第110話 生誕祭当日

 セレナの説明を一言で言うとクラリスはエルフの中では落ちこぼれという奴なのだ。


『原則としてエルフは精霊と契約できてようやく一人前とされます』

『だが、稀にだが契約しにくいエルフがいるとウライトに聞いたが?』

『はい、ですがそれは契約しにくいのであって契約できないわけではありません』

『…………その言い方だと』

『はい、クラリスは根本から違います、しにくい・・・・じゃなくて、できない・・・・のです』


 これで判明した、なんでクラリスが精霊に関して悲しそうにしていたのか。


『でも、なぜだ?』

『それは分かりません、クラリスのエピソードには答えが無かったので』


 これが普通のエルフだったら仕方ないで済まされるかもしれない、だけどクラリスは王族だ。不祥事では済まされないのは想像に難くない。


『ほかにもね、弓の適性は低いし、魔力の量も普通の十分の一ほどしかないの、その代わりに』

『ユニークスキルを持っているか………』


 人族ヒューマンからしたら実力者でも、エルフからしたら一生半人前どまりというわけだ。


(…………上手くいけば勧誘できるか?)


 ユニークスキル持ちは人族ヒューマンの間では貴重だ。


 大成できないエルフの国と身分の保証され将来も約束されたグロウス王国で身を立てること。俺がその立場なら後者を選ぶ。


 とりあえずクラリスが精霊と契約したい理由は分かった。


(この祭りで契約できなかったら本気で勧誘してみるか)


 そんなことを考えていると神樹の根に囲まれている大広場にたどり着いた。


「では皆さまはこちらの席でご覧ください」


 俺達は神樹の根の上に用意されている席に案内された。


(ここからなら見渡すことができる、そして)


 同時に行事に関わることは絶対にできない立ち位置になっている。


(何においても邪魔するなよってことか)


 丁重に持て成すふりをして、大事な行事に何かしないか監視している訳だ。


(こちらは何もするつもりもないから、杞憂だな)


 胸の内を読むことはできないので警戒するのも仕方ない。












「そろそろ始まるわよ」


 俺の隣に座ったクラリスが始まりを告げる。


 配置としては父上が一番端におりその隣に母上、俺、クラリスの順に座っており。


 リン、セレナ、カルス、ノエル、カリンは一つ後ろの列で座っている。護衛はその後ろに並んでおり、さらに俺たちを囲うようにエルフの護衛が並んでいる。


(この形にどんな意図が込められていることやら)


 とは言っても俺達よりも小さい子は、すでに全員前の手すりにくっついて広場を見ているが。


(いくら【算術】のスキルがあっても、前世ならまだ小学生なんだよな………)


 そう思うとスキルの神秘を感じる。


 そんな思考をしていると広場で動きがある。


 広場に空間が空くとなにやら物々しい衣装を着たエルフが道を作る。それは王の通り道と呼べるにふさわしい物なのだが、なぜだか通路は祭壇らしき場所から広がの中間までしか出来上がっていない。いったいどこから現れるのか。


 シャラン!!


 次に大きな音が響くと全員がそちらに注目し始め。音は空から響いており、全員が空を見上げる。


「来たわね」


 空には何やら豪勢な絨毯が浮かんでいる。そこにはいつもの服装ではなく特別に仕立ててあるのがわかる服装のアルムと現森王のルクレ・ルヴァムス・ノストニアがそこにいた。


 その後ろにも同様の絨毯が存在しており、様々な楽器を持ったエルフが音を奏でていた。アルムの絨毯が下りると同時に広場でも音楽が鳴り響く。さらにはアルム後ろにいた様々な服装を着た軽装のエルフが広場に降り、踊りを始める。舞踏では薄い布がいきかい、優美な雰囲気になる。








(………………案の定、俺以外は場に飲まれているな)


 ここにいる全員が踊り子と下りてくるアルムたちに集中していた。


 そして踊りと音楽が終わると同時にアルムたちが広場の高台に上り、宣言する。


「精霊の子らよ!!これより継承の儀を行う!!!」


 風の魔法で拡散された声が響き渡ると同時に歓声が沸き上がる。


「それではこれより三日、我が息子ルクレ・アルム・ノストニアが神権を授かるために神樹の祭壇を廻る!」


 陛下の背後に光輝く鳳が現れる。


「精霊王輝鳳ベンヌ、皆に祝福を与えよ」


 鳳はその言葉を受けると白い翼を羽ばたかせながら空を舞う。


(なんだ?)


 輝鳳ベンヌが空に飛んでいくと空に光の粒子が漂い始めた。


「クラリスこれは?」

「ああ、精霊王の祝福よ」


 クラリスの話によると、精霊王とは森王の契約している精霊のことを指す。


 そしてこの粒子は精霊王が消滅するときに発生する魔力の塊だとか。


「?精霊王って消滅するのか?」

「そうよ、正確に言えば転生ね」


 なんでも精霊王になった存在は記憶を保ったまま元の低級精霊に戻ることができるらしい。


「弱くなるということか?」

「むしろ逆よ。精霊王は転生するごとに性質を獲得していくの」


 たとえば火の精霊王が転生し、水の低級精霊になったとする。その場合は元の火の性質を残しながら水の性質を得ることができる。


「つまり強くなれる可能性を得て転生するわけか」

「そう言うこと。そして転生の代償に自身の魔力総てを振りまき精霊やエルフに分け与えるの、それが」

「この粒子、つまり精霊の祝福か」

「その通り、しかもこれは純粋な魔力だからすぐに体に馴染んでくれるわよ」


 たしかにこの粒子に触れると魔力が高まるのがわかる。


 鑑定のモノクルで自身を計測してみると



 ――――――――――

 Name:バアル・セラ・ゼブルス

 Race:ヒューマン

 Lv:42

 状態:普通・祝福

 HP:749/749

 MP:11531/1331+200(装備分)


 STR:93

 VIT:81

 DEX:109

 AGI:134

 INT:152


《スキル》

【斧槍術:45】【水魔法:3】【風魔法:2】【雷魔法:25】【時空魔法:11】【身体強化Ⅱ:14】【謀略:29】【思考加速:21】【魔道具製作:27】【薬学:2】【医術:7】【水泳:2】

《種族スキル》

《ユニークスキル》

【轟雷ノ天龍】

 ――――――――――


(MPが1万上昇しているのか)


 魔力量が母数を振り切り、そして『祝福』という状態にもなっている。


 これについてクラリスに尋ねてみると。


「その祝福ってのは一時的に魔力回復が上昇して、なおかつ自身の魔力の浸透する領域が拡大するのよ」

「魔力回復はわかる、だが浸透する領域とはなんだ?」

「簡単に言うと精霊に見つけてもらいやすくなるってことよ」


 クラリスの説明だと普通は漏れている魔力は体の近くでとどまっている。だが祝福の状態だと、その魔力が周囲に広がりやすくなっている状態なのだとか。


(撒き餌に近い感じか)


 基本的には魔力が上昇する以外に恩恵はあまりないらしい。


「それでは皆の者、ルクレ・アルム・ノストニアを見送ってくれ」


 広場に視線を戻すとアルムが神樹に向けて歩みを始めた。


「これからアニキは三日かけてすべての祭壇で祈りをささげるの、そしてそれが終わると本当の森王として認められるわ」


 アルムが神樹にある最も大きな蔦の道を進み、見えなくなる。


「さて、じゃあ行くわよ」

「どこに?」

「決まっているわよ、祭りを楽しみによ」


 クラリスに連れられて僕たちは賑やかな街中に戻る。


 その際にアルムはいいのかと聞くと。


「問題ないわ、もとよりアニキたちは三日間神樹の祭壇に籠りっきりになるから」


 なのであの場所での役割は見送りだけだったらしい。


「それよりも早くしないと、いなくなっちゃうわよ」


 クラリスの言葉に何がと聞くと見たほうが楽しいと言われた。









「ああ、もう顕現している」


 クラリスが何を指してそう言っているのか質問する人物は俺らの中にはいなかった。


「急ぎましょう」


 町を進んでいくと昨日とは段違いの熱を感じる。


 それもそのはず、町の中には様々な淡く輝く動物や光の玉が至る所にいるのだから。


「これが精霊よ、神樹から放出する魔力と精霊王の祝福でこの三日間だけ姿を見せてくれるの」


 数多くのエルフが精霊石をもって町の中を練り歩いている。


「クラリスさん!それで精霊石はどう使えばいいのですか!!!」


 セレナは興奮を抑えられないのかクラリスに詰め寄ろうとする。


「こら」

「ぐぅえ」


 襟首をつかみ阻止する。


 クラリスはこう見えてもノストニアの王族だ、こう見えても。


「簡単よ、精霊石に魔力を注ぎ込めればいいの」


 アドバイスをもらうと早速セレナは魔力を籠め始める。


「ふんぬぬぬぬぬ」


 なにやら変に力んだ声が聞こえるがとりあえず無視する。


「セレナちゃんもう少し魔力は少なくていいわ」

「そうなんですか?」

「ええ、むしろ程よくやらないと魔力が少ない人族ヒューマンはすぐに枯渇するわ」


 セレナはアドバイスをもらいながら籠める魔力を調整していく。


「精霊は自分に適した魔力を持つ存在に宿るの、だから魔力を拡散させていろんな精霊に呼びかける。だけどそれが見つかるのは場数が必要よ」


 つまり数撃てば当たる作戦というわけだ。


 精霊石で効率よく魔力を増幅拡散させて自身の魔力がどんなのかを宣伝する。そして自分に適した精霊を見つけて契約する、それがこの祭りの趣旨だとか。


(なるほど、セレナが興奮するわけだ)


 セレナならこの祭りの趣旨は知っているのでここまで興奮して契約しようと躍起になっている。


 すでに契約しているエルフたちは露店を開いたりして各々祭りを楽しんでいる。


 中には精霊に餌付けなどをしている露店すらもある。


「普通の祭りと思って楽しめばいいわよ」


 こうして全員で幻想的な祭りを楽しむ。

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