第48話 お遊びはここまでだ(2)

 すでに、ピンクスライムドラゴンも消えた。

 渾身の力でパーティ全体に蓄積されたダメージを代わりにその身で受けたのだ。

 当然と言えば当然か。

 だがそのおかげで、おそらく、4人の女の子は無事だろう……

 いや、無事であってくれ……

 頼む……


 騎士養成学校でアリエーヌの話を聞いた時、俺は単なるお遊びだと思っていた。

 お嬢様たちの魔王討伐? 一体、なんの冗談だ……

 おそらく学校近くに出没するモンスターをビシビシ叩いて、悦に入る冒険ごっこ。

 学校の生徒たちの誰しもがそう思っていたに違いない。

 俺自身もそうだ。

 だが、アリエーヌの目は違った。

 アイツの目は、弱き人々を守ろうと懸命だった。

 物陰でおびえる国民たちに日の光を与えようと必死だった。

 弱いくせに、真っ先に剣を振るって突っ込んだ。

 ありえねぇ……

 魔法もロクに使えないのに、仲間の傷に心を砕きやがる。

 ありえねぇ……

 姫様は黙って、椅子に座っていればいいんだよ……

 お前が何もしなくても、ばあやをはじめ取り巻きたちが全てこなしてくれる。

 お前が、がんばる必要はないんだ……

 お前が……

 だが、お前は突っ走る。

 いつも一人で突っ走る。

 危なっかしくて見てられない……

 だから、ついつい俺もそれに答えた……

 朱雀の力で、瞬時にアリエーヌの前へと躍り出る。

 玄武の力で盾となり、白虎の力でモンスターを切り裂く。

 青龍の力で、傷ついた仲間を癒してしまい。

 だから、今まではピンクスライムの力は使わなくてすんでいた。

 それで済むと思っていた。

 俺が、浅はかだった……

 バカだった……

 アリエーヌが、本当に魔王にたどり着くとは思ってもなかった。

 いや、たどり着いたとしても、その圧倒的な力を目の前にしたら逃げ帰ると思っていた。

 しかし、現実はこれだ……

 アイツの願いがそれだけ強かったという事か……

 俺はアイツの事を見誤っていた……

 確固たる信念……

 それをバカにするかのように軽く見ていた……

 バカは俺のほうか……

 今さらながら、笑ってしまう……


 だが、お遊びはここまでだ……


 これから先は、マジでシャレにならねぇ……

 冗談抜きで、あの四人には、ご退場を願おう……

 後は俺が押さえこむ……

 アイツらが逃げ切る時間ぐらいは、何とか作れるだろう……


「マジュインジャーリシジョン!」

 俺の叫び声とともに指をはじく。

 地面に倒れる、四人の女の子の体が光に包まれた。

 その光が消えるとともに、傍らに四匹の魔獣。

 朱雀、白虎、青龍、玄武である。

 俺は、4匹の魔獣たちに命じた。

「今すぐ、そいつらを連れて、ここから離れろ! そして、そいつらを責任もって守り抜け! それが俺の最後の命令だ!」

 四匹は悲痛な叫び声をあげる。

 自分たちも共に戦う!

 死ぬときは一緒と誓いあった仲間じゃないか!

 自分だけ死ぬなんて、なんでそんなこと言うんだよ!

 そんな、絶望と信じていたものに裏切られたような喪失感が感じられる叫び声だった。

 だが、俺は、再度命じる。

「お前たちしかいないんだ……アリエーヌたちを守れるのは……頼む……」

 死なせない……

 誰一人として死なせない……

 アイツらの笑顔を決して消したりするものか……

 アイツらはこれから笑って過ごすんだ。

 それは、ささやかな未来かもしれない。

 それは、退屈な未来かもしれない。

 だが、アイツらの幸せな未来!

 ……決して! 失わせるものか!


 そんな俺の心を感じ取ってくれたのだろうか、魔獣たちは、静かに女の子たちを抱き上げた。


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