第3話

「なっ!?」


 断られるとは微塵も思ってなかったロベルトは絶句した。その後、我に返って激昂した。


「き、貴様ぁ! 俺様の命令が聞けんとぬかすか!」


「聞けませんな」


 キンバリー侯爵は平然としている。


「なぜだ!? 理由を言ってみろ!」


「簡単です。我々の指揮命令権は国王陛下にあります。あなたではない」


「だから! その父上が病床にあるのだと言っておろうが!」


「たとえ病床にあろうとも意識はあるのでしょう? 正常な判断は下せるのでしょう? 声を発することも出来るのでしょう? だとすれば、間違っても陛下がそんな判断を下すはずがない。どうせ陛下に何も言わずに独断で動いたんでしょう? 違いますか?」


 完全な正論である。それを聞いてロベルトは少し狼狽えた。だが、それを振り払うように虚勢を張る。


「た、例えそうだとしてもだ! 高貴な俺様が命令しているんだぞ!? 従うのが筋と言うものだろうが!」


「お話になりませんな。寝言は寝てから言って下さい」


 キンバリー侯爵は容赦ない。


「き、貴様ぁ! 不敬であるぞ!」


 ルージュは気が気ではなかった。キンバリー侯爵の方はちゃんと筋を通しているので問題はないのだが、言い方がキツイので耐性のないロベルトには堪えるだろう。このままだと破局する。なんとか取り成そうと考えていた時だった。


「殿下、私からもよろしいですかな?」


「今度はなんだ!? 誰だ貴様は!?」


「...プレスコット辺境伯閣下です...」


 ルージュは段々と腹が立って来た。隣国と国境線を接していて、国防の最前線を担う辺境伯家をどうして王族が知らずにいられるのか? 先程のキンバリー侯爵の時といい、王宮の教育係は何をしていたのだと小一時間ばかり問い詰めたい。オマケに...


「...辺境伯ってなんだ!? 偉いのか!?」 

 

「...し、知りましぇん...」


 おバカな発言を繰り返しているロベルトとマリアンヌの二人には、本気で殺意が湧いた。人がこんなに気を揉んでる時にコイツらは何を呑気に...絞め殺したろうか!? 辺境伯家は侯爵家と同等だと知らないのか!?


「ま、まぁいい! 寛大な俺様は発言を許可してやる! 申してみよ!」


「ハァッ...それではまず、此度の蛮行は殿下お一人が仕出かしたということで間違いないですかな?」


「なっ!? 言うに事欠いて蛮行だとぉ! 貴様ぁ! 誰に向かって言うておるか!」


 ロベルトは激昂しているが、プレスコット辺境伯は涼しい顔で、


「蛮行以外の何物でもないでしょうよ。それとも凶行ですかな? 公爵令嬢を無実の罪で処刑しようなど、常人では考えもつかないことですからな。気が狂ってるとしか思えませんな」


「き、貴様ぁ! この俺様を狂人呼ばわりするかぁ!」


 ロベルトはこれ以上ない程に激昂している。ルージュはプレスコット辺境伯のわざと挑発するような発言に嫌な予感しかしなかった。

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