第36話
救助され、すぐに病院で診てもらった私は晴に手を引かれて帰路につく。
私は擦り傷や打撲程度だったからすぐに帰してもらえたし、橘くんは検査のために入院したけど怪我はそこまで深刻ではないそうで、ホッと息をついた。
診察中も今も、私から片時も離れようとしない晴。言葉数も少ない。まるで触れていないといけないと言わんばかりに、ピッタリとくっついている。もちろん、その大きな手を絡めて。
帰宅してドロドロに汚れていた私はすぐにシャワーをして着替える。その間も晴は一緒に入ってこようとしていたから止めるのに必死だった。しぶしぶ浴室のドアにもたれて待機してもらい、シャワーを終えるとまた私の後ろをトコトコついてくる。
ソファに脱力したように座り込むと、病院からほとんど喋らなかった晴が口を開いた。
「──ななちゃん」
掠れた声が、切実そうに私を呼ぶ。隣に座った晴がこちらを見つめていた。
「もっかいだけ、抱きしめてもええ……?」
……珍しい。いつも強引にハグするくせに。
捨てられた子犬のような目で、そんなお願いされたら……断れるわけがない。
「……いいけど」
恥を捨て、若干上から目線で許可してしまったけど。晴はあからさまにホッとした顔になって、震える手で優しく私の体を捕らえた。
「……怖かった……」
首筋に顔を埋めて、すり寄ってくる。時折、その唇が肌に触れた。
「ななちゃんがおらん世界を想像したら、真っ暗な中で1人取り残されたような……そんな気分やった。……怖くてたまらん。頼むから、置いていかんといて……」
「……うん」
本当に本当に私のことを大事に思ってくれているんだ。晴にとって、私はそんなにも大きくて大切な存在なんだね。
「……確かめたいねん。ななちゃんが消えんように捕まえときたい」
「……うん」
今までだって、本気にしてなかったわけじゃない。それでも、次から次へと溢れ出す愛情が心に染みていく。晴がこの世界にいなかったら。晴と同じことを考えて共感してみようとするけど、彼の温もりと香りに包まれている今、できるわけもなくて考えるのをやめた。
「よかった……ホンマに、ななちゃんが生きとって、よかった……っ」
晴、泣いてるの……?そう問いかけようとして、言葉が出なかった。喉に言葉がはりついて、うまく喋れない。ああ、私も泣きそうだ。
「好きや、好き。ホンマにどうしようもないねん。好きすぎて」
「ごめんね」なんて言えない。「付き合わないよ」なんて言えないよ。
きっとこの先、私をこんなにも愛して、必要としてくれる人なんていないって分かるから。
ゴチャゴチャと考えるのはやめにしよう。橘くんの言う通りだ。
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