第111話 生誕祭二日目
一日目の祭りを楽しみ、アルムの別荘に戻ってきた。俺たちは祭りを楽しみ、満足げな疲労感を感じていた。既にアルベールとシルヴァは満足げに眠りについていたほどに。
ただ、それは極数名を除いて、だった。
ズゥウウウウゥゥゥゥンンンン
リビングの机には擬音が聞こえそうなほど落ち込んでいるセレナがいる。
「まぁ、仕方ないさ」
机に突っ伏しているセレナを慰めている父上。
「すみません」
「いいのよ、セレナちゃんは期待していたものね、落ち込むのも仕方ないわ」
母上もセレナに声をかける。
「まだあと二日あるから、頑張りましょ」
精霊と契約していないクラリスすらセレナに優しい声をかけている。
「うぅ、ありがとうございます」
セレナは祭りの最中何度か倒れそうになっていた。理由は魔力切れ。精霊石に魔力を籠めすぎたのが原因だった。
「なら初めから精霊石に魔力を籠めることをお勧めするわ」
今朝、クラリスがやっていたあれのことらしい。
あらかじめ魔力を入れておけば、自動的に拡散してくれるらしく、その間に魔力回復に努めることができるという。
「………それにしても」
俺は遊んでいるカルス達を見る。俺につられてセレナとクラリスも二人の事を見るが。
「「……………」」
セレナとクラリスは複雑な目でノエル、カリンを見ている。その理由はノエルの周りに藍色の光る球が、カリンの周りには緋色の光る球が浮かんでいるからだ。
「…………いいなぁ」
「そうね」
二人が羨んでいる。それもそうのはず、ノエルとカリンは『精霊石』など使っておらず知らず知らずの内に精霊が見つかったのだから。
契約を望んでいる二人には現れず、どうでもいい二人に現れる。マーフィーの法則や物欲センサーという言葉が二人には合致してしまう。
そして精霊なのだが、あの光る球の状態は、あれが生まれたばかりの精霊だという。
精霊には階級があり、低級、中級、上級、王級と別れている。
低級は今二人の周りを飛んでいるようにいまだ確固たる姿を持たない精霊のことを言い。
中級は何らかの姿を持つことができるようになり、意思を持つようになった状態のことを指し。
上級は自力で顕現できるようになった精霊のことを指す。
王級は以前説明した通り、森王と契約している精霊のことを指す。この精霊は神樹とつながることができ上級とは一線を画す実力を得ているらしい。
そんな低級精霊に二人は認められ、すでにクラリスの指導のもとで契約も行ってもらった。
当然ながら二人の最も質がいい属性の精霊が選ばれており、ノエルの精霊は闇属性でカリンの精霊は火属性ということも判明している。
(精霊との契約か)
二人が羨み、二人が何とか励ましているのを見ながら、壊れた精霊石を取り出す。
ソーシャルゲームのガチャのようで何となくワクワクする。
生誕祭二日目、昨日と同じ場所を見ても意味がないので違う場所を巡るのだが。
「ひぇ!?」
セレナがとある露店を見ていると悲鳴を上げた。
「どうした?」
「ば、バアル様、む、虫が売られています」
俺も露店を覗くとコオロギやバッタに似た赤い虫が売られている。
「これはなんだ?」
「知らないのですか?これはデッセッスという虫ですよ」
一つ摘み見せてくれる。
「食料なのか?」
「まぁ食料みたいなものですが、これはどちらかというと調味料ですね」
そういうと使い方を教えてくれる。
「この虫を粉末状にして料理に混ぜるんですよ、ちなみに粉末状にしたのがこれです」
一つの壺を見せてくれる。
中には赤い粉末が入っており、原料が虫だとは思えない。
「一口なめてみますか?」
「いただこう」
「「「「「「!?」」」」」」
周りにいる連中ははぎょっとするが俺は気にせず一つまみし、口に入れる。
「ん、なるほど」
口の中にあっさりめの辛みが広がる。味わいとしては胡椒と薄い唐辛子を混ぜたような味わいだ。
「肉につけたらおいしそうだな」
「そうでしょう、おひとつどうですか?」
「粉末状のやつを一壺もらおう」
調味料を一壺購入する。
「……あれ?」
後ろでセレナが何かを思い出す。
「そういえば、ここに来てからの食事って…………」
何かを想像したのか顔色が青くなる。
「セレナ、あれは普通の調味料です」
「でもリンさん――」
「調味料です!!」
リンも想像したくないのかセレナにそう念を押す。
「もしかして
「いや、味は問題ない、問題があるのはこっちだ」
俺は店主に
「そうなのですか?ここの調味料は少なくない数が「「イやぁあ!!――――――――」」…………」
二人の悲鳴で店主は何も言わなくなった。
そして目線で
(どうします?本当に買いますか?)
(…………買うよ)
「では一壺なので5000リフです」
ノストニアの通貨で支払いをする。
ちなみにだがノストニアで使われている通貨は前世同様に紙幣だ。なので最初は両替商も交渉が難航したらしい。
こうして二日目の祭りは女性陣にトラウマを残して無事終えた。
「あはははははははははは」
クラリスにそのことを伝えると腹を抱えて爆笑している。
「ひぃひぃ、な、なに
クラリスは用事があったのか今日は一緒に回ってないため露店のやり取りを知らない。
「知った仲だからいいけど、知らないやつにやるなよ」
「それくらいの分別はあるわよ」
そういうと二人に軽く謝り今回は終了した。
「それでどう?誰か契約できた?」
「いや、今回はだれもできなかった」
今日も頑張って精霊と契約しようとしていたセレナだったが、案の定無理だった。
「それでアルムの儀式のほうはどうだ?」
クラリスは朝方にエルフの使いに呼ばれて行った。
その要件がアルム関係であるとにらんでいる。
「順調と聞いているわ、私が呼び出されたのはあなた達のことと聖獣についてよ」
俺たちに関してはいまだに
「俺たちのことをよく思っていない連中か?」
「そう」
アルムは俺達を歓迎してくれているが、そうでない者はいる。そいつらは今朝クラリスから俺たちの現状を聞いていたのだろう。
「いいのかよ、そんなはっきり言って」
「いいのよ、私はもともとアニキよりだから」
クラリスも報告を求めたやつらをよく思っていないらしい。
なら報告するなよ、と言いたいが上が拗ねてしまったら後々面倒な事になるのは明白。なら報告だけはして協力を最低限にする方が後々も楽にはなるということだ。
「さて、私も明日のために精霊石に魔力を籠めるとするわ」
そういって取り出した精霊石に魔力を籠め始める。
「あ、私も」
セレナも隣で魔力を籠め始める。
『なぁ………助けてくれ』
「ん?」
いつの間にか足元に来ていたウルが助けを求めてくる。
「どうし」
『あそぼーーーー!!』
横から黒い子ライオンがウルに飛びついてくる。
『がっ!?先ほどさんざん遊んだだろ!?』
『まだまだ!!』
そういって庭に出て追いかけっこを始める。
「あら、楽しそうね」
母上がそれを見て笑っている。
「まぁそうですね」
俺からしたら弟妹に引っ付かれ、果てはネアに追い掛け回されるウルを少し哀れに思う。
「バアル」
「なんですか」
母上の声が少し真面目な声色になっている。
「あなた、クラリスとは仲がいいの?」
「……………はぁ?」
言葉の意味を飲み込むのに少し時間がかかった。
「まぁ険悪なほうではないでしょうね」
お互いに理解しているし、尊重もしていると思う。友人と言われれば肯定の返事を返すぐらいには仲がいい方だろう。
「なぜそんなことを聞くのですか?」
「母親の勘かしら」
「はぁ?」
もう一度気の抜けた声が出た。
「要件はそれだけですか」
「まぁ、バアルは私との会話は楽しくないのかしら」
「そんなことはないですけど…………アルベールとシルヴァはどうですか?」
「もうぐっすりと寝ているわ、昼間も精霊を見て興奮していたようだから」
子供に精霊か、なんか童話にありそうだなと思ってしまう。
「母上は精霊と契約したいと思いますか?」
「う~ん、
今の生活で満足しているらしく、精霊を手に入れたいとは思わないらしい。
「バアルちゃんは?」
「俺は………どうなんでしょうね」
契約したい気もするがしなくてもいいと思っている。
「もう、遅いから眠りなさい」
「はい」
母上と何気ない会話をしたおかげか、わからないが、なぜだかぐっすりと寝ることができた。
生誕祭最終日。
祭りはいつも通りの賑わいを見せており、精霊と契約したおかげか初日に比べて屋台などを出すエルフが増えていた。
「さてじゃあセレナちゃん!頑張って精霊と契約するわよ!」
「はい!!」
朝早くからセレナとクラリスは意気投合する。
(クラリスに関してはエルフとしての矜持があるからわかるとして、なんであんなにセレナは精霊と契約したがっている?)
すこし不思議に思うが気にせず祭りを楽しむ。
初日は祭りに合っている売り物の通りを散策し、二日目は食料が多く売られている通りを散策した。
この最終日なのだがなんでもアグラが来ているらしいので挨拶しに行こうとクラリスから提案され、東南にある広場に向かうことになっていた。
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