シーカーゲーム
真夏の法則
プロローグ
――全てを思いのままにしたい。
「……え?」
綾瀬は眉を顰めた。
そこで初めて自分が真っ白な空間にいることを知った。
「ここはどこだよ」
――驚かないでください。ここは、そう、夢の中と同じようなものです。全てが空想で、この声質も言葉もあなた自身が作り出したもの。
透明で澄んだ声が耳にすっと入ってきた。
夢? 空想? 作り出した?
――そう、これは全部あなたの頭の中なのです。退屈な高校生活も、優しい幼馴染も、顔も知らない両親も……行方不明の彼女も全てはあなたの頭の中。
「……何でそんなこと知ってんだよ」
綾瀬は動揺した。
自分の考えや隠し事をあたかも知っているような口の利き方だ。
行方不明の彼女……なんでそれを知っているのか。
綾瀬は不快だった。
――だから言ったでしょう。これはあなたが作り出したと。わたしはあなたで、あなたはわたしなのです。
澄んだ声はそう言った。
綾瀬は足を立て、その場に立ってみる。
純白な空間にはモノの類は一切なく、そこに立つ自分こそが異物のように感じられた。
――ここは、言うなればわたしの棲む場所です。
少し歩いてみるが、壁の一つも見当たらない。
ただ、無が広がっている。
――そう、無。普通の人間にこんな場所はありません。
「へえ。お前が誰で、ここがどこかは知らないけど、くだらない演出はやめてはやく出してくれ」
綾瀬は空を睨んだ。
だが、そこには何もいない。
――くだらないなんて、そんなことはありません。
澄んだ声は言う。
――あなたは可能性に溢れています。そう、可能性に。
頭の中に無断で立ち入るその声は、流れるように清らかで、だからこそ冷たかった。
――可能性は無限です。この真っ白な空間のように、何色にも染まることができます。赤にも、青にも、どの色にも。あなたは生まれてくる以前から有りとあらゆる法則に従って特別を手にしたのです。
綾瀬はだんだんと意識を薄くしていった。
真っ白な床に仰向けになり、瞼が視界を狭めていく。
――あなたは特別です。可能性は無限です。
瞼の閉じた世界は真っ暗だった。
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