第10話 前世で見たことあるアレ
「まずこれはグラキエス家とゼブルス家の両家のみの交渉だ他家にはすべて秘密にしてもらう。いいな」
「もちろんだ」
「で、交渉の内容はゼブルス家は裏から第二王子イグニスを支援してもらう代わりに我がグラキエス家から採れた鉱物を安く供給するというものだ」
双方の親子が真剣に対面する中、アスラは内容を一つずつ詰めていく。
内容は
ゼブルス家
・第二王子主催のパーティーには特別な理由もなしに欠席はしない。
・第二王子からの要請は利益が生じない場合を除いて要請を断らない。
・あくまで中立だと言い張るため表立って第二派閥であるとは公言しない。
・ゼブルス家所有の魔道具の優先的販売
グラキエス家
・ゼブルス家に鉱物を安く供給する。
・ゼブルス家から第二王子派閥支援の際にはグラキエス家が仲介をしてゼブルス家の名前が出ないようにする。
「それと鉱物の値引きだがこんなもんでどうだ?」
グラキエス家当主は一つの書類を渡し、父上にそう尋ねる。
「……バアル」
父上の視線は執務室で仕事をしているときの物になっていた。ただ、表面がそうなっているだけで、裏ではお腹を痛めて顔をしかめていることだろう。
「父上に代わって失礼します」
「なんだ、交渉は息子に行わせるのか?」
「それが家の利益になると判断したまでだ」
アスラさんは父上にチクリというがそんなのどこ吹く風だ。
まずはどれくらい値引きするのかを確認する。
そして
「……本気で言っておりますか?」
「何か問題でも?」
「残念ですがこの値段では受けられません」
そう突き放す。
「ほう、明確な理由があるのだな?」
「ええ、我が家は過去に同じように便宜を図るからと言われ鉱物を安くするといわれたことがあります」
「それがこれよりも安いと」
「ええ、これがその資料になります」
「どれ……は?」
俺は作成した資料を見せる。そこには先ほど提示された値段よりもさらに安い金額が書かれている。
「これだけ値引きをされて承諾しなかったのです、言いたいことはわかりますか?」
もちろん俺が作ったのは
例えばA家で銀が相場から10%引き、金が30%引きの提示をされる、次にB家が銀40%引き、金が20%引きだと提示される。
この例で言えば俺は銀40%引き、金30%引きを提示している。なにも嘘は言ってない銀に関してはB家から40%の値引きを提示されているし、金に関してもA家から30%の値引きを提示されているのだから。
「だが、こちらもこの値段では受けられない」
当然だろう。なにせこの値段だと市場価格が完全に壊れる。
「ではいくつかの案件を飲んでもらえるなら条件を見直しましょう」
それからの交渉で割引は無理のない範囲となりいくつかの条件が変わった。
ゼブルス家
・第二王子主催のパーティーには特別な理由もなしに欠席はしない→第二王子主催のパーティーは不都合がない限り欠席はしない。
・第二王子からの要請は利益が生じない場合を除いて要請を断らない→第二王子の要請は標準的な利益が生じない場合以外は要請を断らない。
・あくまで中立だと言い張るため表立って第二派閥であるとは公言しない→あくまで中立と言い張るため自らは表面的には中立を装い、裏でできるだけ支援をする。
・ゼブルス家所有の魔道具の優先的販売→イドラ商会の新商品のみ販売予定日前に予約可能。
グラキエス家
・ゼブルス家に鉱物を安く供給する→ゼブルス家に鉱物を市場価格よりも安く供給する(別途割引あり)。
・ゼブルス家から第二王子派閥支援の際にはグラキエス家が仲介をしてゼブルス家の名前が出ないようにする。
・第二王子派閥がゼブルス家を標的、又は派閥内の除外を受けた場合それの援護をする。
という風になり、さらには俺の提示した条件より少ないが最初に提示された金額よりも安い条件を結ばせた。
「また鉱物については輸送なども行ってもらえますか?」
「それはそちらでか、もしくはお抱えの商会を使ってもらいたい」
まぁそれくらいは引き受けよう。割引に関してはかなり譲ってくれた部分が大きい。
「では父上、交渉はこのように纏めましたがいかがですか」
「ん?ああ問題ないよ」
俺がグラキエス家ならこんな条件で結んだりはしない、だがグラキエス家はすでに第二王子派閥であることを明確にしている。もし第一王子が王位を得たら冷遇されるのは目に見えており、また逆に第二王子が王位を取れば、その分優遇してもらうことができ、条件で出た損失を簡単に埋めることができるだろう。
「………」
アスラは渋い顔をしている。
それはそうだろう、すぐにでも異議を申し立て条件を変更、もしくは交渉を破棄したいはずだ。だけど今損してでもゼブルス家を味方につけなければならない。もしゼブルス家を味方につけなければ第二王子派閥は一気に後退することになるからだ。
仮にこの交渉を蹴ったとしよう。それ自体は別にいい。だが第二王子派閥が負ければ結果的に損をすることになってしまう。
つまりは投資に似ている。イグニア殿下という会社にさらに投資をして後々利益を得る。それか投資はせず、現状を見守る。この場合は
そこをつかせてもらい、有利な条件を引き出した。
交渉が終わると二人をメイドに託して俺と父上は執務室に戻った。
「どうですか父上」
「……まぁ一言で言えばやりすぎだな」
つまりは追い詰めすぎということだ。
「知っています」
それを考慮に入れながら交渉した。これを何度も続ければゼブルス家は弱みに付け込む家だと判断されるが、交渉したのは俺。しかも今回が貴族同士で初めての交渉だ、やられすぎたのならともかくやりすぎて文句は言えないだろう。またやりすぎても、まぁ最初なら仕方ないか~という感じに落ち着くはずだった。
「ということで次からはほどほどにしますよ」
父上が頭を抱えている。
「だが、確実にグラキエス家には嫌われたぞ」
「知りませんね、中立を保っていた我が家を引き込んだのです。それくらいの損をしてもらわないとほかの派閥に顔が立ちませんよ」
有名な会社の株が値上がりするのと同じようなものだ。
その後ゆっくりした後、来賓を招いて晩餐が始まる。
「で、お二人の今後の予定は?」
「そうだな、2日ほどゆっくり休養を取ってから領地に帰るつもりだ」
「おお~では案内にバアルを付けるぞ」
(……は?)
父上の言葉で思わず数秒固まる。
(父上、俺は嫌われているのですよ)
(だからだ、それなりに友好関係を築いてきなさい。これから秘密裏にだが同じ派閥になるのだから)
アイコンタクトで伝えるが、父上からだからこそという視線が返ってくる。
「ふむ、では頼めるか?」
「………わかりました」
アスラさんから言われたなら断ることはできない。
父上の言葉通り翌日、俺が二人を案内することになった。
「アスラさん、どこか見て回りたい場所などありますか?」
「では魔道具工房などを見学したいのだが」
(機密を探りに来るな)
もちろん失礼にならないように敬語で何重にもオブラートにし、伝える。
「残念ですがあそこはゼブルス家の親族のみ入ることができる場所なので」
「仕方ない、代わりにどんな魔道具が売っているか見せてもらえるか」
「ではイドラ商会に案内しましょう」
俺を含め3人が馬車に乗り込む。
「リン、これを先にイドラ商会に届けてくれ」
「わかりました」
先にリンをイドラ商会に向かわせる。御者に少し回り道をしてもらい、リンより先に付かないようにしてイドラ商会に向かわせる。
「「「「いらっしゃいませ!」」」」
店に入ると何人もの従業員がお出迎えをしてくれる。
「お待ちしておりました、ではこちらへ」
従業員の奥にいた支配人が出迎えてくれると最上階にある一室に連れてこられる。
部屋の中にはソファとテーブルそれと舞台が準備されていて、そこに案内される。
「これから何が始まるのですか?」
「すぐにわかりますよ」
カーテンが締まり部屋が暗くなり、舞台が照明で照らされる。
「レディースエンドジェントルメン!ようこそおいでくださいました!これから客様の生活に役立つであろう魔道具の紹介をしていきます、質問があった場合その場でご質問してください!即座に答えさせていただきます」
この部屋は貴族用に実演販売できるようにしておけと指示したはずだが。
(テレビショッピングになってないか?)
「まず最初は~~~~~、これです!」
出てきたのは冷蔵庫だ。
「奥様、今日は比較的に安く売ってますわよ、まぁ…でも多く買っちゃうと腐らせるだけだし。大丈夫です、この冷蔵庫があれば食材を長持ちさせることができますよ!」
なんかデジャブを感じる演技だった。
「やり方は簡単!横にある取っ手を手に取り魔力を流すだけ!そうすれば問題ない範囲で魔力を吸い上げてくれます!そして吸い上げられたら魔道具が仕事をしてくれて中をヒンヤリと保ってくれます。取っ手の横には何日分の魔力が補充されているか表示されているから超便利!すこし場所は取ってしまいますけど、食材を長く保ってくれる便利な魔道具です!さて気になる値段ですが………なんと大銀貨5枚……………何これでもお高い?しょうがないですね………ではお客様限定で値引をしましてなんと大銀貨2枚と銀貨4枚!それ以下の桁は切り捨てましょう!ほかにもサイズが違うものもご用意しておりますのでもしお求めならお声がけください!」
一人目が現れると同時に舞台の一部が上がり商品が現れると実演販売を始める。
「では次に行ってみましょう!!」
司会人がそういうと商品とその人が同時に舞台から消えていく。
「では!気を取り直して次に行きます!お次の商品は―――」
実演販売している隙に俺は席を立ち、後ろにいる従業員に話しかける。
「この舞台の責任者を呼んでくれ」
「わかりました」
しばらくしてこっそりと責任者が入ってくる。
「お呼びですか」
離れてはいるが近くに二人がいるので小声で話す。
「あれはなんだ?」
「?ご希望通り、貴族様専用に実演販売する場所です」
「そうじゃない、あの喜劇の演劇みたいなやり口のことだ」
今も行っているあの販売法のことを聞きただすのだが。
「あれですか?我が従業員が頭を悩ませて思いついた実演法です」
「文句は出ないのか?」
「いまのところは、むしろ貴族の奥方様には高い評価をいただいておりますが」
(……どの世界でも主婦は主婦ということか?)
どうでもいい点に気付く。
「……問題ないならいい」
「では仕事に戻らせてもらいます」
責任者を戻すと俺も席に戻る。
「ではお次に!ああ~、何でこんなに暑いの~という日には必見!部屋にこの道具を置いておくだけで、アラ!不思議!みるみる部屋が涼しくなっていく魔道具です」
次に出てきたのは冷風機だ。
「ではここで実演していきましょう」
解説している人は冷風機のボタンを入れる。すると徐々に部屋の気温が下がっていく。
「おお~」
「涼しい」
アスラさんは驚き、ユリア嬢は気持ちよさそうに目を細める。
「自室に置くも良し!熱い調理場に置くのも良し!執務室に置くのも良し!効果は劣りますが屋外に置いても多少は効果がありますよ!」
「おし!買おう!」
アスラは即決で購入を決意した。
「お買い上げありがとうございます!ですが種類と大きさが一定数ありますのでそちらをご覧になってからの方がいいかと」
「アスラさん、帰りに係員に言えば対応してもらえますので」
「うむ、ではメモを頼む」
すると後ろにいる職員がメモを取る。
「では次に―――」
それからは存分に満足するまで付き合った。
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