第67話 怨みを持つ者

「うわ~何も見えない~~」


 セレナの言う通り、洞窟の中は明かりもなく真っ暗な暗闇だ。


 むき出しの岩肌は通路として整えられており、いまだに坑道としての役割として使える。


「バアル様、アレ使いません?」

「あれ?……ああ」


 俺は前回のダンジョンで手に入れた呼び鈴を使う。


 リィン、リィン


 鐘を鳴らすと暗闇に火のランタンが現れる。


 スッ


 何度かランタンが振られると俺たちの周囲に灯が浮き上がる。


「ありがとう」


 コクン、フッ!


 ジャックオーランタンは頷くとそのまま闇の中に消えていく。










 俺たちはそのまま順調に進んでいく。


 しばらくすると整地された道から自然の洞窟に変わっていく。静かな洞窟の中に響く足音やどこからか響く水の音を聞きながら歩みを進める。


「『太刀風』」

「【輝晶剣】」


 時々出てくる蜘蛛や百足ムカデ、蛇、蝙蝠はリンの風の斬撃やセレナの複製剣が切り刻んでいく。


『人の匂い、がする』


 魔物を倒しながら進むと狼がこんなことを言い始めた。


「人の匂い?」

『ああ、かなり残っている』


 匂いを辿ってどんどん進んでいく。


 リィン

 ザシュ!!


 道中も後ろから近づいてくる蛇などにも対応しながら進んでいく、すると一際大きな空間に出た。


 ズズゥ、ズズゥ


 なかには地底湖があり、中で何かが動いている。


(ああ、これはダメだ)


 離れた位置からでもわかるほど、本能が警鐘を鳴らしている。これは俺だけではなくこの場にいる全員が実感していた。


「刺激しないように通り過ぎるぞ」


 小声で全員に伝えると音を立てないように移動して、この場所を抜けた。


 鑑定してみたい衝動に駆られるがアグラの時のように戦闘になるんじゃ意味がない。






 その後もしばらく進んでいると鉱石が輝き、道が照らされた場所が現れた。


「これなら火は要らないな」


 消えろ念じ、周囲の火を消す。


「わぁ~綺麗ですね~」

「そうですね、これはなんの鉱石なんでしょうか」


 一つの欠片を取って確かめる。


 ―――――

 薄光晶“ルクレアラム”

 ★×2


 光結晶ルクレジュアの中にかなりの不純物が混ざった結晶。今のところ不純物を取り出す技術はない。

 ―――――


「これってもしかしたら」


 セレナが結晶の一部を掴むとすぐさま塵になった。


「何が起こったんだ?」

「実は剣に【晶魔法】と言うのがあって、もしかしたら使えると思って、使ってみたのですが」


 結果はうっすらと剣が輝くだけだった。


「これでも【薄輝化】という魔法が発動しているみたいですが、効果は光っているだけです」

「「「……………」」」

「微妙ですね、はい、わかります」


 何ともない雰囲気の中そのまま進む。







「さて狼、あとどれくらいだ?」


 再びランタンにて灯りを出してもらい、洞窟を進む。


『もう少しだ』

「リン、反応があったら教えてくれ」

「わかりました」


 それから次の大きな空間に出てくる。


『いる』

「バアル様、何かこの先にいます」

「………あたりか?」


 ようやく黒幕とご対面だ。










 道を抜けると、広い空間にでるのだが、洞窟内が不自然に整備されていてどこかの宮殿のような造りになっていた。


『ふむ、意外に早かったな』


 玉座らしき場所があり、声の主はそこに座り込んでいた。


「……リッチか」


 玉座に座っていたのは聖職者の服を着て、王冠を被り禍々しいオーラを発している骸骨だった。


『いかにもだよ、で、後ろにあるのが君たちが探している物だ』


 リッチの背後には白い杖を起点とした魔法陣がある。


(本来ならそのまま壊しに行くんだがな)


 こいつの発言で気になることろがあった。


「俺たちが来るのがわかっていたのか?」


 先ほど“早かったな”と言った、つまりは俺たちがここに来るのを予想していたことになる。


『ふ、今年で作物が異常に気付くのは分かっていた、だがそれでもここに来るまでがかなり早くてな………だれを生贄にしたんだ?』


 骸骨なのにニヤニヤしているのがわかる。


「さぁ、お前の知らない奴なのは確かだよ。それよりなんでこんなことをした、なんか怨みでもあるのか?」

『ははははははははは!!!!!!!!』


 すると突然狂ったように叫びだす。


『私が誰かわかっていないのか!天才でもさすがにわからないか!!』


 何やら興奮している。それと一言、俺は天才とは程遠いと思うがな。


『怨み、正解だ!!!私は怨みでこの姿になり復讐を企てたのだよ!!!!』


 怨みか…………


(いろんな奴から買っているから、誰かは判断つかないな………………ただ)


 リッチをよく観察する。


「(聖職者の服に高位神官の装備……となると候補は限られる、その中で最も俺に恨みを抱いているのは)………サルカザ・セラ、いやもう貴族の位はないんだったな。サルカザ・ボフェラアーヴェ枢機卿、か」


 すると、それが正解と言わんばかりに満面の笑みを浮かべる。


『さすがの洞察力だよ、今後どのような化け物になるか見ものなのだがね、ここで死んでいくのが残念だよ』

「悪いがお断りだ、俺は年老いて死ぬさ」

『これは決定事項だ』


 そういうとリッチは立ち上がり腕を振るう。


 ガガガガガガガガガガ


 壁や床から何十ものスケルトンが生まれてくる。


『では苦しみながら死んでくれ』


 この言葉と共にスケルトンは襲い掛かってくる。








『あの者を殺せばいいんだな』

「ああ、存分にやってくれ、リンとセレナも頼んだぞ」

「はい」

「了解」


 全員が戦闘態勢を取る。


 親切に壁際には光る石が置いてあり、光源には困らない。


 目の前でリンとセレナ、狼が臨戦態勢に入っている間にまずは様子を観察する。


 ―――――

 Name:サルカザ

 Race:怨念魔骸骨リッチ

 Lv:75

 状態:死亡

 HP:1500/―

 MP:7538/7588


 STR:27

 VIT:45

 DEX:96

 AGI:35

 INT:578


《スキル》

【火魔法:50】【水魔法:50】【風魔法:50】【土魔法:50】【雷魔法:50】【闇魔法:97】【魔力超自然回復:11】【暗視:73】【魔法耐性:95】【魔力視:―】【眷属召喚:75】【限界突破:17】【魔法強化:46】

《種族スキル》

【死霊魔法】【太陽虚弱】【不死】

《ユニークスキル》

 ―――――


 ―――――

 死の王冠

 ★×6


【魔力超自然回復】【怨念魔骸骨化】


 リッチの王が被る王冠。絶大な魔力回復を誇る代わりに被った対象は例外なく怨念魔法骸骨リッチとなってしまう。

 ―――――


 モノクルで鑑定するとこうなっていた。


「その王冠を被るほど俺が憎かったのか」


 怨念魔骸骨リッチ、魔物になるのをわかっていて被った。それほどまでの憎しみだったのだろう。


『鑑定のモノクルか、そんなものでしか相手を推し量れないとはな。それと問いには是だ。この姿となってもお前を殺したいほどだよ!!』


 リッチが腕を振ると三つの魔法式が背後に作られていく。


『私は教会で上り詰めるだけどれだけ苦労したか!!その苦労が貴様にわかるか!!生まれながらにユニークスキルに恵まれ!!自身にも様々なスキルが身に付き!!あまつさえ齢10歳で陛下の組織の重要な位置につける貴様がだ!!!!!『怨念強化』『鉄硬化』『黒骨』』


 生み出されたスケルトンにもリッチ同様のオーラが付き、骨は真っ黒に染まる。


「うぅ、切れない」


 セレナの【輝晶剣】では傷すらもつけられなくなっていた。


「こうやるのですよ、っ!」


 リンの一閃がスケルトンを真っ二つにする。


「ね?」

「ねっじゃないわよ、まだそこまでの技量はないわよ!!」

「仕方ありませんね、では魔法主体で戦ってください、前衛はするので」


 リンはセレナを助ける形で前衛に入った。








 それで狼の方だが


 ガァアア!!


 狼はスケルトンをかみ砕くなどをして善戦している。


(なんであそこまで戦えるんだ?)


 ―――――

 Name:

 Race:怨念骸骨スケルトン

 Lv:10

 状態:死亡

 HP:500/―

 MP:750/750


 STR:20+20

 VIT:30+15

 DEX:20+5

 AGI:10+5

 INT:20+5


《スキル》

【剣:20】【暗視:20】【闇魔法耐性:50】【魔力視:―】

《種族スキル》

【太陽虚弱】【不死】

《ユニークスキル》

 ―――――


 スケルトンのステータスはこうなっている。


(ステータスから考えて、ギリギリ防御力を突破できるぐらいなのだと思うのだがな)


 なぜだが狼は圧勝出来ている。


『【武器召喚】!!』


 スケルトンの周りに岩で出来た剣や槍、斧、鎌が生える。


『眷属ども、それで奴らの腸を切り刻め!!』


 スケルトンには剣か槍、斧、鎌のスキルのどれかを持っている奴がいる。それは、いままで素手で襲い掛かってきたスケルトンが格段と強くなることを意味する。


『お前は私の手で殺してやる!!『大地槍アースランス』!』


 俺の足元から地面が盛り上がり突き刺そうとしてくる。


「おお、危な」

『その余裕がいつまで持つか!!『岩咢ロックファング』』


 次は頭上の岩が咢の形をして襲い掛かってくる。


『すばしっこい蠅め!!『砂塵刃サンドスラッシュ』』


 次はいくつもの砂の斬撃が飛んでくる。


「……どこからあんな装備王冠を持ってきたんだよ」

『教えてやろう、教会の本部からだよ』

「自分の古巣から、か」

『私を切り捨てたあそこに未練などないわ!!!『大地槍アースランス』』


 再び土の槍が襲ってくるので身をよじって躱す。


「にしても大がかりだな、俺を殺すだけならいくらでも手段がありそうなものだがな」

『はは、案外分かっておらぬのだな、影の騎士団は要人警護も兼ねている。アレを躱して暗殺するのは至難の業よ。だからこのような大がかりな舞台を用意させてもらった、どうだ死に場としては最高だろう!!!『怨念の掴み手ゴーストハンド』』


 リッチの足元から影が広がりそこから無数の手がこちらに襲い掛かってくる。


(これは悪魔とおんなじ技だな)


 悪魔の時と同じく『放電スパーク』で相殺する。


『ふむ、闇に雷で対抗するか、だが』


 さらに闇からどんどん手が出てくる。


(めんどくさいな)


 俺が攻勢に出ないのは理由がある。


 横目でリンの戦いを見ると。


 ギィン!


 スケルトンは両断されると、そのまま崩れ去る。だが次の瞬間、逆再生したかのように体が再生されていた。


(あいつは俺の能力を知らない、なら一度で殺したいんだが)


 あのように再生してしまうのなら簡単にはいかない。


「それにしてもよくこんな場所を知っていたな」


 枢機卿といえどこんな絶好の場所を見つけられるとは思えない。


『お主を恨んでいるのは私だけではないということだよ!!!』

「へぇ~」


 つまりは共犯者がいる。


(そこらへんは影の騎士団にうごいてもらうとしよう)


 ある程度情報は引き抜けたら、次はこいつを倒す手立てを考える。


(【不死】、予想するに倒しても倒しても、数秒ほどあれば何度でも復活できるスキル………だがこんな強いスキルがノーリスクで使えるわけがない…………回数制限、魔力消費、事前に準備する必要があるのか)


 それを確認するために下手に攻めずに逃げに徹している。


 なんとか横目でリンとかの戦闘を見て弱点を探る。


『はっはー!!逃げるしかできないようだな!!!』


 ………弱点を見つけたらすぐにその頭を砕いてやる。

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