第20話 今日から俺はマッケンテンナ(7)

 ドグスは再び俺のほうに振り向くと、その巨体で見下した。

 さらに先ほどよりも一層黒い影がのしかかかる。

 ひっぃぃいっぃ!

「あんた! あんたが今日から【マーカス=マッケンテンナ】だよ! いいかい!」

 ……はい?

 …………

 俺の記憶が確かなら、マーカスというのは、この石を投げつけているクソガキの事ではなかったでしょうか?


 うん?

 もしかして、同名とか?

 マーカスが二人?

 でも、このクソガキ、どう見てもマーカス=マッケンテンナだよね。

 だって、目の前のおばはんに「ママ! ママ!」ってサルみたいにしがみついとるがな……


 というか、このクソガキも【マーカス=マッケンテンナ】?

 俺も【マーカス=マッケンテンナ】?

 一体これはどういうことですか?


 というか、今日から俺が、マーカス=マッケンテンナぁぁぁぁぁぁ?


 なんでやねん!

 なんでやねん!

 なんでやねん!


 俺にはヒーロ=プーアという名前があるねん!

 どういうこと?

 どういうこと?


 俺には全く理解ができなかったため、助けを求めるかのように母に目をやった。

 そこには手を合わせて喜ぶ母の姿。

「よかったわね。マーカス!」

 って、アンタ……すでに、俺のことをマーカス呼ばわり。

 本当の俺はどこに行ったの。

 ヒイロは一体どうなるの!


 もう完全に思考停止して、きょとんとデブのおばはんを見つめるだけの俺。

 なんか耳の奥底で悲しい歌が聞こえてくるようだった。

 ドナドナドナドナ~にばしゃがゆれる~


 その夜、泣きながら荷物をまとめる俺に、母が優しく語りかけてきた。

「ヒイロ、これから一人になるけど、がんばってね。あなたならきっとできるわ! だって、お父さんとお母さんの子供だもん!」

 何ができるわやねん!

 このクソばばぁ!


 そんな母はため息をつくと、ゆっくりと話はじめた。

 しかし、泣きべそかきながら聞いていた俺の耳には、ほとんど話が入ってこなかった。


 まぁ要約するとだな……だいたいこんな感じだった。


 どうやら7歳というのは学校の初等部に入学する年らしいのだ。

 そして、その学校の中でも超エリートの学校がキサラ王国王立騎士養成学校なのだそうだ。

 そして、この騎士養成学校初等部に俺がマーカスの代わりに入学するそうだ。


 はいぃ?

 なんで?


 というのも、マーカスというクソガキは、とんでもないアホなのだそうだ。

 かといってその母親のドグスは、マーカスをスパルタで鍛え上げる気はさらさらない。

 そんな可哀そうなことをしなくても、大方のことは金を積めば何とかなるからだ。

 そう、マッケンテンナ家は金持ち。

 いや、金持ちという言葉すら生ぬるいと思えるほどの大金持ち。

 このキサラ王国で一二を争う豪商マッケンテンナ商会なのである。

 金なら唸るほど持っている。

 札束でしばいても首を縦に振らないような奴がいれば、トランクケースに詰めた札束で、その頭を叩きつけて無理やりにでもうなずかせるぐらいの金持ちなのだ。

 だがしかし、学歴はどうしようもなかった。

 裏口入学……確かに金を積めば入学することはできるだろうね。

 だが、問題はそこからなのだよ。

 騎士養成学校を卒業して騎士の身分となるには、実際に学校で勉強し優秀な成績を修めて卒業しないといけないのだ。

 これは、さすがにアホのマーカスでは困難だ。というより、不可能だ。

 金を積んだところで、どうなるというものではない。

 ならば、買収するか!

 すべての視線、そう学校の先生や生徒すべて買収する、それどころか、卒業後の王国軍の採用官、将校に至るまで買収する。

 そんな非現実的なことはできはしない。

 このキサラ王国の国王さまだって不可能なお話だ。


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