第22話 ベタベタの中のベタな展開

「では魔法についてお話ししましょう。魔法は基本7属性で構成されています。さてそれはなんでしょうか、セレナさん答えてください」

「はい、火、水、土、風、雷、光、闇です」

「では属性の優劣も答えられますか?」

「火は風に強く、風は土に強く、土は雷に強く、雷は水に強く、水は火に強い。そして光は闇に強く、闇は火、水、土、風、雷に強い」

「そうです、ついでに補足すれば火、水、土、風、雷は光に強いですね」


 今、行われているのは魔法学の授業だ。それも超初歩的な部分。


「ほかにも合成属性や無属性とされています時空魔法などもありますが、これは中等部で習うので今は考えなくてもいいです。では実践してみたいと思いますので外に行ってみましょうか」


 教師は生徒全員を引き連れて訓練場の方に移動する。


「では、各属性の初級魔法を教えましょう」


 リーゲル先生はあらかじめ置いてある的に初級魔法を当てる。


「まずは初級火魔法『火球ファイアーボール』」


 まずは字に書いてあるがごとく火の球体、これが的の方に飛んでいく。


「次に初級水魔法『水球ウォーターボール』」


 これも同じで今度は水球だ。


「初級土魔法『土球アースボール』」


 二つとおんなじで土の球。


「初級風魔法『風刃エアカッター』」


 次は3つとは違い横なぎに繰り出された風。


「初級雷魔法『小雷ショック』」


 これは知っている弱い電撃を放つ魔法。


「次に攻撃ではないのですが初級光魔法『ライト』」


 リーゲル先生の前に光の球と呼ぶものが生まれる。


「そして同じく攻撃ではないのですか、初級闇魔法『ダーク』」


 魔法を使うとリーゲル先生が闇に包まれ、しばらくすると闇が消えていく。


「このように光と闇に関しては初級魔法では攻撃手段はとれないのです」


 しばらくすると鐘が鳴り、最初魔法学の授業が終わった。


 その後も授業があるのだが、算数や語学などの普通の授業を行う。と言っても難しいものなど何もなく大層な感想も出ないで本日の授業は終了した。















 そんな日々が何日も続いたある日。


「……」


 いつも通り本日も普通の授業に出ているのだがあまりにも変わらないような内容なので退屈になる。


(……サボるか)


 授業が終わり準備時間に入ると、俺はリンを連れて教室を抜け出す。


「……いいのですか?」

「問題ない、あんな問題なら何回問われても答えることができる」


 なんせ難易度でいうと九九程度だ。テストと出席日数さえあればあとはどうでもいい。


 考えをまとめると早速学校をさぼり、骨董店メルカに向かう。


「いらっしゃい、今日はどうしたんだい」

「特にこれといった用ではない、ただの暇つぶしだ」


 あの婆さんは相変わらず椅子に座ったまま動いてない。


「そうかいそうかい、そういや聞いたんだがグロウス学園に入学したそうじゃな?」

「噂にでもなっているのか?」

「ああ、今年はユニークスキル持ちが多く入学したと聞いたからのう」


 話を聞くと普通は数年に一人ほど。それと比べると多い部類になる。


「それに平民からも数人ユニークスキル持ちが出た、とも噂になっているぞ」

「……それは本当か?」


(俺、両殿下、ユリア嬢、それ以外でも二人以上のユニークスキル持ち…)


 リンは他国生まれなので中に入れないが異常な多さだ。


「まぁこれが平和の表れか、はたまた争いの予兆か」

「……」


 嫌な予感がするな、それは。


「貴重な情報感謝する」

「いいんじゃよ、それとたまにだが顔を出してくれんかの?一人じゃ寂しくての」

「……気が向いたらな」


 こうして俺は店を出る。時間としてはそろそろ学園が終わる頃だ。 


「なんというか不思議な御仁でしたね」

「ああ」


 前世でも年寄りの知恵は役に立つ場合が多かった。


「帰るか」

「はい」


 とはいっても戻る先は王都のゼブルス邸ではなく、学園に併設されている寄宿舎に向かってだ。


 地方から学びに来ている貴族はほぼ全員が学園側が用意した寄宿舎にて生活している。もちろん王都に屋敷を構えている貴族も大半はここで寝泊まりしている。その中には王族であるエルドやイグニアもいた。


 なぜ王族や屋敷などを所有している貴族子弟が寄宿舎にいるか、簡単に言えばコネクション作りの一環だ。王都にいる貴族子弟は地方の人たちと知り合い、どのような物があるのかを把握し、地方からの貴族は王都での流行やマナーなどを細かに学ぶ。ほかにも派閥の拡張や地方での上下関係の強化などといった部類の交流を行うためでもある。


(とはいえ、一人なのは変わらないが)


 当然ながら俺に話しかけてくる奴などいない。いたとしても学園からの連絡の橋渡しや何らかの提出を集めるときに声を掛けられるくらいだ。


「……?あの集まりは何だ?」

「なんでしょうか」


 寄宿舎へと進んでいると、道中にて騒ぎがおきているのが見える。暇つぶしとして俺たちは騒ぎを一望できるところに移動し見物する。


「何やら女性とそれをかばっている少年と敵対している3人の少年が見えますね……しかも」

「俺らと同じ制服だな」


 騒ぎを起こしているのは全員グロウス学園の生徒だ。


 何が起こっているかを聞くために俺たちは耳を澄ます。


『なにをするんだ!?』

『教育だよ、お前らみたいな平民が特待生になったんだ、貴族の道理ってのを教えておこうと思ってな』



「典型的な馬鹿貴族か」

「ええ、どうやら特待生に平民がいるのが気に食わないのでしょう」


 だが、このような考えを持つ貴族は少なくない。こういう事態になってしまわぬように貴族と平民で校舎を分けていると言ってもいいぐらいだ。


『そんなもの頼んだ覚えはない!』

『うるさいな、とりあえず食らえ!』



 三人のうちの一人が殴り掛かるのだが、武術を習っている動きでなく平民の彼に簡単に躱される。


『くっこの!』


「この時点で失態と言えるな」

「では止めに入られては?」

「嫌だ」


 あれと同類と思われるのは虫唾が走る。


『お前たちも手を貸せ!』

『『おう』』


 二人が加勢に加わった、が。


『お、お前の顔は覚えたからな!!!』


 結局、三人はボコボコにやられて帰っていった。


(三下のようなセリフを吐くとはな…………)


 まるで物語のかませ犬を見ている気分になる。


『大丈夫かい?』

『あ、ありがとうございます』

『いいよ、困ったときはお互い様だからね、あ、僕の名前はアーク、見ての通りグロウス学園の生徒だよ』


「いいですね~~」

(……定番な展開だな)


 リンはあの物語のようなやり取りを見ている、だが俺は定番すぎて逆にうさん臭く思う。


(あの男がすべて仕組んだわけじゃないよな?三人を少女の方に方に誘導して、いいタイミングで介入して自分の好感度を上げるとか………ないな)


 もちろん、貴族から反感を買うというデメリットなどを考えれば合理的でないとも理解できる。だがそう思いたくなるほどのタイミングの良さだった。


『たしか…ソフィアさんだよね?同じ特待生の?』

『はい、ソフィア・テラナラスといいます。貴方はアーク・ファラクスですよね?』

『知っているの?』

『ええ、平民で特待生、それもユニークスキル持ちですから結構有名ですよ』


「あいつがそうなのか」

「そのようですね」


 それから少女は少年アークにお礼をしてこの騒ぎは終了した。


「さてと少し詳しい話を聞きに行くか」


 俺は解散していく中に入り、一人の女性の腕を掴む。


「少し話を聞かせてもらえるか」

「っ!?…なんだ若様ですか」

「先ほどの顛末を聞きたいんだいいか?」


 一人の女性を連れて、有無を言わせず近場のカフェに移動して話を聞く。







「でルナ・・、あの場で何が起こっていた?」


 俺は藍色の髪をした女性に説明を求める。


「う~~今日は休暇だったのに…」


 こいつは魔道具事件で俺を拉致しようと潜入してきたあの女だ。この二年間で何度か頼みごとをしていたため顔を覚えていた。


「それよりさっさと話せ」

「……事の発端はナンパです」

「ナンパしてあの少女が嫌がっているところにあの少年が現れ、少女を守ったか?」

「……その通りです、よくわかりましたね」


(今時のアニメでもそんな露骨な出会いを使わないぞ)


 それこそ登校途中にパンを咥えたヒロインが主人公とぶつかる展開のように使い古された状況だ。


「……まぁどうでもいいが」


 彼らとは実際に関わることなどないだろう。


「そういえば、今年の入学生はユニークスキル持ちが多いそうだな?」

「……そうですね、バアル様含めて清めの時の3人、それと知りうる限りでは5人のユニークスキル持ちがいますね」

「異常だな……」


 比率で考えれば、明らかに多すぎる。


(まるで何かしらの存在が裏で糸を引いてるような…………)


 脳裏にあの存在が思い浮かぶが、そんなことを考えだしたらきりがないので頭から消去する。


「それとですね、バアル様に報告があります」

「どうした?」

「実は他国の知り合いから、少し奇妙な知らせが来まして」


 ここで言う知り合いは他国のスパイのことだった。


「なんでも革命が起こり王侯貴族が処刑されたそうです」

「……その国は封建制だな?」

「その通りです」

「……革命を起こしたのは平民か?」

「伝聞では」


(そいつら馬鹿か?ろくに発達してない国で下手な革命は命取りになるぞ?)


 革命やクーデターのほとんどが確実に国力を落とすことになる。それも封建制だと、よほど国が腐っていない限りは、上層部に今までの体制でいたいと思う者が多いため確実に無血でとはいかないだろう。


「……それでなのですが、なんと先頭に立っているのが12歳の子供という話です」

「それもユニークスキル持ちか?」


 こちらの疑惑の声にルナは頷く。


(…………杞憂だといいが)


 またしても同年代だが、一類に同年代と言ってもどれほどいるのか。本当にごくまれな確率で同じ年齢になったのかもしれない。


「それでですね、また支援を頼むと思います」


 話がひと段落すると、追加で魔道具の発注したいと切り出してくる。


「今回の件でか?」

「はい」


 どうやら諜報部は念入りに調べるつもり様子。


「わかった、リスト作って屋敷に届けてくれ、数日中には返信する」


 いくら寄宿舎にいると言っても多少なりとも仕事が存在している。なので通常は学園が終わるとゼブルス邸に行き、仕事を済ます、その後は寄宿舎に戻り就寝というサイクルを取っている。


 ただ、このような行動をとっているおかげで緊急の書類仕事はとてもやりづらい、下手したら数日は返答ができない場合もある。


「わかりました」


 そのことをわかっているようで快く返事をもらった。

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