 ゲームをやっているときに機械の不具合で死んだこと、神に会い転生したこと、そして現在俺の下で働いていること。


「ちなみにお前は前世とやらではどんな存在だったんだ?」

鐘原かねはら りく。XXX中学一年」


 想像以上に若かった。


「さて、妄想の話は終わったか?」

「妄想じゃない!」

「……」


 セレナは何も言わないがオルドに同意しているのだろう。


「お前らの身の上話などどうでもいい、必要なのはなぜ国賓であるクラリスに執拗に挑んだか、そして大けがを負わせた理由だ」


 こいつが転生した存在であれ、ユニークスキル持ちであれどもどうでもいい。


「さっきも言った通り、仲間にしたくて」

「じゃあ死罪だな」

「………へ?」


 信じられない言葉を聞いたかのようになる。


「当たり前だろう、つまるところクラリスに欲し自分のものになれと強引に迫り大けがを負わせた」

「ち、違う!!」

「違わねえだろう!!!!」


 強く否定してやるとビクと震える。


「はっきり言ってやる、お前のやったことは強姦と何ら変わりがない、ただ妄想に取りつかれ、けがをさせた、しかも動機がそんな下卑た理由だ」

「で、でも、死刑なんて!?」

「当たり前だ!クラリスはノストニアの王妹なんだぞ!そいつにけがをさせたなんて首が飛んでも何らおかしくない!」


 事態の重さに気付いたのかオルドの顔が真っ青になる。


「俺は、死ぬのか?」

「ああ」

「俺はただクラリスと一緒にいたくて」

「けがをさせたのは事実だ」

「転生までして、あんなみじめな生活から抜け出てきたのに」

「知るか、お前のしでかしたことだ」


 完全に口をつぐんだ。


「バアル様」


 リンのほうを見てみるとクラリスが目を覚まそうとしていた。


「さて開口一番で、どんな罵倒が飛んでくるか」

「んぅ~…………何があったの?」


 クラリスは起き上がり周囲を確かめる。


「まぁ、こいつが試合終了後も攻撃を続けそうだっから拘束している」

「ちが!」

「わないだろう?」


 強く言い放ってやると、オルドはうつむく。


「それで彼はどうなるの?」

「死罪が妥当だな」

「そうなのね………何とか穏便に済ませない?」


 予想した言葉と違った。


「許すのかこいつを?」

「ええ、問題ある」

「ある、なにせお前を」

「どうせ、私に振り向いてほしかったんでしょう」


 この言葉にはオルドは目を見開く。


「どうしてそう思った?」


 俺の言葉に肩をすくめて答えてくれる。


「私はノストニアでもかなりモテていたのよ」

「それで?」

「もうすこし興味を持ってよ……もちろんいろんな意味でよ、王の妹ってことで寄ってくる奴もいたわ」


 それこそ汚い手を使ってでもとクラリスは付け足す。


 確かにクラリスはほかのエルフと比べると精霊と契約できないという欠点があるが、それは戦士や格式を持つ場合の話だ。言い方はは悪いがアルムとの血脈という点でクラリスが求められることはそう不思議な事ではないのだろう。もちろんその後の扱いは押して図れるが。


「それに比べたら、その子はまだかわいいほうよ、なにせ自分の武だけで私を惚れさそうと頑張っていたし」

「それでも国としては許容できないな」

「あら?この場を整えてくれたのはだぁれ?」


 思わず顔をしかめる。


「お前だろう?模擬戦を受け入れたし」

「違うわね、私にけがをさせないようにするならあなたは止めるべきだった。違うかしら?」

「………」

「てことで死罪はやめてあげて」

「はぁ~」


 盛大なため息を吐いた後、わかったと告げる。


「セレナ、拘束を解いてやれ」

「はいはいさ~」


 オルドを拘束していた土が元に戻っていく。


「いいのか?」


 オルドはふらつきながらクラリスに近づこうとし、セレナとリンが警戒する


「何がかしら?」

「俺はクラリスを」

「あなたにどんな気持ちがあったかなんて知らないわ、でもあなたは私にその力を見てほしかったんでしょ?」

「ああ」

「ならそれまでよ、それに私と話をしたいならバアルに勝たないとね」


「おい」


 さらっと標的を俺に変更させられた。


「ありがとう、ありがとう」


 オルドは泣きながら頭を土につける。


 なにせクラリスの許しがなければ本当に死罪になるところだった。


(ワイバーンには勇猛に突っ込んでいけるのだがな)


 少し人物像がおかしくなっているが、とりあえず納得することにした。


「さて、じゃあ約束通り、用事もないのに声をかけないでね」

「はい、本当に……ごめんなさい」


 オルドの謝る姿が年相応に見えた。










 それからというものオルドは俺たちに突っかかることはなくなった。


「はぁ~これでゆっくりと過ごせるわ」


 クラリスはオルドが近づいてこないだけでリラックスできている。証拠に授業が終わると背伸びをして楽そうな姿勢を取っていた。


「バアルさま」


 セレナが教室に入ってくると、一つの紙を渡してくる。


「話を聞きに行った内容です」

「ご苦労」


 オルドの罪は貴族である俺に不敬を働いたとして1週間の謹慎処分となった。


 これはクラリスの件ををうやむやにするために仕方なく取った措置だ。


「へぇ~」


 書かれているのはオルドが覚えている限りのイベントの情報だ。


(セレナとのゲームが違うが内容は全く同じか)


 こんなことがあり得るとは思えない。


「それで本人の様子は?」

「なんかすっきりとした?表情でしたよ」


 ようやく地に足がついたというやつだろう。


 物語の世界に転生されて主人公になったと錯覚していたがゆえにあのような言動になっていたと予想できる。


「どうします?取り込みますか?」


 リンが雇い入れるかどうかを聞いてくる。


「ない、今までの言動が言動だ。これから挽回できるとしても俺は雇う気はない」


 ユニークスキル持ちだというのは大きいが貴族社会に慣れてないのはだいぶきつい。


 日本での価値観を捨てられない限り、この国では立身するのは限りなく難しい。


「クラリスに執着する可能性は?」

「ないとは言い切れませんが、おそらく大丈夫なのでは?」

「理由は?」

「失恋したとはっきりと自覚したんです、これ以上何かしてくるのは少ないと思うの」


(……そういえばオルドは中学生だったな)


 恋愛を拗らせていたと考えればあの対応も納得だ。


 こうしてオルドの暴走はとりあえずは収まり、日常に戻っていく。











〔~オルド視点~〕


 俺は転生した、『アルティアフロンティア』というゲームにそっくりの世界に。


 死んだ原因がゲーム機の不具合と聞いたときは少し悲しい気持ちになったが、前世には嫌な思いでしかないのである意味よかった。


 理由は簡単だ。小学生から中学生になると、うまく馴染むことができなく、いじめの対象になった、ただそれだけ。だがそれだけにきつかった、なにせろくに社会を知らない子供が仲間内からはぶられるのだ、そのつらさはわかる者にしかわからない。


 最初の3か月は何とか耐えて学校に通ったが、夏休みに直後に心が折れてしまった。


 学校に行かずに引きこもりになると俺はゲームの世界にどっぷりとはまり込んだ、それが『アルティアフロンティア』だ。そのゲームは巨大なワールドを旅するゲームどこか遠くに行きたいと思っていた俺には最適だった。


 チュートリアルである学園で武器の使い方、魔法、地理を学び卒業と同時に旅人となり旅に出る。


 もちろん一人ではない、同じプレイヤー同士で旅してもいいし、AIを搭載したNPCと旅ができた。


 そしてNPCの中に気になるキャラクターがいた。それがノストニアの姫、クラリスだった。


 クラリスが旅に出た経緯は自身だけ精霊と契約することができず、いつまでも半人前と見なされていた、そしてクラリスはそれを覆すために旅に出て様々な冒険をしていく。その姿に、俺は強いあこがれを抱いていた。


 精霊と契約できないというだけで半人前と見なされ、それを覆すために旅に出る、それをなによりもかっこいいと感じた。そして俺はどこに行くにしろクラリスを連れていっていた、クラリスといると俺もあんな風に克服できるんじゃないかと。


 ようやく決心がつき、冬休みが終わると同時にまた学校へ行ってみようといきこんでる最中に機械の故障が起こってしまう。


 転生してから気持ちの整理がつき、前世と決別するとこの世界で強く生きていこうと決めた。幸い俺がもらったユニークスキルは努力するためのものだった。


 そして年月が経ち、学園に入学すると『アルティアフロンティア』のメインキャラのアーク、ソフィア、カリナ、リズと出会う。


 それから俺は4人と力を合わせて様々なイベントを乗り切る。だがイベントが起きるのだが少しずつ何かがズレていて、理由は知らないが完全な未来シナリオではないんだと理解した。


 そしてノストニアに訪れた時には心が躍った、自分が最も会いたかったキャラクター、クラリスに出会うからだ。いまだ国に残っている段階なので仲間にできないだろうと思っていた、だがこんな予想は簡単に覆される。


 いつのまにかクラリスがグロウス王国に来ることになった、それも嫌いなキャラのバアル・セラ・ゼブルスの婚約者・・・として。


 そのことを知ると俺の感情が自分でもよくわからなくなった、悲しみや怒り、果てまではよくわからず憎悪をも抱くようになった。


 そして感情の赴くままに行動してしまった。


 まずは合同訓練でクラリスとの模擬戦を行い、実力を認めさせた。この後はゲーム同様、戦いに勝てばクラリスはゲームの時のようにパートナーになってくれると、本気で信じていた。学園で何度も声をかけて、ようやく放課後に戦うことになり、俺は勝利した。


 そしてゲームみたいに『そう………もしよかったらあなたについていっていいかしら?』といい仲間になると思っていた。


 だが、返ってきたのは『そう………ありがとね』という言葉だった。


 この言葉を聞いたときに自分の中で何かが壊れた。クラリスはそんなことを言わない、クラリスなら俺のパートナーになってくれると。


 そして最後に心に浮かんだのは、殺意だ。


『心から求めたクラリスは存在しない、ならこいつは誰だ、こいつは偽物だ』と。


 そして、まぁ俺は殺そうと考えてしまう。


 近くにあのいけ好かない貴族がいてあの時だけは感謝した。その後は本気を出したのにバアルとその取り巻きにボコボコにされた。


 そして尋問されて、俺は自身が転生者だとしゃべってしまった。さらに驚くべきことにバアルの取り巻きであるセレナも同じ転生者だと判明した。


 話を聞いたときは驚いた。ゲームは違ったが、機械の不具合から神様と会うまでが全く同じだったんだ。


 この時に悟った、この世界はゲームじゃない。紛れもない現実なんだと。


 そしてバアルから死罪を言い渡されたときは生きた心地がしなかった。まぁ魔物での戦いでも生きた心地はしなかったんだけど、それとはまた違った。なんというか決して外れることのないギロチンが迫ってきているようだった。


 しばらくするとクラリスは目を覚ます。


『さて開口どんな罵倒が飛んでくるかな』とバアルは言う。それも当然だろう、なにせ殺されかけたのだから。


 だが


『そうなのね………何とか穏便に済ませない?』


 とクラリスは言った。


 俺は思わずクラリスを見る。なにせ俺が覚えている限りではクラリスはそんなことは絶対に言わない、敵対者にはとことん冷徹に対処する、それが俺の知っているクラリスだった。


 そして同時にわかった。


 今目の前にいるクラリスは俺が望んでやまないクラリスではないのだと。


 それからはクラリスがなぜだが知らないが俺をかばってくれて、謹慎というだけで済んだ。


 そしてあの場の最後に『ならそれまでよ、私と話をしたいならバアルに勝たないとね』と言った。


 だがもうそんなことはしない、クラリスは俺が望んだクラリスではないのだと理解したから。


 俺は謹慎中に自分の家族、友人をもう一度よく知ることにする。すると今までで見えてこなかった部分がいくつもあり、落ち込んだ。なにせこのような簡単なことに今までに気づかなかったのだから。


 それを教えてくれたバアルには、したくはないが感謝はしている。

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