六
いつの間にか眠り込んでいたらしい。気が付くと、辺りはウスウスと明るさを取り戻しかけていた。そうして思い出したように横を見遣れば、共に砂に潜ったヤッコエイは既に其処には居なかった。
僕は一息置くと徐に砂の中から這出した。一抹の淋しさを懐きながら……またそれすら払い除けるように、身体中に付いた砂をサラサラと払い払い……再び広大無辺の海を当てもなくのろのろ泳ぎはじめた。
相変らずの殺風景のなか、暫く行くと先の方に何やら黒く迫るものが見えてきた。少しくぼーっと眺めていると、そのうちにそれが何だかオアシスか何かのように思われて、僕はいくらか泳ぎを速めて行った。黒い影がぐんぐん大きくなるにつれ、その正体もいよいよハッキリと認められてくる。
……海藻の森……。其処には数知れぬ海藻が、並び、重なり、ユラユラ
僕は高く高く伸びきったそれらをジロジロ見上げつつ、その懐へ悠然と潜行して行った……。
森の中は四方八方海藻が密生している為か、少々薄暗く感じた。しかしその
何処に出るともなく、視界を一パイに埋め尽くす暗緑の枝葉を搔分けてゆく。……すると、或る海藻の前に至った時、不意にその向うに何やら蠢く気配を感じて、僕は思わずピッタリ動きを止めた。
僕は向う側を見透かすように目の前の海藻を見た。すると声が洩れ聞こえて来た。それは気持好いような……苦しみに喘ぐような……どちらともつかぬ、そんな声であった。そうして同時に、奥の方で海藻が頻りに不自然な動きをするのが分った。
……この向うで何が起きているのかしらん……。
僕は真実を確かめるべく、慎重に、コワゴワと暗緑の幕を
七本の海藻を潜り抜けた先であった。その光景を前に、僕はただ啞然とした。其処に居たのは雌雄のサメであったが、それというのも、二匹はまさに営みの真最中だったのである。雄の方は雌の
……僕は何とも言えぬ申し訳なさと気まずさに苛まれながら目を逸らし、海藻の陰にゆっくりと後しざりをした。相手が此方に気付いていないのが幸いであった。
それからもうこの森に用は無いなとヘンに納得して、外を目指しヒッソリと海藻を搔分けてゆく。さて何処からドウ来たものか……ドウ行けば出られるのか……最早全く分らなくなっていたが、取り敢えず一つ方向を決めて真っ直ぐ進んでみることにした。
暫くして海藻の森から脱け出すことが出来た。……が、其処で僕は開放感と同時に、或る違和感を覚えずにはいられなかった。其処から先には海底が無かったのである。見慣れた砂底は海藻の森を以て
僕は眼をマン丸くして見下していたが、気が付くと頭を傾けて、その何も見えぬ深い深い蒼へ向け下降しかけていた。そうしていよいよ増して行く辺りの暗さ……静けさ……。
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