第59話



「……もし再会したら?譲るか?」

「……ボケ。そんなことするか。どんだけカッコ悪くても、どんだけガキでも、駄々こねて地面でジタバタ転げ回ってでも、離さへん」


 その問いには、即答やった。ソイツに勝てる自信はない。でも、現れたからって諦めて逃げ出すほど、ななちゃんへの気持ちが揺らぐわけはなくて。「……ほんとお前って……」とそうちゃんは呆れた。


「なりふり構っとれんからな。何しても絵になるこのイケメン捕まえて、よくもまあ20回も30回もフッてくれたわぁ」

 冗談ぽく笑う。そうしとかな、俺の中でなにかが崩れてまいそうやった。


 すると同じように軽く笑ったそうちゃんが、なにかを考えるように黙り込む。一度目を閉じて、大きく息を吸う。次に俺を見た時、決意したようなその表情にドキッとした。それは変な意味やなくて。なんだか落ち着かん、嫌な空気。


「……心配すんな。もう会わねーよ」


「なんで言い切れるん」


 なにかが引っかかった。向こうが結婚しとるから?それやったら「会わない」じゃなくて「好きにならない」とか「付き合えない」とかでええのに。どこか遠くに行っとるんか?断言できるほど?



「……ハルは、もういないから」


「……は?」


 そうちゃんが今まで見たことないくらいに顔を歪めて、ツラそうにするから。嫌な予感がした。……あー、俺のカンって当たんねんなあ。




「ハルは、一年前に死んだんだよ、病気で」



 それは、あまりにも残酷で。


 痛いくらいの衝撃。


 ──ホラな。当たってもうたやんか。



「……ななちゃんは、結婚したって……」

「……そう言ったんだよ、ハルは。自分が消えることが分かっててさ。嘘かどうかは知らない。もしかしたら本当に彼女くらいはいたのかもしれないけど。もしかしたら……菜々は今でもどこかでそうあって欲しいと思ってるのかもな」


 ななちゃんは、どんな気持ちで俺の名前を呼んどったんやろう。俺を呼ぶ度、ソイツのこと思い出しとったんやろうか。


 もしかしたら──ななちゃんが俺と付き合わんかった最大の理由は、年の差やなくて──。

 俺が“ハル”やったから?

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