謎の種

平中なごん

一 謎の小包

 それは、突然にやって来た……。


 ある日の夕方、一人暮らしをしているアパートの部屋へ帰って郵便受けを覗いてみると、何やら封筒大の小包が入っていたのだ。


 送り主を見ると、どうやら中国のものらしい簡体字の会社名が記されているが、その社名にはまったくもって見憶えがない。


 まあ、最近はいろいろとネットで買い物をしているし、その内の何かかな? と思いつつ、小首を傾げんがら開封してみると、中に入っていたのは植物の種らしきものだった。


 そう……昨今、巷で話題になった、注文もしてないのに突然、送りつけられてくるという、いわゆる〝謎の種〟というやつだ。


 ただ、世間で話題のものと少し違うところといえば、僕の所に届いたのはたくさんの小さな種ではなく、入っていたのはクルミほどもある大きな種が一つだけだったことぐらいだろうか。


 詐欺か? 悪戯か? その目的についてはいろいろと言われているが、一番有力な説としては、中国国内のネット販売業者がそうして偽の販売実績を作り、自作自演で自社の高評価レビューを付けるためなのだという話だ。


 まあ、それが事実だとしたら、この種自体は人畜無害なただの植物の種ということになるが、我が国の関係当局は「絶対に撒いたり育てたりしないでください」と注意喚起を促している。


 ……だが、僕はふと、いったいこの種からどんな植物が育つのだろうか? という素朴な疑問と好奇心についつい捕らわれてしまった。


 人間の好奇心というものは非常に厄介だ。一度、捕らわれてしまうと、それを知るまでは気になって気になって仕方がなくなってしまう。


 特に僕の場合、小さい頃より好奇心の強い方だったので、この種の正体をどうしても突き止めたくなってしまったのである。


 ま、十中八九、中国企業の自作自演説は当たっているだろうし、特に大それたことになる心配もないだろう。


 万が一、何か法に触れる類の――煙を吸うと気持ちよくなるような植物が育ってしまったとしても、その時は警察に届け出て事情を正直に話せば、僕自身が罪に問われることはない……と思う。たぶん。


 ともかくも、抗い難い好奇心に突き動かされ、僕はその種をこっそり育ててみることにした。

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