第55話
……なんやねん、もぉ……。
そうならそうやって、はよ言うてや。
「……やっぱ、ガキじゃん」
「……っるさいわ……っ」
声が詰まってもーて、うまく言い返せへん。
「……ま、今回だけな。思う存分、泣いとけ」
こんな姿、ななちゃんには見せれんなあ。
男らしくない。紳士でもない。
ポロポロ涙をこぼす俺は、悔しいけどこの男の前だけにしとかな。
今日だけに、しとかな。
「……へっ、ホンマ、振り回されて……かなわんなあ」
この爆モテイケメンな俺が──あんな地味女に泣かされるなんて。
「かわいいとこ、あんじゃん」
そう言ってグリグリと俺の頭を撫で回した橘は、悔しいくらいカッコええ。
──晴!
はよ、ななちゃんに会いたいな。
名前を呼んでもらって、へにゃっと笑った彼女を強く抱きしめたい。大好きな香りを吸い込んで、幸せを噛み締めて。
画面越しやなくて、酔った勢いでもなくて──絶対いつか「だいすき」って直接言わせたる。
けど、その前に──はよ帰って、「大好きやで、ななちゃん!」って言おう。そしたら顔を真っ赤にして、照れるんやろな。
ああ、想像したら、脳みそ溶けてまいそうや。
「ありがとう、ございました」
ガタッと立ち上がって、頭を下げたら意表を突かれたようにポカンとする橘。
アンタは俺の最大のライバルやと、勝手に思ってるけど。
「……アンタ、最高にええ男やな」
そう言うととまたいつもみたいに呆れたように笑って
「……生意気」
俺を追い払うように手をシッシッと動かした。
そんな橘にニヤリと笑うと、もう一度「さんきゅー」と礼を言って、背を向けた。
BARから外へ出て、歩く度に突き刺さる視線。すれ違う度に振り返る女。もう慣れたモンやけど、今日はその嫌悪感も吹き飛ばしてくれる。
「あー、好きやなあ」
デカすぎる独り言は思ったより辺りに響いて、近くにおった女たちが顔を真っ赤にしとった。
はよ、会いたい。
誰よりも好きで、好きで。思い浮かべるだけで心臓がギュンって潰されるような破壊力を持ったあの子がおる……幸せの詰まった、あの家に帰ろう。
俺はちょっとだけ歩みを早めて、緩む頬を隠すことなく──夜の心地よい空気の中、大きく息を吸い込んだ。
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