第94話


 手を引いて、辿々しく歩く彼女が転ばないようにリードする。舞台袖で待機すれば、チラッと見えたたくさんの人。客席にいる仏頂面の晴が目に入った。

 出場者を見渡せば、イケメンと美女が並んでる。まー、俺にはどんな美人よりも、隣でガチガチに緊張してる年上の女の子のほうが魅力的に見えるけどね。


「さあ、始まりました!カップルコンテスト!」

 嬉々とした正彦の司会進行の声が響く。企画の内容はあんま知らないから、まじでぶっつけ本番。

「では登場してもらいましょー!」

 1組ずつ呼ばれて、ステージへと上がっていく。俺たちは、ラストだった。


「最後の1組!ミスターコン優勝候補でもあるイケメンと年上彼女!長尾カップル!」

 呼ばれた後ステージに上がれば、騒がしい場内が一層賑やかになった。指示通りランウェイのような花道を歩いてセンターステージへ向かう。俺の腕につかまるななさん。めちゃくちゃ力入ってて可愛いわぁ。


 舞台中央に行ったらポーズとってって言われてるから、隣の彼女を引き寄せてヒョイとお姫様抱っこすると、悲鳴がさらに響き渡った。慌てたななさんが俺の首にしがみつくから、また胸が高鳴る。

 2、3秒ほどでそっと地面に下ろして、またメインステージへ戻った。


「なんと!学園のプリンス、長尾祥太の登場に女性からの悲鳴が止まりません!」

 なーにが、「なんと!」だよ。お前が言ったんじゃんか。……ま、こんな機会くれて感謝してるけどね。

「その気になるお相手……お名前は?」

 正彦がマイクをななさんに向ける。突然振られたななさんは、ビクッと肩を震わせた。

「ななちゃんっていいまーす!」

 さり気なくマイクを奪いとると、代わりに答える。

「年上とのことでしたが、おいくつですか?お仕事は?」

 悪気のない正彦の質問責め。ななさんはもうパニックで、涙目になって俺を見上げた。

「あー、ごめんなさーい!俺は大事な彼女のこと、あんま知られたくないからシークレットで!」

 しーっと人差し指を口元に添える。俺のファンの子が何かしでかしたら困るしね。

 正彦に目配せをすると「お〜、長尾くんは意外にも束縛タイプのようですね」なんて言ってる。ヘラッと笑ってななさんの手を安心させるように握った。……うっわ、晴の顔やば。

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