第81話 裏切り者の判明

 数日が経つとエルカフィアから再び最北の村に向かう。


「バアル様、例の物をお届けに上がりました」


 受け渡しの場所にルナがやってきた。


「またお前か(グラス、もう少しいい人材を派遣してくれよ)……それで物は」

「なんか今貶された視線を感じたのですが……で、これになります」


 ルナはバッグから包みを取り出す。


「そうそう、これだ」


 中を開くと要求したものがきちんと入っていた。


「未だにそれ一つしかないので注意してくださいよ」

「わかっている、それとお前もノストニアに入ってもらう」


 俺はチョーカーを渡す。


「……またこき使われるのですね」

「当たり前だ、何のために給金を貰っている」

「割に合わないんですが……」

「それは俺じゃなくグラス殿に言ってくれ」


 そういうと何やらぶつぶつと言っているが気にせずエルカフィアへと移動を開始する。









「それで、どういう状況になっているのですか」

「今はな―――」


 エルカフィアの道中にてルナに現状のことを説明する。


「なるほど、裏切り者ですか」

「正確には要る可能性が非常に高いということだな」

「バアル様がそう考えるならいるでしょう」


 毎度思うんだが、なぜだかルナからある程度は信用されている。


「なにせ卑怯なことが得意なバアル殿です、誘拐犯の動向も予想するのが楽なのでしょう」

「なぁ、ここでお前を処罰してもいいんだが」


 俺の言葉でリンがカチッと刀を鳴らす。


「も、もちろん、じょ、冗談ですよ」


 うろたえ方が本当だと伝えている。


「しかし、これはすごいですね」


 ルナは現在、髪の色が金色になり、耳がとがった姿になっていて、傍から見れば完全にエルフだ。


「で、私はそこでどう動けばいいですか」


 ノストニアに入ってもらったのは俺の手駒になってもらうつもりだ。もちろん、ルナもそれは分かっているから出た発言だ。


「それはあとで説明する、とりあえずは急ぐぞ」


 今が例の物を持ってアルムの元へ急ぐ。


(これで確証が手に入れば、あとはすんなりと行くことができるだろう)


















 エルカフィアに到着してから数日。


「で、どうだった?」


 やるべきことを終えてアルムの部屋に来ている。


「顔色が悪いね、彼らは白だったかい」

「………黒だ」


 俺が行ったのはマークしていた人物の尋問だ。


「グロウス王国には便利なものがあるんだな」


 アルムは俺の手の中にある物を見ている。


 俺が以前に電話をしていた相手は近衛騎士団長グラス殿、そして内容が以前俺に使った嘘を見破る魔道具を貸し出してもらうためだった。もちろん最初は渋っていたがエルフの内情をある程度話し協力してもらえた。


 だから簡単に尋問することができた。


「じゃあその表情は?」

「………」


 アルムは俺の表情を見て疑問を持った。


 本来であればこれで敵組織の尻尾を掴み、これからってときなのだ。


「なにがあった」

「実はな―――」












 数時間前~


「じゃあルナ、始めてくれ」

「はい」


 部屋に人形を設置すると部屋中に魔法陣が描かれ、消えていく。


「これより一刻は部屋の中では嘘がわかります」

「そうか………俺はバアル・セラ・ゼブルスではない」


 ガガガガガガガガガガガ


 変な音を立てて、腕が俺の方を向く。


「これが嘘をついたってことか」

「はい」

「理解した、クラリスあいつらを呼んでくれ」


 残念ながらじっくりとやりたかったが、一日に2回しか使えない。ならある程度は簡素に行うしかない。


「呼んだわよ」


 部屋の中に13人のエルフが入ってくる。


「クラリス様、私たちはどうしてこのようなところに」

「残念だけど説明はできないの、そして私の指示に絶対に従ってちょうだい」


 クラリスが反論は許さないと示唆するとエルフ達も口を噤む。


「では順番に答えてください、貴方たちは誘拐事件に関与していますか?」


 皆はわからずも「いいえ」と順番に言っていくと、その中に三人反応が出る。


 それから時間まで三人を尋問したのだが。三人は一向に口を開かなかった。


(なぜだ。ここで話せば減刑にする準備があると伝えているのに頑なに口を閉ざす?人質はいないとすでにクラリスから教えてもらっているし、金などにも応じない)


 こいつらの思考が読めない。


「っなんとかいいなさい!!!!」


 三人を何とかしゃべらそうとしているクラリスだが、すべてが無駄に終わる。


「っっっっっっ」


 30分経ったのでこの三人を部屋から出して監視させる。


「なんでしゃべらないのよ!!」

「金でも自分可愛さでも脅されているでもない………となるとなんだろうな」

「みんなを!!なんで!!」


 クラリスは悔しそうにする。


「残念だが、このままやっても意味がない」


 一日に2回しか使えない、しかもそこまで長く彼らを拘束はできない。


 ダッダッダッダッダッダ、バン!!


 力強く扉が開け放たれる。


「大変です!!!」












 俺達はすぐさま三人を押し込めた部屋に向かう。


「クラリス様!」

「何があったの!?」


 扉の前の侍女に聞くととりあえず部屋の中に居たら三人とも呻き始めたらしい。


「その後に、なにやらブツブツとしゃべり急に暴れだしたのです」


 ゴン!!


 今でも扉を強く叩かれ、ひびが入る。


「今は中で何人かが頑張って押さえつけていますが……」


 さらに大きな音が部屋の中で起こる。


「扉を開けてくれるか」

「あなたは、でも」


 扉は蔦で補強されている状態だ。残念だかこの状態では中に入ることはできない。


「いいからさっさと開けろ」

「私からもお願い」


 クラリスからのお願いは断れないようで、魔法を解除して渋々扉を開けてくれた。


「気を付けてくださいね」


 中に入ると先ほどのエルフ達が暴れまわっている。


「ぐっ」


 一人を相手にしていたエルフがこちらに飛んでくる。


 とりあえずユニークスキルを発動し、受け止める。


「大丈夫か?」

「ああ、……子供?とりあえず危ないから部屋から出ていなさい」


 そういうと口元をぬぐって身体強化で再び迫ろうとしている。


「なんで止められないんだ?理性を失って暴れているだけだろう?」

「それだけじゃない、奴ら痛みを感じてないからだ。気絶させようともできない」


 見ている限り確かに痛みは感じてないようだ、攻撃を受けても平気で突っ込んでくる。


「だが、お前たちも手加減しすぎだろう」


 同胞だからか取り押さえる方を優先している。


「ふっ」

「おい、クラリス」


 クラリスは暴れている一人に近づき、顎に素早く一撃を決める。


 カクンと暴れていた男は崩れ落ちる。痛みが無いと言っても実際にダメージがないわけではない。それこそ気を失わせるほどの攻撃を受ければ簡単に倒れることになる。


 その後も二人を素早く気絶させる。


「これで問題ないわね」


 ぱんぱんと手をはたき、クラリスは三人を見下ろす。


「手際がいいな」


 気絶させられたエルフは蔦でグルグル巻きにされてミノムシのように拘束されている。


(外傷はクラリスの一撃だけか)


 拘束しているエルフの一人に近づくと何かをつぶやく。


「アレを、あ、れを、くれ」


 そう言って口から泡を吹きながら何かを求めるように胸元を掻きむしる。


「とりあえず気絶していろ」


 触れながら軽く『放電』でしっかりと気絶させる。


「ありがとうございますクラリス様」

「いいのよそれで何があったの?」

「それが―――」


 向こうは向こうで事情を調べてくれている。


 そして俺は嫌な考えが脳裏に浮かぶ。


(急に暴れだした、それも何かを求めて、だが尋問の際にその品を要求すらしなかった……つまり俺たちに要求できない物………それに急に暴れだす、禁断症状と言ってもいい………可能性で最も高いのは)


 ここまでピースがそろえば答えも絞られる。


「薬物依存、か」


 無論魔法の可能性もなくはないがここまで条件を付けて行える魔法はそうそうない。


 それに前世でみた薬物の禁断症状に似ている点が多い。


 とりあえずここはクラリスに任せて、アルムのところに向かう。














「ということで予想だと、違法薬物で薬づけにされて命令されていたのだろう」

「身元は?」

「全員が『苗木』と『若木』だった」


 既に二度目の尋問に向けて、確認済みだ。


「しかし薬か」

「ああ、だが詳しい経路は不明、かなり中毒性が強いものということがわかっている。エルフで薬について詳しい人物はいるか?」

「ああ、すぐに聞いてみよう」


 その後、アルムが薬師を呼ぶがそのような薬について心当たりはないそうだ。


「これは困ったな」

「そうだね」


 二人で困っていると扉が開く音が聞こえる。


「あのね、すべてを私に任せないでよ」


 扉から入ってきたのはクラリス……とルナだった。


「あ、そういえば忘れてた」

「ひどい!?」

「バアル様、それはさすがに……」


 リンにも少し咎められる視線が送られた。


「仕方ないだろう、こいつの価値は魔道具のオマケだからな」


 魔道具さえあるならば別にルナは要らない。


「うぅう~~~」

「そんなことを言わないであげて」


 年下であるクラリスに頭を撫でられ、擁護されるルナだった。


「まぁこいつは放っておいて「!?」普通に使われる薬品でないことは確かだな」

「そうだね、ほかの人物にも聞いてみるが薬師が知らないというんだ、可能性は低いだろうな」


 するとルナがおずおずと手を挙げた。


「それって……どんな症状が出ましたか………」

「それはな―――」


 アルムがエルフ達の症状を教える。


「え?それって」

「何か知っているようだな」

「ぴっ!?」


 俺が視線を向けると即座に逃げようとするので『飛雷身』で横に飛び足を払う。


「ふぎゃ」

「さて教えてもらおうか」


 何とか抜け出そうと暴れだすが背中を踏んで抑える。


「というかなぜ逃げだす?」

「………いえ、その、ちょっと視線が………グラス様の許可がなければ教えることはできません」


 なんか軽くディスられそうだったが、すぐさま話を変える。


「なるほど」


 即座に連絡用魔道具で通信する。


『だれだ?』

「グラス殿、バアルです」

『どうした?』

「実はほしい情報があるのですが―――」


 ルナがそれらしい情報を持っているのだがグラス殿の許可がないと教えることはできないことを伝える。


「ちなみにほしいのは薬の情報で、症状は―――」


 エルフ達の情報を教える。


『それは』

「知っているのは教えてもらえますか?」

『……絶対に必要か?』

「ええ、これが無ければノストニアの国交は成り立ちませんよ。一度エルフとの仲が悪くなれば次に仲良くなれる機会はいつですかね。10年?20年?エルフの寿命は長いですからね、代替わりするのにどれくらい月日がかかるのか私には判断付きません」


 エルフの寿命は人間よりもはるかに長いと聞く、なら次に機会が来るのは遠い先になるだろう。


『……向こうの王太子は我々との交流を望んでいるのではなかったか?』

「それは問題が起きない範囲でですよ。今回のような誘拐・拉致と言った問題が関わってくるのならそうも言ってられないでしょうね」


 本当は問題を解決してさっさと交流したい、と言うことは伏せる。


「それも、既に事態は動いているのです、ここで時間が過ぎてしまえばどうしようもできなくなりますよ?」


 既に三人を拘束している。


 三人を操っていた存在が感づかれたと知るには時間の問題だろう。


「それにそこまでの薬品が出回っているなら、私も領地に戻れば調べるくらいはできますが?」

『………いいだろう、傍にルナはいるか?』


 連絡用魔道具を渡すとルナが何度も驚いている。


「はい、はい、わかりました………」


 なにやらしょんぼりしている。


「では話してもらうぞ」

「………はい」

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