第82話 連鎖し連動す

 ルナの話ではおそらく使われたのは『狂快薬』という薬物とのこと。


 簡単に言うと前世で言う麻薬にあたる。


 効果は天国なような幸福な気分を味わえるようで、依存性は一度使えば抜け出すことができなくなるほど強い。さらには脳を小さくする作用まであるようで、国では真っ先に売買組織と生産組織を潰しているぐらいだ。


「出所は?」

「今のところネンラールが最有力候補に挙がっていますね」


 裏組織の流通を探るとネンラールからの供給が多いそうだ。


「それでこの症状を解くにはどうしたらいい?」

「………今のところは自然回復を待つしかないです」


 拘束し、薬が抜けきるまで待つしかないのだとか。


「だめだ、時間が無さすぎる」

「他にはエリクサーといった魔法薬が必要になります」


 それもできない、エリクサーは希少すぎて物自体がない。


「あの、これで何とかなりませんか?」


 リンが腕に着けている物を見せる。


「………とりあえず試してみるか」











 エルフの部屋では2人係で見張りをしている。


 そして暴れたエルフの方は何十にも太い蔦で縛られた状態になっている。


「では、始めます」







 リンの持つ『ユニコーンリング』の力のは主に二つ、自身を状態異常から守ってくれる【純潔】、体内に入った毒物を除去する【浄化】。今回使うのは【浄化】の力なのだが、いくつもの実験の結果、除去できるものとできないものが存在しているため、今回は賭けに近い。







 リンがユニコーンリングに魔力を籠め始めるが、うっすらとリングが光っているだけで発動しない。


(無理か)


 失敗だと思っていたが。


「ちょっとゴメンね」


 クラリスがリンのリングに手を当てるとさらに強く発行し、白い光が男に向かって飛んでいく。


 そして男が少し光った後は表情が和らいで安らかな寝顔になった。


「……成功か?」


 とりあえず水をぶっかけて起こす。


「ブハッ!ガハッガハッ!!何をする!?」

「おい、現状を理解できるか?」


 数秒黙りこくと、サァーと血の気が引いて行く。


「俺は、俺は!!」

「自責の念に駆られるなら知っていることを総て話せ」


 そう促すと口が独りでに動くように告白し始めた。









 まずエルフが依存症になったのはとあるヒューマンが原因だ。


「俺は地方を巡回中に森の中で行き倒れている女性を見つけたんだ」


 虫の息だったことから人でも関係なく治療をしたそうだ。


 そしたら女性が感謝し。


『故郷で流行っている香り草です、どうぞ使ってみてください』


 といい、火にくべて周囲に煙を撒いたらしいのだ。


「人がノストニアにいる時点で不審に思わなかったのか?」

「もちろん思ったが、あまりにも痩せこけていたから特別な訳があるのかと思って聞かなかったんだ」


 それから体調が戻るまで森の一部に匿ったそうで。


「上に報告しようとは思わなかったのか?」

「ああ、脅威には感じなかったし、雪が無くなれば出ていく約束だったからな」


 そうして行くたびに煙を嗅がされたそうだ。


「そしたらだんだん自制が聞かなくなってきて」

「気づいたら同胞を売っていたわけだな?」


 力なく頷く。


「じゃあ聞きたいのはここからだ、お前はどうやって情報を売っていた?」

「………実は『飛ばし文』を渡して、それを」


『飛ばし文』は村でも使った、紙に文字を書けば文字が飛んでいくあの紙のことだ。


「なるほどな」

「頼む!!信じられないようだが、俺に償いをさせてくれ!!!」


 地面に頭を叩きつけて懇願している。


「アルム様は誘拐組織について調べていて、俺を調べているのだろう!」

「ああ」

「だったらお願いします!俺に、俺に!!!!」


 泣きながら、懇願してくる。


 そんな男にアルムは手を触れる。


「違います、貴方は貶められたのです」

「アルム様……」

「なので頼むのはこちらからです、子供たちを助け出すために僕に協力してください」

「はい、はい!!」


 アルムに差し出された手を力強く握りながら涙を流すエルフ。


(なんだこれは?)


 アルムの額が光り、その光がエルフの中に浸透していく。


「ではこれより僕の手足となり動きなさい」

「はい!!」


 アルムは一人の兵士を手に入れたことになる。


「では、早速だが頼みたいことがある」















〔~アーク視点~〕


「え?任務?」

「そうよ」


 僕たちはノストニアのとある村に来ている。


 そしてしばらくそこで楽しく過ごしていたのだが突然ルーアが村から離れると言い出した。


「どうしてだ?しばらく待機だって話じゃなかったのか?」


 いつもは気にしないオルドでも今回のことは急すぎると思っているみたいだ。


「何かわけでもあるんですか?」

「そうだよ~」

「できれば話してもらいたいのですが」


 僕たち全員がそう言うと悩みながらも話してくれた。


「裏切り者らしきエルフが見つかったのよ」

「「「「「え!?」」」」」


 これには僕たちも驚く。


「今その人物がとある村に訪れる途中なの」

「ということは」

「ええ、また同じことが起こるかもしれないわ」


 アネットの時のように誰かが攫われるかもしれない。


「じゃあ止めないと!!」

「そうだな」


 僕とオルドも準備をする。


「ちょっと!」

「さ~て僕たちも準備しないとね~」

「だな」

「ですね」


 ソフィアたちも荷物を整理し始めた。


「だから」

「ここまで来たら乗り掛かった舟です」

「だね」

「うむ」


 ソフィアたち言う通りだ。


 ここまで来たら放ってはおけない。それにフィアの友達が教えてくれたあの事、よく考えるとおかしく感じる。


「みんな馬鹿ね……ありがとう」


 ルーアも準備を始めた。













「じゃあ、お世話になりました」


 村を出ようとするとフィアやハウ、二人の親であるルハオさんが見送りに来てくれた。


「いや、お礼を言うのはこっちだよ。なにせ二人が誘拐されそうになったところを助けてくれたんだから」

「お兄ちゃん!」

「ありがとう!」


 二人とも抱き着いてくる。


「いえ、お役に立ててよかったです」

「これを、二人を助けてくれたことに対してのお礼です」


 ルハオさんはそう言うと何かの薬品を渡してくれた。


「これは魔力回復を促してくれる薬だよ、残念ながら魔力回復薬マナポーションのように急速に回復はしないが通常よりは速めてくれる」


 これはありがたい、僕たちは魔力切れになる機会が多いから。


「じゃあ今から向かう村でもよろしく頼む」

「「「「「はい!」」」」」


 こうして僕らはルーアさんの任務について行くことになった。










〔~ガルバ視点~〕


「はい……はい……わかりました」

「バアル様からですか?」


 私はデッドさんの部屋でラインハルトさんと情報を見直していた。


「なんでもエルフを攫う手段が分かったそうだ」

「本当か!!!」


 傍で一緒に作業をしていたエルフが声を上げる。


「して、その方法はどのような物じゃったんだ?」

「それは―――」


 ラインハルトは内部に密告者がいたことを告げる。


 そしてそこから攫いやすい子供だけを標的にしていたこと、薬漬けにされて自制が聞かなくなっていたことを説明する。


「そんな…………」


 エルフは茫然としている。


 まさか仲間に裏切り者がいるとは思わなかったのだろう。


「一応詳細は話しておきました」

「だろうな、しかし面白い物じゃな」


 クアレスはラインハルトが持っている不思議な魔道具を興味深そうに見つめる。


「それでは続きを」


 今回は無事にオークションでエルフを買い戻すことができた。


 無論、その際にいろいろな情報を手に入れた。


「まず、可能性が最も高いのは国内の貴族だったな」

「ええ、名前はウニーア子爵、領地は北寄りでネンラールに接している場所にあります」


 ネンラールからアズバン領に行くには必ず通る場所と言ってもいい。


「そして次に怪しいのはアルア商会だな」

「ええ、ここの正体はマフィアの商会ですからね」


 私たちが手に入れた情報によるとこの二つのどちらかが誘拐組織と通じていると予想している。


「一つ質問だが、違法薬物を使っている可能性が高いのはどちらの組織だ」


 ラインハルトがそう聞いてくる。


「そうだな、違法薬物だとネンラールの商人が怪しいけど」

「ああ、だが貴族の方も黒い噂があるのだ」

「……ならば両方調べるしかないか」


 そう思っているとデッドさんが部屋に入ってきた。


「今戻った、それで何か新しい情報は来たか?」

「はい、エルフの誘拐手順なんですが」


 私はデッドさんに誘拐手順を話す。


「なるほど、裏切り者か、しかも薬漬け」


 デッドは何か考え込む、仕草をする。


「それで今後どう動くか聞いたか?」

「いえ、とくには指示はありません」

「……では、俺は好きに動くが問題ないか?」


 私とクアレスはラインハルトに視線を送る。


「すこし待て」


 そういうと再び連絡用魔道具をとり連絡する。


「はい、ラインハルトです……はい、デッド殿が自身で動くようですが問題ないですか?………はい、了解です」


 ラインハルトは連絡用魔道具を切る。


「問題ないそうだ、だた連絡は密にしてくれとのことだ」

「わかった」


 こうしてデッドは別行動となった。


「いいのか?奴の情報力はかなりのものだぞ」


 クアレス爺さんの言う通りデッドの情報収集力はかなりのものだ。


「バアル様の言う限りでは問題ないそうですよ」

「そうか」


 ラインハルトがそういうとクレアスも何も言わない。


「ちなみにデッドはどう動くつもりだ」

「標的がわかったんだ、なら調べるまでだ」


 そう言って部屋から出ていく。


「さて、もう一度情報を整理しよう」










 まず出品されていたエルフから得られた情報なのだが。


 出品が決まると牢に入れられ、中には7人のエルフの子供がいた。子供たちから詳しく聞くとほとんどがアネットと同じく、気絶された状態で運ばれてきたらしい。


 だがその中の数人だけ道中に目が覚めたらしくある程度の現状を把握していたとのこと。


「その子の話だと、太陽が落ちるのとは反対の方向に運ばれて行ってのを覚えてる、と言っていた」

「つまり東か」

「容疑者二人の方向と同じだな」


 辻褄は合う。


 ほかには檻から出されると首輪を嵌められて箱に詰められて連れていかれたのだとか。


「それと道中に箱から外を確認できたのが一人だけいたらしい」

「ほぅ~」

「なんでもでっかい門をくぐっていくのが見えたと言っていた」

「でっかい門か」

「子供たちからの情報は以上だ」


 残念ながらこれだけしか知らなかった。


「で、本命は?」

「……数人の子供から共通の魔力を確認した、これはあらかじめ確認してもらったが、どの組織の人間にもないものだった。目星はついていないがこれにより魔力による誘拐犯の特定がしやすくなった」


 誘拐犯はどうやっても一度エルフの子供に触らないといけない。よって時間がさほど立っていなければ魔力追跡が可能になる。


「よし、これで当初の目的は達成されたな」


 クアレスの狙いはこれである。


 残念ながら確保したエルフの子供たちでは時間が立ちすぎて魔力追跡ができなくなっていた。では薄れる前にエルフの子供たちの魔力を見ておく必要があり、エルフをオークションに出したのにはこのような意図もあった。


「まぁ本音を言えば誘拐犯が直接オークションに出品してくれれば問題なかったのだがな」


 幾つかのダミーを挟んでおり誘拐犯は未だに追跡できない。


「それで賢老、この後はどうしますか?」

「そうだな、当初の予定通り疑わしき二人を探りに行くかのぅ」


 すでにこの領地で得られる情報は少ないだろう、とクレアスは付け加える。


「そこは任せてもらえませんか?」


 いつの間にかエルダが後ろにいた。


「お主一人で問題ないのか?」

「ええ、闇組織といっても普通の調べ事なら教会に勝てると思っていますか?」

「なら、お手並み拝見させてもらおう」


 こうして僕たちは当分の間は派手には動かずにデッドとエルダの情報待ちとなった。

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