第80話 無垢な少女と怪しい影
「それで、この場を選んだのには何か意味があるのか?」
クアレスの言う、この場所とは裏オークション会場の事を指す。なにせこの場所を話し合いの場に指定したのはこちら側だ。もちろんそれなりの理由がある。
「まず我々が調べた情報ですと―――」
拷問して得た情報をクアレスに教える。
「ふむ」
「話を聞いていると一つの疑問が出てきた、それが―――」
『奴らはどうやって正確なエルフの売却値段を知っているのか』
クアレスがこちらが話す前に言い当てる。
「その通り、さすがは賢老ですね」
僕が尋問中に感じた疑問がそれだ。
オークションの値段を偽られる可能性がどうしてもある以上、自ら確認しているか、何かしらの耳で確認している。
そこから追跡することができると考える。
「いい考えだ、では早速動くとしよう」
クアレスが視線を向けると手下の数人が動き会場を出ていく。
「何をするつもりですか」
するとおかしそうに笑う。
「エルフが頻繁に出てくるようになったのは今年からだろう、ならその時期から急に会場に現れるようになった、もしくは頻繁に表れるようになった人物が可能性が高いと思わんか」
これには私もほかのメンバーも確かにと頷いている。誰もがその考えが的外れだとは思えない。
「それとそこのエルフ、ちょっと力を貸してほしい」
〔~バアル視点~〕
「調べはついたのか?」
『はい、黒霧が調べた情報では4人ほど怪しい人物が浮かび上がってきました』
オークションから1週間がたった頃。ラインハルトからの連絡が入ってきた。
『浮かび上がっているのが、国外の貴族一名、国内の貴族1名、そしてネンラールの商人が一名にクメニギスの裏組織が一組です』
この四名がエルフがオークションに出品し始めてから多く出入りしているらしい。
「で、今は何をしている」
『はい、クアレス殿の意向でエルフの一名を裏オークションに潜入させています』
なんでも見せかけだけの手錠や首輪をして裏オークションに出品し、潜入させた。
『情報を集め終わると次に始まる裏オークションで競り落とし回収します』
「だが子供たちが捕らえられているのを見て暴走しないか?」
『ご安心ください、デッドが金貨3000枚を用意したようなので、すべてのエルフを回収できるとのことです』
変に暴れるよりも我慢し、オークションで買い落すのが確実と言うことで暴れる心配はない。
(……王家がバックアップするために動いてきたか)
影の騎士団の一員のデッドがそこまでの大金を用意できるはずがない。ならさらに裏の方から予算が回ってきたのが自然な考えだろう。
「詳細は分かった、ではいい報告を待っている」
通信を切ると部屋の外にでる。
「もういいの?」
「ああ、向こうもこの調子ならかなり早くに情報が集まりそうだ」
俺は現在、アークが滞在している村に来ている。名目は調査に来たクラリス姫の護衛だ。
「にしても、意外だな」
視線の先ではアークが村の子供たちと遊んでいる。
「評判も悪くないわよ、種族は違っても変な考えがない子供だからすぐ仲良くなれたみたい」
種族の違う動物を子供のころから一緒に育てると争わないのと同じようなものなのだろう。
「(このまま良好な関係でいてくれ)例の場所に行くか」
「そうね」
俺とクラリス、リンは誘拐現場となった場所に向かう。
今から向かう先は自然豊かな森の中心部で普通の人だったら手間を取られる場所となっている。もちろんながら整備されている道ではないので馬車が使えない。そのため【身体強化】を発動し森の中を駆ける必要がある。
ギシ
「おっと」
掴んでいた枝が軋む。
現在、パルクールみたく森の枝や岩を利用しながら高速で移動している。
(さすがエルフだな)
知り慣れているのか俺らよりもかなり早く移動している。
順序としてはクラリス、リン、俺の順番で走っている。
(慣れた地のクラリスは、まだしもリンにも負けるか……)
リンは【身体強化Ⅳ】を持っているので負けてもおかしくない。
【身体強化】はⅠから進化していく。Ⅱになれば効果は2倍に、Ⅲになれば4倍に、Ⅳになると8倍になる。このように指数関数のように効果量は上がっていく。
(まぁその分、次の段階になりにくいんだがな)
スキルが進化するのは何もレベルが上がればいいってことではない。自分で次のステージに行くために努力し、改良していくことが必要だ。さらに言えば才能も関わってくる。なのでレベルだけは上がるがスキル自体が変化しないというのも多々ある。
「着いたわよ」
クラリスが止まると俺たちも止まる。
「ここがか?」
何の変哲もない場所にしか見えない。
「ええ、魔力が残っているもの」
(やっぱりエルフってのはずるいな)
人間では見ることのできない魔力を見ることができる。
だから何もない場所にしか見えないのに、クラリスにはここだとはっきりわかっている。
「なんにもないわね」
戦闘があったはずなのに道中の風景とほぼ変わらない。
「で、話では二人組は空に飛んでいったんだな」
「ええ、方向までは分からないみたいだけど」
木を登り、頂上から周辺を見渡す。
(見渡す限りただの森か……)
これじゃあ手掛かりも何もない。
「ん?」
視界の隅で何かが動いているのが見えた。
「どうしたの?」
同じく登ってきたクラリスが問いかけてくる。
俺の視線を辿って何を見ているのかを確認する。
「あれって……」
そう言うと木を下りて、その人物の元まで移動する。
「こんなところで何やっているの?」
クラリスが声を掛けたのは何やら植物を摘んでいるエルフの少女だ。
「あれ?おねぇちゃんたちは?」
「私たちはルーアの友達よ」
「じゃあ樹守様なの!!」
嬉しそうに訪ねてくるエルフの少女。
「私知っているわ!おねぇちゃんたちがフィアを守ってくれたんでしょ!!」
「それって誘拐されかけた子よね」
「うん!ともだち!」
そういうと楽しそうにフィアの話をする。
「そっか、それで何をしているの?」
「フィアが私のせいで怖い目に合ったから、綺麗なお花を渡して仲直りしようと……」
俺達は顔を見合わす。
「詳しく話してくれるかな」
「うん!」
フィアが誘拐されそうになった日は本当は私が森に入るつもりだったの。
理由はおばあちゃんなの。
おばあちゃんは長老と同じくらいの年齢で、体がすっごく弱いの。
だから何かしてあげられないかな~って思ってたら、たまたま村にきていた樹守様の一人が教えてくれたの。
『おばあちゃんが元気になる薬草があの森に生えているよ』
私はすぐにとって来ようとしたけど、その日は雨だったからやめて、みんなと遊んでいたの。
それから3日ほど雨が続いて、その間に樹守様はにんむとかで帰っちゃった。
で次の日は晴れたから薬草を取りに行こうとしたの、でも
「わたし、その日にかぜで寝込んでいたの。そしたらお見舞いに来てくれた二人にそのことを話したら代わりに取って来てくれるって。そしたら」
「あの、事件が起きたのね」
少女は頷く。
「ありがとう、これは誰かに言ったかしら」
「まだ」
「そうだな、今村に
二人の会話に割り込む。
「うん、いるよ」
「その人たちに話してごらん」
「なんで?」
「その
「……うん!そうだね!!」
その後、少女が探している薬草を一緒に見つけてあげると同行し村に戻る。
「あっ、フィアだ!!」
少女は友達の姿を見つけると駆けだす。しばらく話をすると頭を下げて謝罪している。
そしてそれを笑って許す、フィア。
最後に二人は笑顔で手を繋ぎながら帰っていく。
「手伝ってくれてありがとう!!!」
最後に振り返ってそう言った。
俺達は手を振りながらそれに応える。
「で、どう思うの?」
部屋に戻ると先ほどの話を吟味する。
「まぁ偶然と言えなくもないが」
「その御仁が薬草を伝えたのが何とも」
不幸な事故として処理される案件だが、なんとなく胡散臭く感じる俺達だ。
「こういう村に樹守が来るのは珍しいのか?」
「なくはないって感じね、樹守も部隊によって業務はさまざまだから」
「どこの部隊かわかるか?」
「確か、村の巡回は『赤葉』の部隊。それも『苗木』の仕事だったはず」
「そいつらが裏切っている可能性は?」
可能性があるならその周辺だと思うのだが。
「ないと思うわ」
クラリスは即座に否定する。
理由は『赤葉』の入団基準に仲間意識と図る部分もあり、所属しているのは仲間想いの強いエルフだけだとか。
「(国防に関わる人物が仲間意識が無ければ危うい、か………だが調べるぐらいはしておかないとな)……ほかの村に誘拐される数日前に『赤葉』の樹守が来ていないか調べてくれないか」
「いいけど、たぶん白よ」
「一応な……」
可能性があるなら少しでも潰しておかないとな。
それから人員を手配して調べても見ること、数日。
「これって……」
アルムの別荘で結果を見ているのだが。
「なんで……」
書いてある紙には『赤葉』ではないが樹守の数人が事前に村に訪れていたという内容だった。
(だが、妙だ。組織に一貫性がない)
これがつながりのある組織だったらわかるが、『赤葉』だったり、現状を確認しに来た『青葉』、薬草目的の『黄葉』、ほかにも魔獣使いの『黒葉』、医療目的の『白葉』、さらには女性だったり男性だったり『若木』、『苗木』だったりと多種多様な人物が村に訪れていた。
「ただ、『大樹』だけは白っぽいな」
『大樹』の役職についているエルフ達の任務先などは全くと言ってもいいほど何も起こってない。
(まぁそれもそれで怪しいものだけどな)
「エルフは同胞を尾行する手立てとかあるのか?」
「残念ながらないわね」
エルフは魔力を見ることができるので尾行は無理なのだとか。
「なぜです?その魔力とかは隠蔽できないのですか?」
「『魔力操作』が達者なエルフは限りなく薄くできるのだけど……それでも微かな色彩が出てくるから、実力者なら簡単に見破れるわ」
どうやっても体からは完全に魔力を遮断するのは無理だとクラリスは言う。
「なんか、その、魔法とかでどうにかならないんですか?」
リンの疑問は当然だが、クラリスはさらにバッサリと切り捨てる。
「無理よ、貴方は濡れた手を水で乾かすことができる?」
つまり隠蔽する魔法が仮にあったとしても、その魔法が魔力を使用している時点で魔力が見えるようになり意味がないのだとか。
(つまるところ、魔力を使用しないなら尾行はできるのか)
「そうですか…」
「それでどうする?この人たちについてもっと調べる?」
「いや、そんなまどろっこしいことはしない」
俺はあるものを頭に思い浮かべる。
「さてクラリス、頼みたいことがあるんだが」
「ええ、至急必要なんです…………仕方ないですよ、無論貸しと思ってもらって結構ですよ……………ええ、ではお願いします」
通信で、とある人物と会話をする。
「受け取り場所に来たら連絡お願いします」
通話が終わるとアルムに向き合う。
「さて、これで仕込みは終わったぞ」
「そうだね、あとは結果を待つのみだ」
そういうと俺たちは笑い合う。
「にしてもここまで大がかりになったのか」
「まぁ仕方ないだろう、これぐらいしないとお互い橋を架けることはできない」
俺達はこれから結果が出るまで動きを止めることになる。
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