第1話 1人目のお客さん(1)
「せーんぱい!お客さん来てますー?」
「いーやまったく…来てないけど…」
あなたの恋の物語を上書きしてみませんかというコンセプトで始めたこの企画だったが全くといっていいほど依頼が来ない…
「先輩学内に知り合い少ないですしねぇ…というかうちの大学の文芸部の存在を知っている人がまずいないんですよー」
確かにこの後輩の言っていることは分かる。この文芸部部員は20人ほどいるがほとんどが幽霊部員と化していて部室に来るのは私とこの後輩くらいなものである。
また文芸部の部室の位置も悪すぎる…。講義の棟から約5分ほど歩いたところにある古びた文化系サークル棟(音楽系は除く)の2階の隅にあり、部員ですら最初どこにあるか分からないと思うほどだ。
「やっぱり文芸部自体を広めなきゃだめよねー、そうしないといけないのは分かってるんだけど…」
「頼める人がいないんですね?」
「う…痛いとこつくなぁ…そうだよ、もう大学2年だけど気軽に話せる友達いないもん…」
「先輩しゃべると面白いのになぁ…」
後輩はやれやれと頭を抱えて、
「そうだ、私の友達が好きな人いるらしいんですけど一緒に話聞きませんか?依頼ではなくなっちゃいますけど」
後輩の友達の恋の相談…依頼じゃないから物語を考えて書くことができるかは分からないけど単純に恋愛トークは好きだからなぁ…
「私がその子の力になれるかは分からないけどもしその子がいいって言うなら聞きたい!」
そう意気込んで言うと、
「先輩に適切な恋のアドバイスはまぁ期待してないですけど…。これから恋愛物書くならいろんな人の話聞いた方がいいのではと思ったんで。」
「ありがとうー!ほんとあんただけが頼りよ…うちの学校入ってくれてよかったー!」
後輩は少し呆れた顔で
「ほんとにそういうところですよ!だから先輩のことほっとけないんですよー!もうっ!歳上なんだからしっかりしてください?」
と言った。
このお礼はなんかご飯でも連れていかなきゃダメなやつだなと思っていると
「駅前においしいパフェがあるカフェがあるんです!ネタ提供したんだし奢ってくださいよー」
「仕方ないな、かわいいかわいい後輩に奢りますかー」
「あ、友達からOK来ましたー!次の活動日に部室に呼ぶんでいいですか?」
「うん、じゃあその前にいろいろその子のこと教えてもらわないとね」
「任せてくださいな!」
後輩の情報によると
その女の子は後輩と同じ文学部の1年生で入学してすぐに仲良くなったらしい。最近好きな人が出来たらしいが周りにはなかなか言えなくて、後輩になら言えると思って打ち明けたらしいとのこと。ただ好きになっていいのか悩んでいるから聞いてほしいとのことだった。
「んでさ、そのなかなか周りに言えない相手っていうのが気になるんだけど…」
「絶対そう言うと思ってました…でも私もまだ分からないんです、今度言うからって言われてて!」
「それ、私いていいやつなのかなぁ…」
「彼女には先輩は信用できる人って言ってあるんで平気です!」
「うわ…めちゃくちゃ心配!!」
まぁ…でもとりあえずその後輩の友達の話を聞いてみるか…なんだか最初からいい予感がしないのだけれど…
上書き恋愛 柴崎琴歌 @jam-choco
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