第5話 バカの相手ほど大変な物はない

 そのあと店を出るといい感じに日が暮れていたので屋敷に戻るのだが。


「バアァアアルーーー!なんで言うことを聞いてくれないんだぁーーーー!!!!」


 帰ると父上が涙目で泣きついてくる。


「晩餐までには戻ったので、問題はないはずでは?」

「たしかにそうだが、たまにはちゃんと言うこと聞いておくれよ」

「今度から気を付けます」


 とりあえず父上が落ち着くのを待つ。


「晩餐の件はどうなりましたか?」

「ああ、今日から三日間王城で晩餐間会を開くのが決まった。で私たちは二日間だけ参加するつもりだ」

「わかりました」

「では着替えてから王城に向かうぞ」


 父上の声で隠れていた侍女がゴテゴテの着るのもめんどくさそうな服を持ってくる。


(………あれに着替えるのか)


 気落ちしながら仕方なく着替えさせられる。










 無理やり着替えてから王城に来たのだが。


「バアル様、私はマラク家の長女、エレナと申します」

「私は、カリナと申します。グウィーン家の者です。もしよろしければ今度領地にお越しくださいませ、持て成しますわ」

「ずるい!私はルイーゼと申します。よろしければ王都を探索しませんか?」


 会場に入った瞬間、女の子たちが集まってくる。理由は公爵家嫡男という肩書があるからに他ならない。


「失礼、お誘いはうれしいのですが何分多忙で今度機会があったら」


 笑顔を作り相手にする。


 なぜだがこれでも女の子は喜んでいる。


 それからひと段落すると、父上が近づいてくる。


「……懐かしいな昔は私もそうだった」

(その腹で?)


 思わず疑いの視線をぶつけてしまう。


「私もずっとこんな感じだったわけではないんだよ?」

「……」

「疑っているね…………まぁ私の時もそうだったが、『清め』が終わったから正式に貴族としての扱いが始める。となれば、ほとんどの淑女がバアルの婚約者に名乗りを上げようとするさ」

「10歳からですか?」

「そうだよ、時間がたてば絆も深まることが多いからね早めに縁を結ぼうとしているんだよ」


 いつ死んでもおかしくないこの世界じゃおかしくない。


「まぁ、うちは公爵家だからね、ただでさえ権力狙いでの女性が多いからね……………加えてバアルはかっこよく、ユニークスキル持ちだからね」

「カッコいいですか?」


(…………そういえば転生したから顔も変わったんだったな)


 前世の記憶に引きずられて自分がカッコいいとは認識できなかった。


「で、どうだ?気になる子はいるか?」


 父上はニヤニヤしながら聞いてくる。


「残念ながら、下心満載で近づいてこられても」

「ふむ、惚れている子も何人かいるんじゃないか?」

「外見だけで判断する女性に恋愛感情を持つ、なんて俺には考えられません」

「残念だね、縁談は山のように来ていたのに」

「全部断っておいてください」

「理由はどうする?」

「俺は修行に忙しくほかに時間を費やしたくないからとでも言っておいてください」

「わかった」


 俺は近づいてくる女の子をあしらいながら料理を食べている。


 ちなみにこの晩餐会は立食形式をとっているため会場のいたるところを回りながら食事をとることになる。


「体調は治りましたか、バアル殿」


 会場を回っている途中で声を掛けてきたのは紫紺の髪が特徴のエルド殿下だった。


「ええ、おかげさまですっきりとしましたよ」

「それは良かった」


 俺は警戒しながら話を続ける。なにせもう片方の王子があのようなやり取りをしていた、こちらが類似した話を持ってきても何らおかしくない。


「清めですぐに神殿を出ていきましたから心配していました」

「ご心配をかけて申し訳ない」

「いえ、元気なら問題ないです」


 表情からは何を考えているのか読み取れない。どうやらイグニアと違いポーカーフェイスが出来る王子らしい。だが、本当に心配して声を掛けたなんてことはまず無いはずだ。


「それで殿下、ご用件は何でしょうか?」

「……少しあっちで話せるか?」









 俺は殿下と共に誰もいないテラスまでやってくる。


「それでは、もう一度尋ねます。ご用件は何ですか?」

「……ゼブルス領では魔道具が有名ですよね」

「特産として広く認識されているそうでうれしい限りです」


 ここ数年でイドラ商会ほど名前を伸ばした商会は数えるくらいだろう。それこそ特産とまで呼ばれるくらいに。


「一つ疑問ですが、なぜ武器は販売しないのですか?魔道具はとても使いやすく便利です、うまくやれば」


 殿下はさらなる財を手に入れられると言いたいらしい


「魔道具は誰でも手軽に使えるのが利点です。魔道具を武器に転換してしまう、それは誰でも気軽に人を傷つけられる道具に他なりません」

「つまり武器の魔道具は作らないと?」


 問いに頷く。そして殿下の要求はなんとなくわかった。どうやら武器の魔道具を作ってほしいらしい。


(だが、それはしない。なにせ武器を作る意味がない・・・・・


「残念ですが」

「では防御用の魔道具を作ることできますか?」

「防御用ですか……」


 やろうと思えばできないこともないが。


「それは毒などではなく戦闘でということですよね?」

「そうだ」

「……わかりました、何とか作ってみようと思います」

「ありがたい。値段は言い値で払うからよろしく頼む」


 こうして一日目の晩餐会が終わった。













 二日目、今日はエルド殿下は来賓せず、代わりにイグニア殿下が出席する。


 で、案の定俺の元に来るのだが。


「決闘だ!」


 予想外のことに、殿下は目の前に来ると声高らかに宣言する。


「……………なぜですか」

「本で読んだ!俺の器のでかさを見せつけるために決闘を申し込む!」


(なんて浅はかな………)


 なにに影響したのか、もしくは吹き込まれたのか知らないが迷惑にしか感じられない。


「では何を賭けて決闘するのですか?」

「賭ける?」

「まさか何の要求もなしに決闘を挑むのですか?」

「そ、そんなわけないだろう」


 誰がどう見てもただ決闘をしたいだけだろう。


「そうだ!お前はエルドに魔道具を献上するそうだな、それを俺にも寄越せ」

「(注文すれば普通に渡すのだがな)……では私の要求は成人するまで配下になれなど言わないでください」


 この国では成人は15歳とされており、勝負に勝ったなら五年間はイグニアからのうっとうしい勧誘がなくなる。


「ムゥ……分かった」


 それからは広場が解放され、いつの間にか決闘の場が準備される。


「……バアルなんでこんなことになっているんだ?」

「それは俺が聞きたいですよ、父上」


 あのわがまま王子のせいでこんなことになっていると言い放ちたい。


「バアル様、武器は何を使いますか?」

「……では槍を」

「バアル」


 そばにいる父上が話しかけてくる。


「勝つな、そして負けもするな」

「……わかりました」









「それではイグニア・セラ・グロウス殿下とバアル・セラ・ゼブルス様の試合を始めます」


 観客がいる中、俺たちは向かい合う。


(勝つな、負けもするな、か)


 それはつまり殿下に恥をかかせることもせず自分の評価も落とすなということ。今後のことを考えれば父上の方針に従った方がいいだろう。


「行くぜ!」


 言葉と共に剣を振るってくる。


(剣は多少使える程度で言うほど上手ではないな)


 イグニス殿下は晩餐会で剣が使えることを自慢していたが。


「はぁ!はぁ!」


 ある程度筋が通った振りだが、うちの騎士たちの手ほどきと比べれば手ぬるすぎる。


「っち、こうなったら!」


 何かを決意すると体から炎が舞い上がる。


(……あれは使えるな)


 イグニアが発動したのはユニークスキル。


 ユニークスキルといっても個人によってだいぶ内容が異なるので、どんな効果があるかはわからない。


(一応備えるか)


 俺も同じくユニークスキルを使い帯電する。











 生まれてからこの十年なにも勉学だけにいそしんでいたわけではない、体調を考えて武術の訓練は定期的に行われいた。そのため貴族の子弟として文句ない鍛錬をしてきた。


 それは俺が習った【槍術】や『魔法』はもちろん、個人でしか使えない【轟雷ノ天龍】も当然ながら訓練していた。













「はぁーーー!」


 殿下から放たれた炎の波で俺を飲み込もうとしてくるが、バックステップで範囲外まで避ける。


「っどこにいった!?」


 イグニアは自分の炎で視界が遮られて俺の姿を見失っている。


 そのままイグニアの死角に入り俺は移動し続ける。たったこれだけでも十分殿下を翻弄することができた。


「くそっ!なら全部焼き払えばいいだけだ!」


 殿下は無暗に炎の波を生み出し、全方位に放つ。


 炎は訓練場のすべてを飲み込もうとするが一回で全方向に放つことはできないようで安全地帯がある程度生まれている。


(……経験から言ってそろそろだと思うんだが)


 殿下がフラフラとし始める。MPが0に近づいてきたのだろう。


「終わりですか?あそこまで器を見せるなどとおっしゃっていましたのに」

「っっっな訳あるか!!!」


 挑発すると特大の炎の波が襲い掛かってくる。


(これを待っていた)


「『天雷』」


 特大の炎の波にこちらも特大の雷をぶつけて相殺したように見せかける。


(これではたから見れば、お互いに特大の術をぶつけ合ったように見えるだろう……それと)


 殿下は意識を失い倒れる。魔力が無くなったことによる気絶だ。


(なら)


 最後に自分自身に電撃を加えて気絶する。


「っっっっっ!」


 痛みをこらえて膝を付き地面に倒れる。


 こうすればはたから見て特大技をぶつけ合い共に気絶したと捉えられるだろう。そうなればどちらの名誉も守られる。


(……これで勝ちでも負けでもなくなる)


 こうして問題は解決し、意識が闇に落ちる。







〔~ユリア視点~〕


 私は観客席で決闘を見ている。


「いや、今年はすさまじいですな」

「殿下もそうですが、ゼブルス公爵様のご子息もあそこまで戦えるとは」

「それもいまだにレベル1だそうですよ」


 皆が公爵家のご子息に注目しているが、私は殿下が心配でならなかった。


「ユリア、殿下が心配なら傍に居てあげなさい」


 お父様はそういうが親切心だけで言っているのではない。


 私の家、グラキエス侯爵家は元々第二王子派、つまりは殿下と仲良くしておくのが後々良い結果となる。


 でも私が殿下に近づくのはそのためだけではなかった。


「では行ってまいります」

「負けるなよ」


(………ほかの令嬢に後れを取るなよという意味ですか)


 当然ながら王子ともなれば子供のころから競争するように婚約の申し入れがある、もちろんそのうちの一人は私だ。


「それとだが、あのゼブルス家のご子息を何とか引き込め」


 確かにゼブルス家は貴族の中でも上から5番に入るくらい力を持つ家。彼らを引き入れることができるのならどれほど有利に継承位争いを進めることができるか。


「……努力します」


 そうはいったものの、あの子、バアル・セラ・ゼブルスを引き込める感覚が少しも思い浮かばない。


「その際ある程度なら家の私財を使っても構わない」


 貴族の私財とはいくつかの権利のことを言う。


「………では行ってきます」


 私は侍女を連れて救護室に向かう。


「カーラ、ゼブルス家について知っていることを教えて」


 小さいころからずっとそばにいる姉のような侍女に話を聞く。


「わかりました。まずゼブルス家はこの国における4つの公爵家の一つです。公爵家としては少し小さいですが膨大な領地を持っています」

「そこらへんはわかっています」

「ゼブルス領は豊かな土地で食料は国でも1、2を争うくらいの領地です。そして最近では魔道具をよく輸出していますね」

「魔道具ですか?」

「そうです、イドラ商会をご存じありませんか?」

「……最近、勢いを付けている商会の一つですね」

「そうです、イドラ商会はゼブルス家の息がかかった商会です。館でも魔道具の大半はすべてイドラ商会の商品ですね」

「そうだったのですか……ねぇ、ゼブルス家には鉱山はある?」

「確か小さいものなら数か所……ですがグラキエス家の鉱山みたいに大きな鉱床は無かったはずです」

「……なるほど(それは使えるかもしれませんね)」


 ゼブルス家の情報を確認していると救護室に着く。


「では私は外で待っていますので、もしなにかあれば声をお掛けください」

「わかったわ」


 中に入ると二人が別々のベッドで横たわっている。


「これはユリア様、お見舞いですか?」


 診察している神官がこちらにやってくる。


「そうです。すみませんが席を外してもらえますか」


 私は神官を外に出すとイグニス様の近くの椅子に座る。


「う…ん………ムニャ……」


 怪我が無いようで安心した。


(……お慕いしていますわ)


 私は無礼ながらも殿下の頭を撫でる。


「………ん、ん~……」


 撫でているのがくすぐったいのか身動ぎする。


(………かわいいですね)


 いつまでもこの寝顔を見ていたくなる。


「すまないが逢瀬なら目の入らないところでやってくれ」

(……)


 邪魔をした忌々しい人を睨む。


「別に私たちは婚約者などではありません」


 訂正の言葉を出し、居住まいを正す。


「バアル・セラ・ゼブルス様、提案がございます」

「なんだ?」




「第二王子の派閥に入ってください」

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