第38話 初めての交流

「さすがに、襲ってくるやつはいないだろう」


 辺り一面を血の海に変わった森を見渡す。


「何匹やってきたのか……」


 転がっている死骸はゆうに百匹を超えている。それも一種の群れではなく多種多様に存在していた。


(しかし、なんでこんなに襲ってくる?)


 南の時みたいに危険を感じなくなったら襲い掛かってこなくなったりはしなかった。


(……なにかあるのか?)


 獣の巣があるのならわかるが、いろいろな種族が連続して襲い掛かって来ている。巣の可能性は低い。


(まさかゲームみたいにランダムで魔物が出現するわけではあるまいし)


 ひと昔のゲームみたいに歩いただけで様々な魔物が襲い掛かってくる、そんなことは現実ではほぼあり得ない。それは分かりやすく言えばライオンとシマウマが手を組んで襲い掛かって来ているようなものなのだ。こちらに襲い掛かる前にシマウマが食い殺されるのが普通だ。


(探してみるか)


 少し気になり森の中を探索する。










〔~???~〕


「なにが行われたのでしょうか」


 私は探索した部隊が見つけた痕跡地に来ている。


「地面が……」


 地面がガラス状に成っていたり、岩が不自然にえぐられたりしている。


「考えられない高熱がここで発生したようですね」

「だけど周囲に燃え広がった様子はない」

「ってことは炎ではない……雷?」


 考えられるのは攻撃範囲が少ない雷魔法、だけど雷魔法の主な攻撃手段は感電させること。それなのに地面がこうなるまでの威力を使うか疑問だ、ただでさえ土属性には効果が薄いというのにここまでの状況にしている。


 周囲に争った形跡がないのがさらに不自然で、まるで力試しで暴れまわったかのようにも見える。


「どうしますか?」


 部下が方針を聞いてくる。


「東と来て南に来たんだ、次はおそらく西に移動した可能性が高い」


 他にも東と南は食料が少ない、なので獲物が大量にいる西に移動するはず。


「では行きましょう姫様・・


 私たちは未知の存在を警戒して追跡を続ける。









〔~バアル視点~〕


 すこし奥に進むとさらに多くの獣が襲い掛かってくる。


 それらを撥ね退け進むと原因が判明した。


「……ダンジョンか」


 何かの神殿のような建物が森の中にある。どう考えても不自然な状態だ。


 神殿に入ると中心に下に続く階段がある。とりあえず考えた結果下りてみることにした。


 下りると階段から通路になり、その先を進んでいくと鬱蒼とした森が広がっていた。


「…………エリアタイプなのか」


 なぜだか夜空が広がっており多数の星と3つの月が浮かんでいる。


「俺は探知系のスキルがないからな」


 ステージタイプなら一人でも問題ないが、この広い空間だと奇襲を警戒するために一人は斥候スカウト役が必要となる。


「戻るか」


 一人で行くのはあまりにもリスクがあると判断し、来た道を戻る。








〔~???~〕


「それで西側にいた痕跡はあった?」


 西側にたどり着くと全部隊を拡散し探索させた。


「ええ、いくつかの部隊が痕跡を発見しています」

「ですが、それはヒューマンの靴跡のみで、あの光や破壊跡の物かは不明です」

「……一応確認だが、味方と見間違えたりは?」

「ありえません、それに我々の靴跡とは明らかに違いました」


 じゃあ光の正体は人族ヒューマン


(ありえない、ヒューマンは英雄でもない限りあのようなことができるわけがない)


 私たちはレベルを考慮に入れなければ、魔力量は子供でも大人のヒューマンよりも多い。


 魔力量で劣るヒューマンがあのようなことができるとは考えにくい。


「……強力な魔具でも手に入れたのかしら」


 魔具はレア度が高くなれば高くなるほど特殊性は強くなり、とてつもなく強力にもなる。このようなこともできなくはない。


「姫様、西側を探索しましたが既にこの場を去っているようです」

「……分かりました。明日は北側にも探索の範囲を広げます」


 東でも南でも西でもない、となれば最後の候補地は北となる。


「ですがその際に食料が多いこの地に戻ってくる可能性があるので部隊を二つに分けます」


 戻ってくる可能性も考慮してここにいくつかの部隊を残す。


「ですが、今から動くとなると」


 空は藍色に染まっており、今から動くのは少々危険だ。


「わかっています、本格的に動くのは明日となります」


 とりあえず今日はこの場で夜を越すことにした。









〔~バアル視点~〕


 次の日、残り少ない食料を食べながら今後の方針を考える。


(次はどこを探索するか……とりあえず食料集めだな)


 食料は着実に減っていっている。何かあった際には余裕ができるようにしておきたいので今回は西で食料を集める。







 西の森林にやってくると簡単な罠を張ろうとしたが、よくよく考えれば自分で追い立てた方が簡単だと思いなおす。


「とりあえず」


 ユニークスキルを発動させるとそのまま近くの茂みに腕を突っ込む。


 ギュウウウ!?


 角の生えたウサギを捕まえる。


「……はぁ」


 そのまま手放し、落下中のウサギの首を刎ね、再び足を掴む。


「血抜き……はこれでいいのか?」


 そのまま血が出なくなるまで持ち上げる。


「とりあえずはこれでいい」


 その後、水魔法で死体を冷やし亜空庫に仕舞う。


 亜空間では真空状態になっているので一応は腐りにくくなってはいる。だが、殺菌などしていないのでほんの少しだけ保存できる期間が長くなる程度だ。


(せいぜいが5日がリミットか)


 いくら真空とはいえ腐る物は腐る。水で冷やして保存がききやすくしたといっても確実に安全性を保つなら二日、少し危険性が出たとしても5日が限度だろう。












 それからも小動物を狩り、血抜きをして亜空庫に仕舞う作業を行っているのだが。


(……つけられているな)


 後ろから一定間隔でついてくる気配があった。


(……三つだな)


 耳を澄ませて聞こえてくる音を聞き分ける。すると三方向から枝が揺れる音が聞こえる。


(位置は後ろ、右斜め後ろに左か、一瞬で終わらせないとすぐに逃げられるな)


 すぐさま終わらせるために、一瞬だけ振り向く。


「『飛雷身』」

「「!?」」

「『放電スパーク』」


 後ろ二人の中間地点に移動すると『放電スパーク』で麻痺させる。


「『飛雷身』」


 そして最後の気配の背後に移動する。


「!?」

「『放電』」


 驚いているところ悪いがさっさと気絶してもらい、地面に倒れる音が聞こえてくる。


「ん?」


 枝の上から下りてきたのは耳の長い女性だった。








 とりあえず三人を担ぎ拠点としている木の根元に移動する。


「一応、暴れられたら困るから縛りあげておくか」


 目が覚めたらどう考えても暴れる。なのでその対策として縛り付けておく。


 もちろん普通の縄では魔法で解けてしまうので鋼鉄製の鎖でだ。


(飯にするか)


 木の根元で焚火をしながらウサギを捌き、その後は肉の部位ごとに分けて焼いていく。


「ん、んん?あれここは」


 辺りに肉のいい香りが漂う頃、女性の一人が起きた。


「ようやく起きたか」


 ウサギを串焼きにしている手を止めて、起きた一人を見る。


「なぜこんなところにヒューマンがいる!!」

「喚く前に答えろ。お前はエルフか?」


 質問を遮り、こちらが質問をぶつける。


「どこからどうみても森の賢者であるエルフだろう!!」


(自分から言うのかよ)


 一応知識としてはあるのだが、実物は見たことがなかった。だから一応確認しておきたかった。誰が見ても綺麗だと思う顔と白い肌、横に長くなった耳、そんな特徴を持っていると聞いていた。


「縄を解け!!」

「否だ、解いたら暴れるだろう?」


 エルフは近くの木に吊り下がっていて、自分の振動で軽く揺れている。


「というか、なんだこの結び方は!!!」

(……一度亀甲縛りで吊るすのを試してみたかったんだよな)


 なぜこんなことをしたかというと一言で言えば好奇心だ。知識では知っていたが、実際にやってみるのは初めてだった。


(まぁなんの面白みもなかったが)


 最初の一人で飽きたのでほか二人は普通に縛って吊るしている。それに凹凸があまりないエルフにしても面白みなどなかった。


「おい、答えろ!!」

「そうだな、お互いに質問して答えようか」

「はぁ~何を言って」

「俺だけが一方的に答えるのは不公平だろ?だから俺が答えたら次に質問に答えてもらう、いいな?」

「……いいだろう」


 これでこの女性がとりあえずの情報源となった。もちろんあちらも俺に質問する機会があるのと、時間が稼げるという点を考えて受け入れたのだろうが、こちらの方が圧倒的に情報不足のためそれでよかった。


「まずは私からだ、お前は何者だ?」

「俺はバアルだ、種族はヒューマン、年は今年で12つになる」

「いや、そういうことを聞きたいんじゃ」

「次は俺の番だ、ここはなんという国だ?」

「………ここはノストニア」

(本当に外国に来たんだな)


 こいつがエルフであることから薄々は勘づいてはいたが、現実を伝えられてもいまだに信じられない。ここが夢の中だと言われた方がまだ信じられるほどに。


「では次に私だ、お前は何の目的でこの地に来た?」


 当然ながら相手側もこちらの情報を引き出そうとしてくる。


「目的はない……しいて言うなら事故だ」

「事故………だと、この地がどのようなとこかわからぬのか!!!!」


 正直に話したら少女の怒りを買ってしまった。


「ここは、神樹を守護する6つの聖樹がおる聖地なのだぞ!そんな場所にヒューマンが何の用もなく入れる場所ではない!!!!」


 少女の口ぶりから結構な場所に来ていたようだな。


「我々、樹守ですら立ち入るのに聖獣の許可がいるのにヒューマンが立ち入れる場所ではないわ!!!」

(いろいろな情報が出て来たな)


 聞いたことのない単語がずらずらと出てきた。


「待った、その聖獣ってのは」

「聖樹を守護する聖なる獣のことだ!」


 この地に来てからそんな獣一度も見てないのだが?


「ちなみに聞きたいんだが………聖樹ってのはこれの事か?」

「え…………え?!」


 今いるのは最初に引っかかっていた樹の根元、そしてその樹はここ周辺でずば抜けた高度を保っている樹だ。


 そのような点から予想するに、この樹は


「な……んで………」

「ここは俺の拠点にしている場所だから」

「この無礼者めが」


 先ほどよりも激高して、いくら会話をしようとしても罵声しか飛んでこなくなったので聴取は終了した。









〔~???~〕


「なんですって?」


 夜、北の捜索を終え西に戻ってくると、食料集めの部隊が一つ帰ってきてないことが伝えられる。


「現在、捜索隊を出しているのですが一向に見当たらず」


 隊をまとめている副長から現状を教えてもらっている。


「北には痕跡しかなかった、そして帰って来るときも遭遇もしなかった………隊の皆を起こしてください」

「どうなさるおつもりで?」

「すぐさま動きます、明日になるとまたすれ違う可能性が出てきますから」

「姫様は不明な存在が三人をさらったとお考えですか」

「もし、食料を集めに西に来て三人と遭遇したと考えれば辻褄が合います」


 北から西に行ったのでないのなら聖樹の元から来たか南から来たとしか考えられない。


「では」

「ええ、私が聖樹の元へ、副長が南へと向かいます」

「……一応西にも数人残しておこうとおもいますが」

「もちろんです、三人がまだ帰って来てない可能性もないわけではありませんので」


 ということで急いで部隊を準備して行動を起こす。









〔~バアル視点~〕


「疲れた」


 とりあえず静かになった三人を聖樹の枝の上に寝かせた。


「うるさいのが増えると苦労が増える……」


 あの後、二人も目を覚ましたのだが、最初の一人が何やら伝えると喚く喚く。なので気絶させて、聖樹のとある枝に吊るしている。


「ほんとうに、疲れた…………」


 俺も火の処理をして、ハンモックで寝ようとするのだが。


「止まれ!!」


 背後からキリキリという音と複数の足音が聞こえる。


(あいつらの仲間か)

「大人しく両腕を頭の上に上げろ」


 言う通りに両手を挙げる。


「そのままゆっくりとこちらを向け!!!」


 ゆっくりと声のする方角を向く。


(1、2、………15はいるな)


 月明かりに照らされて矢の先が輝いて見える。


「答えろ!!なぜこの場にヒューマンがいる!!!」

「答えよう……だがこの場で最も偉い奴とだけにだ」


 素直に従う風に見せるが主導権は渡さない。


「状況を分かっているのか!!!!!」

「………」


 何も言わずに貫いていると、視線がある方向に集まる。


「私がここの隊長です」

「……………」

「では問います、ヒューマンがなぜこのような場所に来ているのですか」

「………………」

「なぜ答えないのですか!!!!」

「言っただろう、一番偉い奴と話をしようと」

「「「「「!?」」」」

(気づかれてないと思っているのか?)


 たしかに視線はこのエルフの場所に集まった、だけどそのエルフ自身も一瞬視線を送っていた。


 視線が向く方角の奥からもう一人出てきた。


「なぜ分かったのですか」


 現れたのは俺とそう身長が変わらない桃色の髪をした少女エルフだ。


「…………お前が、か?いや、俺もとやかくは言えないが」


 明らかに子供だった。周囲が大人だけに際立って目立つ。


「……なにか?」

「いや、なんでもない、それで質問は?」

「あなたは何者なのですか?」


 それはあのエルフにも聞かれたな。


「名前はバアル、見ての通りヒューマンだ」

「ここで何をしているのですか?」

「家に帰る準備だ」

「はぁ?」


(まぁそうなるよな……)


 森に急に子供が現れ何をしていかもわからず、そのうえで家に帰る準備と訳の分からないことを言っている。普通なら混乱するだろう。


「次に俺も聞いていいか?」

「……どうぞ」

「あなたの名前は?」

「………は?」


 自己紹介はコミュニケーションの基本だ。


「……クラリスよ」

「よろしくクラリス、で俺はこれからどうなる?」

「抵抗しないのならば捕縛して事情聴取させてもらいます、その際は丁重に扱うことを約束します」

「もし抵抗したら?」

「その際は」


 弓を引く音が鳴る。


「殺すか……」

「降伏してくださいますね?」


 ここで降伏したらどうなるのか。


 捕まったら丁重に扱うとあるが、事と次第によっては拷問も普通に受けるだろう。その際にゼブルス家ということを伝えるとする、待遇はそれなりだろうが身代金を要求、ノストニアが俺のことを調べユニークスキル持ち、果ては魔道具作成者だと知れたら………


(ここは逃げるに限るな)


「なぁ取引しないか」

「取引?」

「俺はお前たちの仲間であろう三人を押さえている」


 この言葉にエルフたちが色めき立つ。


「で、その三人を渡す代わりにここは見逃してくれないか」


 人質を解放する代わりに見逃してもらう、ありがちだが、効果的でもある。


(この場所がノストニアだと判明したため、帰る方向は把握できた……さてどうでる)


「知らないのですか、エルフは魔力を感じ取ることができます」

「……つまり?」

「すでに三人が救出されているということですよ」


 クラリスの視線を追うと三人を置いている木の枝に向かっているエルフが見える。


(これは選択肢を間違えたな)

「今のやり取りであなたがどんな人物か理解できました」


 エルフに悪人の印象を与えてしまった。


「捕縛する必要がありませんね、放て!!!」


 ヒュン!!

『飛雷身』


 矢が放たれると同時に『飛雷身』で回避する。


「っ追え!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る