曼珠沙華をあげる

夢星 一

第1話 死人花

「ごめんなさい。遅れてしまって」


――大丈夫ですよ。私が呼んだので。


「ありがとうございます。すみません、カフェオレを1つ。後、チーズケーキも」


――外は寒かったですか?


「それなりに」


――そうなんですか…………えっと、それじゃあ、改めて自己紹介しましょう。私は小柳です。


「柏田 大輝です。今日は宜しくおねがいします」


―― よろしくお願いします。本題に行く前に、せっかくですし、まずは雑談でもどうでしょう。


**

「良いですね。なんの話をしましょう?」


――うーん……そういえば、最近はタピオカブームが再来してきてるそうですね。大輝さんは飲んだことあります?


「僕はまだ。第三次タピオカブーム、って奴でしょう? ちょっと前にも流行りましたよね、オリンピックの開催された頃だったかな」


――まだ幼かった頃ですね。記憶にはないけど。私はちょっと前に、同級生と食べに行ったんです。まだ大行列が出来る前に。美味しかったですよ、モチモチしてて。

 まあ、タピオカ本体には味は感じなかったけど。味付きのタピオカ……も、最近増えてきたそうですね。


「そうなんですか。お詳しいですね。甘いもの、好きなんですか?」


―― 好きですよ。よく同級生と学校帰りに食べに行ってました。テスト終わりにはちょっと贅沢して駅前のケーキ屋さんに行ったりして。まあ、普段からコンビニスイーツを買い食いしたりしてます。


「へえ。それは楽しそうですね。そのお友達は部活仲間だったんですか?」


――いえ、私は写真部で、彼女はバスケ部でした。中学の頃、一緒のテニス部だったんです。


「なるほど。でも、運動部って終わるのが遅くないですか?」


――はい。だから普段待ってたんです。恋人みたいに。よくからかわれました。


「卒業後も彼女と?」


――はい。二人とも実家から通える範囲内の大学なので、予定があったらいつも。もはや習慣のような物ですよ。


「仲が良いですね。秘訣とかありますか? 僕も仲のいい奴がいるんですがね、出来る事なら長く付き合いたくて」


――互いに、壊れやすい関係だということを自覚していれば、自然と尊重し合うから長続きするんじゃないですか? 後はアレかな。相性。血液型とか。


「B型とAB型だとどうでしょう?」


―― 私の記憶違いじゃなかったら、すごく良かったと思いますよ。ランキング1位だったかな。すごいや、負けちゃった。私達、2位だったんです。A型とA型。


「なら安心しました。実際に関係があるのかはわかりませんけど。」


―― 話の話題くらいにはなりますよね。星座占いとか。私牡牛座なんですけど、影が薄いと思うんです。


「獅子座とかの方が有名なところはありますもんね……あっ、ありがとうございます。はい、そこに置いてください」


―― ケーキの上に乗っているのはラズベリーですかね?


「みたいですね。ラズベリーソースもある。かけちゃおうかな。甘すぎないと良いけど」


――ラズベリーなら酸っぱいでしょうから、チーズケーキとの相性は多分バッチリですね。大輝さんも、甘い物は好きですか?


「あまり食べないですね……隣町にある、少し小さなケーキ屋のケーキは好きですけど。程よい甘さで、食べやすいんですよ。そこの目玉がチーズケーキだったから、つい頼んじゃって」


―― 隣町ですか。あまり行かなかったなあ。今もありますか?


「ありますよ、ただ、今は少し休業してますけど」


――どうして?


「ちょっと前に、ほら、事件? があったでしょう。ニュースにもなってた」


**

―― 連続通り魔の事ですか。


「ああ、いや。それより少し後。男の人がホテルの12階から飛び降りたじゃないですか。その人が飛び降りたホテルの向かい側にあるんです。その店。それで当時、男の人の腕が地面に跳ね返って、そのお店のガラスに当たったそうなんです。」


―― お客さん、ビックリしたでしょうね。


「ええ。しかもその話がネットで拡散されちゃって、だから今はしばらく休業中なんです。店員さんもトラウマになっちゃったらしくて。まあ、目の前には潰れた死体があるわけですから。……ああ、ごめんなさい。スイーツを食べながらする話じゃありませんでしたね」


――いえ、まあ……グロいのは平気なんですか?


「まあ、見慣れてますし」


―― 見慣れてる?


「いわゆる見える人、っているじゃないですか。幽霊とか。物心ついた時から事故死した人とか見てたらね、慣れますよ」


――……幽霊が見えるんですか?


「どう思います?」


――…………


「ふふ。ごめんなさい、ジョークの才能が僕には無いらしくて」


――ああ、なんだ。驚いたなあ。あはは。私、怖い話苦手なんです。


「そうでしたか、すみません。そろそろ本題に入りますか?」


――そうですね。では早速。2週間前……9月5日は、何してましたか?


**

「その日は普通に学校があって、7時まで部活してましたよ」


―― 何部なんですか?


「科学部です。12月に発表があるので、その話をしてました。最後は雑談混じりだったので遅くなりました」


―― 7時以降は直接家に帰ったんですか?


「はい。変質者が最近現れるらしくって、友達が家まで送ってくれました。まあ、実際は話し足りなかったので、それっぽく理由をつけてたんですけど。家に着いてからはご飯を食べて寝ましたよ」


―― 変質者ですか?


「出るらしいですよ。小柳さんは聞いたことあります? それか、見たり」


―― ……どんな変質者なんですか?


「どんな、って。候補があるんですか?」 


――え?


「少し悩むそぶりを見せたでしょう?」


――えっと……まあ、はい。でも、私の気のせいだと思うんです。それに、彼は変質者と言うより、不審者のようだったし……大輝さんはどこの高校ですか。


「駅から近いところの高校です」


―― 進学校ですね。じゃあ違うかな。場所が離れているし。


「さっき彼、と言ってましたけど、誰か不審な男が居たんですか?」


――んーっと、ちょっと怖いなあ。って私が思っただけで、もしかしたらただの一般人かもしれません。


「……どんな人だったんですか?」


――その日は友達とパンケーキを食べに行こうと約束してたんですけど、体調不良で延期になっちゃって、一人で写真を撮ってたんです。落ち葉としば犬の写真も撮れて、満足でした。

それで、遅くなったその帰り、後ろからずっと足音が聞こえてたんです。でも、別に尾行してる感じでもなかったから、最初は気にしてなかったんですけど。途中で、この人やけにご機嫌だな。って思って。


「ご機嫌?」


―― スキップをしたくなるのを堪えようとしているけど、抑えきれない、みたいな足音で。酔っ払ってるのかと思ったけど、年もわからないし。だけど気になって仕方がなかったから、口紐を結び直そうとするふりをして、立ち止まってしゃがんだんです。


「その人はそのまま貴方を追い抜いて?」


――はい。その時初めて気がついたんですけどね、彼、鼻歌を歌っていたんです。子守唄みたいな。海外の。


「子守唄を歌いながら夜道を?」


――そうです。不思議でしょう。


「どっちかというと不気味ですけどね……彼、と先ほど言ってましたが、その人の顔は見れたんですか?」


――はい。チラッと顔を見ました。


「どんな人でした? 年は? 身長は178くらいですか」


――そこまでは……しゃがんでいましたし。でも、少し高い印象でした。一瞬だけ目があったけど……年が分かりにくい顔つきで……30代かな? 大学生みたいな、幼さの残る感じではなくて……ああ、そうだ。口元に絆創膏を貼ってました。


「なるほどなるほど。ニュース通りですね」


――ニュース?


「通り魔、捕まったんですけどね。あなたが言った通りだ」


――えっ、あの人通り魔だったんですか! 私、すごく危なかったってことですか?


「危なかったというか、実際にやられたんですけど」


――どういうことです??


**

「つかぬ事を聞きますが、昨晩はなにを食べましたか?」


――はあ?


「晩御飯です。ちなみに僕はカレーでした。……ああ、なんなら今朝の朝ごはんでも良いですよ」


――質問の意図がわかりません。


「昨日は何時に寝ましたか? 今朝は何時に目覚ましを? 貴方はいつから外にいたんですか?」


――……あのぉ?


「じゃあ言い方を変えようかな。貴方は9月5日以降、僕以外の誰と会話しましたか?」


――…………へ?

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