第4話

「いえね、そうでもしないと収まらないんですよ。このような蛮行がまかり通るような国に、我々は命を懸けようとは思えませんからね。忠誠を尽くすことなんて到底できませんよ。だがこれが、殿下お一人の仕出かしたことなんだとすれば、あなたを排除するだけで済むんです。乱心した王子を廃嫡すればいいんですから。お分かりですかな?」


 プレスコット辺境伯はロベルトに言い聞かせるような口調でそう言った。言われた本人は怒りで身を震わせながら、


「き、貴様ぁ! この俺様を排除するだとぉ! 廃嫡するだとぉ! 狂人呼ばわりするだけで飽き足らず、この俺様に対する数々の無礼! 到底看過できぬ! 手討ちにしてくれる! そこに直れ!」


「ほう、私を殺すと仰る? それは我が辺境伯軍を敵に回すと受け取ってもよろしいですかな?」


 いけない! プレスコット辺境伯軍を敵に回すなどあってはならない! 王国軍にも匹敵する程の規模を持つ軍隊だ。オマケに精鋭揃い。隣国といつも鍔迫り合いしているのは伊達じゃない。


 内戦が勃発する。そして間違いなく国が滅ぶ。国土は荒れ民が路頭に迷う。そうさせてはならない。このバカ王子を殴ってでも止めないと! 


 ルージュはロベルトに突進しようとした...が、一歩遅かった...


「貴様らなんぞ敵に回したって痛くも痒くもないわっ! 辺境というくらいだから、どこか田舎の腰抜けどもなんだろう! そんなヤツら俺様自ら滅ぼしてくれるわぁ!」


 この国は終わった...ルージュは膝から崩れ落ちてしまった...もっと早くこのバカを殴り殺しておくべきだった...何もかもが遅過ぎた...


「殿下、私からも発言してよろしいですか?」


「ええい! 次から次へとなんなんだ一体!? 今忙しい! 後にしろ!」


「すぐ済みますから」


「全く! 寛大な俺様に感謝しろよ! 貴様は誰なんだ!?」


「ありがとうございます。私は魔道騎士団の団長を務めております、マクダネル伯爵と申します」


「フンッ! 伯爵風情が何用だ!?」


 またもや自分の所の魔道騎士団長の顔すら知らなかったのかと、ルージュは虚ろな表情を浮かべながらそう思っていた。もはや突っ込む気にもならない...


「我々魔道騎士団は、全員が本日付けを持って除隊させて頂きます」 


「そうなのか? 良く分からんが、辞めたいなら勝手にしろ」


「ありがたき幸せ。では失礼します」


 そう言ってマクダネル伯爵は、転移の魔法を使って消えてしまった。このバカは何も知らないんだろうな...我が国の魔道騎士団が他国からどれほど恐れられているのかを...


 そんな優秀な人材を引き留めようともしないなんて...どうでもいいか...どうせこの国はもうおしまいなんだから...


 ルージュは既に諦観の境地だった...


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