第73話 意図しない再会

 考えてみた結果、ガルバの話を受けることにした。話を吟味するとこの事態を解決させた方が様々なメリットがある。


 そのためにまずは再び王都に訪れる。


「では、今回の件は受けてくれるのだな?」


 ルナ経由で協力したい旨を伝えるとすぐさま返信が来た。


 今は王城の一室でグラス殿とアーサー陛下と面談している。


「ええ、内容は使節団の救出でいいですか?」

「ああ、だが手荒な手段は一切使うな。これは王命でもある」


 陛下がくぎを刺す。なにせ一度失敗している、これ以上の失敗はまず許されない。


「わかっております、その際に一つお願いがあるのですが」

「言ってみよ」

「今回騒ぎを起こした貴族どもの処罰を私に任せてほしいのです」


 今回、使節団を救出するにはこの条件が最低限必要だ。


「ふむ………………よかろう」


 陛下に承諾してもらい、使節団で騒ぎを起こした犯人を好きに処罰できる権限を授ける書類を授けてもらった。


「バアル君、できるだけ穏便にな」

「もちろん、わかっていますとも」


 笑顔で答えたつもりだがなぜだがグラス殿と陛下の顔色は強張る。


(なぜそんな反応なのかな)


 なんか釈然としないが退室し、アズバン領への準備をする。













 今回は俺とリン、それと護衛のラインハルト、それと話を持ってきたガルバの四人でノストニアに向かっている。


 本当はもう少し人員を持ってきたかったが、警戒されている時点で人員は最低限にすべきだ。


「さ、寒い、ですね」


 防寒はしているがリンはまだ寒いらしい。


 グロウス王国の気候は地方でかなりの違いが出る、ゼブルス領は冬になるとパラパラと雪が降る程度だが、アズバン領となると豪雪地帯、王都周辺では雪遊びができるほどという程度だ。


 なのでアズバン領の都市アズリウスではかなりの雪が積もっていて、道行く人たちは一生懸命雪かきしている。


(除雪機を作れば売れそうだな)


 冬なのに全員が汗を掻きながら作業している。


「アズバン領ではかなりの雪が降ります。なので積もったらすぐに雪かきしないと家が壊れてしまいます。下手をすると一夜で家が崩れて死人が出たということも多々聞くこともあるぐらいなのですよ」


 馬車の中では同行しているガルバが外のことを説明してくれている。


「どかした雪はどうする?」

「あのように一部にまとめてアズバン家が雇っている魔術師に火を出してもらい、溶かします」


 視線の先には山のようになっている雪が周囲の数人によって溶かされている光景だ。


「見えてきましたよ、あれがアズバン邸です」


 見えてきたのは3重の城壁に囲まれた、もはや城と言っていい建物だった。







「「「「「ようこそお越しくださいました、バアル様」」」」」」


 城の中に入るとメイドが列をなし、腰を折っている。


 促されるがままに中に入ると豪華な部屋に案内された。俺は椅子に座ると背後にリンとガルバ、ラインハルトが立っている。


 ガルバは同じく椅子に座りそうなものだが、館を持っている貴族の許可がなければ座ってはいけない。それがこの世界での貴族と平民のマナーだ。


 俺に関しては王命で動いているので、今回の場合は館の主よりも立場が上になる。ただここであまりにもな態度を取ればすぐさま噂にもなる。


 しばらくして入ってきたのが紫色の髪をした目つきの鋭い男性だ。対面にしてみるとわかるが気が抜けない。


「初めましてアズバン卿」


 俺は立ち上がり握手を求める。すると子供であることを何とも思わず普通に対応してくれる。


「初めまして、よく来てくれましたねバアル君」


 本来なら王命を受けている俺に君づけは失礼になるが、子供の外見でそうつけてしまったのだろう。あくまで許容範囲内でこちらを下に見ようとしている。


 とりあえず笑みを浮かべて本題に入る。


「ではさっそくアズバン家に協力してもらいたいのですが」


 ここで普通なら敬語うんぬんで顔をしかめる貴族もいるのだが、アズバン卿は顔色を変えない。


「それは王命に関することですかな?」

「ええ」

「……聞きましょう」


 これがただの同格の貴族の頼み事なら聞く必要もないのだが、王命が関わっている以上無視はできなくなる。


「まずは私が受けた王命の内容です」

「私に教えてもいいのですか?」

「問題ないでしょう」


 俺は陛下から使節団の救出を命じられたことを伝える。


「なるほど、それで私はどのように協力をすれば?」

「俺たちが交渉を行っている間、ノストニアを刺激しないようにしてもらえますか」


 俺が懸念しているのは貴族が独自に雇った傭兵やら冒険者がノストニアに侵入し、戦闘になることだ。


 これが起こればさらに交渉が難しくなる。ましてはエルフは人探しのプロ、侵入してもすぐに見破られてしまう。


「ふむ、ではノストニア周辺に兵を配置し許可なきものが入れないようにしましょう」

「……ある程度距離は離してください」


 くれぐれも刺激しないようにと頼む。


「わかっていますよ、ほかには何かありますか?」

「いえ、これ以上頼るのは」


 アズバン卿に頼めるのはここまでだ。


 ここから先は部外秘になる。


「そうですか、ではなにかありましたらまた訪ねてきてください」


 こうして俺たちはアズバン家を出る。












「さて、ガルバお前はこの街に詳しいか?」


 城を出ると次はある人物に接触する必要がある。


「ええ、なにせ本拠地ですから」

「ならデッドという情報屋を知らないか?」

「……知っていますよ」


 一瞬だけ鋭い目つきになったが、素直に情報屋に案内してくれた。


 








「いらっしゃいませ……ってなんだよガルバかよ」


 デッドのいる建物に入ると報告書にあったベルヒムがいた。


「やあ、ベルヒム」

「どうしたんだ?お前がここに来るなんて珍しいな」

「いや用事は私ではなくて」


 ベルヒムは俺に視線を向けると、自然な動作で頭を下げる。


「ようこそおいでくださいました」

「俺が誰だかわかっているのか?」

「いえ、ただ高貴な方とは理解できます」


 慇懃な態度になったベルヒムに案内され、ある部屋に入る。そこは寂れた外見には似合わず貴族を招待できるくらい綺麗にされていた。


「……」


 ガルバもこの対応には少し違和感を覚えているのだろう。


「デッドを呼びますので少々お待ちください」


 ベルヒムが出ていくと部屋は静かになる。


「……バアル様はデッドのことをご存じなのですか」


 気になったのかガルバが聞いてくる。


「そうだな、噂は良く聞いているよ」


 扉が開きベルヒムとデッドが入ってくる。


「………今回はどうしましたか」


 デッドの声色がすごく機嫌が悪そうだ。


「おい、ベルヒムお前は席を外せ」

「ラインハルト、ガルバ、お前もだ」


 デッドはベルヒムに、俺はラインハルトとガルバにこの場から席を外すように言う。


「了解しやした」

「わかりました。入り口で待っているので用が済んだら声をお掛けください」


 三人は部屋から出ていく。


「久しぶりだな、牢屋以来か?」

「いえ、グラス隊長の前でもう一度」


 軽く世間話をし、本題に入る。


「お前のことだ、使節団のことをある程度調べているんじゃないか」

「……はい、こちらを」


 取り出した書類にはどの貴族が参加し、どのような準備をしてノストニアに向かったのかが記されている。


「ふむ、すこし差異はあるがおおむね事前の情報通りだな、で詳しい現状は分かるか?」

「……残念ながら確認しているのはノストニアへ入る寸前までです」


 それなら仕方がない。


「じゃあ情報共有しておこう、今回俺達はガルバの伝手を使ってエルフと接触するつもりだ」

「……たしかルーアといいましたね」

「そいつと接触して互いの妥協点を探す。お前らの報告だとそいつは新王側のエルフだと聞いているからな、上手くいけば新王とも接触できるかもしれない」


 これにはデッドも少し考えこむ。


「……正直、なんともいえません。失敗する可能性も成功する可能性もあると判断します」

「じゃあ、あとは俺たちの実力次第だな」


 デッドは頷く。


「それと一つ協力してほしいことがある」

「……なんでしょうか?」

「エルフの誘拐を生業としている組織を探し当ててくれ、最悪これを交渉の材料にするかもしれない」

「……アズバン家が関わっている組織だったとしてもですか?」

「それならアズバン家には生贄になってもらうしかないな」

「っ!?」


 俺は笑顔で言うとデッドの顔が強張る。


 それも当たり前だろう、なにせアズバン公爵家とやりあうと言っているのだから。


「現実的な話、そろそろ膿を切り出すいい機会だと俺は思っているよ」


 この領地の情報は既に調べたが闇組織が多すぎだ、そろそろ一掃しないといけない。


「……」


 デッドはこれには賛成しようとはしない。


 なにせ外国の情報は外国の裏組織を通じて入ってきている部分がある。


 情報部なのでこの決断には賛成しにくい、だが逆を言えば国内の情報も他国に伝わってしまっている可能性がある。


「安心しろ、これから魔道具が普及すれば情報はもっと簡単に手に入る」

「………………………わかりました」


 それからデッドに組織の情報を調べてもらうよう指示をする。





 デッドに会い、要件を終えればアズリウスには用はない。すぐさま馬車を出し、すぐさま例の最北の村に向かう。


 なんでもそこで連絡を取ることができるのだとか。


「それを知っているのはお前だけか?」

「いえ、もう一人その村の牧師ホーカスが知っております」


 報告書にあった名前で、連絡を取り合う際の協力者だという。






 それから何日かかけて予定の村へ到着した。


「これがか?」


 村にある小さな教会の中である物を見せられている。


「なんの変哲もない紙に見えるが」


 目の前にあるのは普通の白い紙に見える。


「なんでも使い方はこの紙に伝えたいことを書けば、インクが飛び立ちあらかじめ用意していたもう一枚まで届くそうです」


 ガルバが紙に相談がしたいので合流できないかという言葉が書かれてそのあとに暗号らしき言葉がそえられていた。


「これで返信を待つのみです」

「実に簡単だな」


 そしてファンタジーだな、インク自体が動き鳥の形を取るとそのまま空に飛んでいった。


「大体どれくらいで返事が来るか聞いたか?」

「はい、天候などにもよりますがおおよそ二日で返事ができるらしいです」


 返信が来るまでは暇になる。










 本日は村長の家に泊めてもらうことになった。


「しかし、どのように交渉をするつもりですか?」

「まぁ……そうだな…………」


 頭で何通りかの交渉を考える。


(一番成功確率が高そうなのが、事起こした本人たちを人身御供にすることだな)


 エルフとしても被害をだした人物の生殺与奪を交渉に出されればさすがに頷くだろうし。


 ただ……


(それだと、こちらの立場が下だと思われるのがデメリットだな)


 これだと譲歩しすぎて相手が格上だと思われる可能性もある。別に交渉としてはおかしくないのだが、下手すればグロウス王国のプライドだけは高く声もでかいバカから非難を食らう恐れがある。もちろんそんな奴はただではすまさないが。


(次に金品、もしくは物資、関税の優遇か)


 これだったらある程度は問題ないだろう、問題を起こして悪かったという体裁を取れる。


(あとは何かしらの貸し・・ということで大目に見てもらう)


 ただこれはリスクが高い、いまだに国交がない状態、つまりは信用がない状態でこのような対応は真実味を帯びにくい。ましてはすでに問題を起こした側なのだから、最悪国交が悪手だと思われる可能性もある。


(あとは多少の領地を受け渡す、闇組織の完全破壊、あとは王族関係者から有力者に女性をあてがうぐらいか……)


 エルフの情報があまりにも少なすぎて最適な手立てがあまり思い浮かばない。


「案外、戦った方が理解できたりしませんか?」

「……物語じゃあるまいし……………」


 男の友情ものじゃないのだから………














 ドン、ギャン、バゴン、ズン


 連絡をした4日後、合流地点にて壮絶な戦いが巻き起こっている。


「なんでこうなった…………」


 噂をすれば影が差す、嘘から出た真、フラグが立つなどの言葉が頭をよぎる。
















 4日前に返信がきた。


 内容は、話し合いには応じる、こちらが指定する時間に指定する場所を訪れてくれというものだ。


 それから指定された当日に俺とガルバ、護衛にリンとラインハルトの四人が指定された場所に向かっている。


「こんな何もない場所に呼び出されるのか」


 指定された場所は村から北に少し移動した場所で俺たちは相手が来るのを待っているのだが。


「いるな」

「ええ、ですが友好的かと言われると……」


 リンの言う通り、遠巻きから俺たちのことを窺っている奴らがいる。


(警戒はするか、逆にしないなら不用心すぎる)


 ということで向こうが警戒を解いてくれるのを待つのだが。


(なんかおかしい、空気がピリピリしてきた)


 ギィン


 一瞬のうちに視界の隅でピンク色が現れたと思ったら黒色が目の前に出て攻撃を防ぐ。


「何でここにいるの!!!」

「バアル様!!」


 リンは刀で振り払い距離を取らす。


 後ろに飛んだ存在を見て、これは失敗したなと心の底から思ってしまう。


 なにかしらの金属でできた手甲に、鮮やかな桃色の長い髪、俺とそう変わらない身長に誰もが美麗というであろう整った顔立ち。


「で、これはどういうことかしら、バアル」

「…………久しぶりだなクラリス」


 目の前に現れたのは共にダンジョンを攻略したクラリスだった。

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