第40話 ガルムラルク軍事国家

 僕はノルデン帝国もとい、クラトレス帝国を開放し一時の平和を得た。

 しかしそれも本当に束の間で、次は僕のようやく完成した家を破壊するとともに元ガルムラルク王国精鋭部隊と名乗る真っ赤な鎧を纏った兵士が現れた。

 兵士はどうやらシュトラール王国から雇われた殺し屋のようなことをしていながら趣味でゲリラとして活動していたが、雇い金が破格なせいで気楽にとはやっていられず、僕を本気で殺しに来たという。


 ガルムラルク精鋭部隊が掛けられた額とは1,000万オロで、彼らにとっては犯罪集団から足を洗っても良い額らしい。

 そこで僕は一つ思いついた。この人達を買収してしまおうと。丁度僕は、クラトレス帝国の開放でグレイブから1億オロの報酬を貰っており、彼らを買収する金は十分に持っていた。

 と言う訳で僕は彼らを新たな仲間に引き入れるとして5,000万オロで買収した。


「驚いたかい? これだけあれば犯罪から足を洗う以上のことが出来るんじゃないかな?」


「ははは......マジかよ。それで、これは俺らを買収するってことでいいんだよな? 俺らをどうするつもりだ?」


「どうするって? そんなこと決まっているだろう。僕がまた執政官のヴァンと話を付けてくるから、今すぐ家を直してくれないかな?」


「え、あぁ……すまん。分かった……」


 こうして僕は強そうな精鋭部隊を仲間に引き入れ早速仕事と言って僕の家の修理を頼んだ。買収したことで所持金が5,200万オロまで減ってしまったが、家の修理費と家具の買い直しには十分なので、家の修理が完了するのと合わせるようにして、雑貨屋で予約注文をしておいた。

 そうしてまたしても減った所持金は4,750万オロ。


 とは言ってもこれだけでも普通の生活には充分過ぎるお金だ。次は何を目標にしようかな?

 僕はもう勇者とは無関係の人間なので、当然魔王討伐などには一切興味が無い。ただそう言ってしまうと本当にやりたいことがなくなってしまう。


「うーん。そういえばまだ王国と帝国しか行き来したこと無いんだっけ……? 旅行でも行こうかな?」


 もう家を建てて楽な生活を送ることは達成した。でも、気づけば僕は今までシュトラール王国とクラトレス帝国しか行ったことがない。もっと行動範囲を広げれば僕の知らない世界が待っている。

 という訳で僕は帝国を離れて別の国へと行くことを決めた。


 とりあえず第一に目指すべき場所は、かつてのエンシェントゴーレム討伐にお世話になったガレオン魔導都市だ。

 手紙と話では聞いていたけど、実際に行ったことが一度もない。それにエンシェントゴーレム討伐の際は依頼人の研究員が大喜びしていたからきっと歓迎してくれるはずだ。


「よし。そうと決まればグレイブに挨拶でもしてこようかな」


◆◇◆◇◆◇


 帝国、皇帝の間。

 僕は無言で出立するのも悪いかと、グレイブに挨拶だけしに来た。


「やぁグレイブ。元気にやってるかい?」


 と言ったところで部下の兵士に怒鳴られた。流石は皇帝様だ。もうこんなにも信頼を勝ち取っているなんて。


「ッ!? 皇帝に無礼だぞ! 頭を下げろぉ!」


「下がれ。私の友人だ」


「はっ! 申し訳ありません……」


「あれから一ヶ月だな。あぁ、やっているよ。まだ300年前の威厳を取り戻しているかは分からないが、私の政策もかなり信頼が高くてね。ノルデンがやっていた支配なんかよりみんな顔が明るくて私も嬉しいよ」


「それは良かった。さて僕がここに来たのはね、僕はこれからちょっとした旅行に行こうと思うんだ。それで挨拶をと」


「ほう? 私にわざわざ挨拶しにくるということは暫くは帰ってこないと取ってもいいのかな?」


「まぁ、そんなところだね。いつまでもあの家でぐーたらしてても良いんだけど、それだと本当にぐーたらしたままになってしまうと思ってさ。とりあえず目的地はガレオン魔導都市だ。丁度強そうな仲間も引き入れたんだ。

 確か、ガルムラルクだったかな?」


 僕がその仲間の名を言うと、グレイブの表情が固まった。あれ? もしかしてちょっとやばい奴らなのか?


「……今、ガルムラルクと言ったか?」


「う、うん……なんか不味い?」


「あぁ、ハクが一部の人間を引き入れたのならまだマシだが、ガルムラルクとは300年前に存在した軍事国家だ。私の記憶の中で言えばだけどね。

 まさか既に滅んだと思っていたが、生き残りがいたなんて……。


 どんな奴らだといえば……私たちが倒したエンシェントゴーレムがいるだろう? あの遺跡に奥にあった兜、胴鎧、手甲、脚鎧の四つの装備が分けて置かれていた意味深な空間。あれこそがガルムラルクが作った場所なんだ。アレを見た時は私も不思議そうにしていたけれど、その名を聞いて思い出したよ」


「へー、確か王国の精鋭部隊とか言ってたけど……国じゃあ無いの?」


「アレは国とは呼べない。戦闘民族だ。当時の私はまだ幼少期で次期皇帝になるための教育中だったが、その際に何度もガルムラルクの話を聞いたんだ。

 立場としては中立なんだけど、その他の国全てに喧嘩を売っていてね。しかも全ての喧嘩において圧倒的な軍事力を持って勝利を収めていたとも聞く。

 どうしてかクラトレス帝国は一度も攻撃は受けていないんだけどね。毎度凡ゆる国から襲撃の報告があった時は流石に怖かったよ。

 ハクが引き入れたのは王国と言ってたんだよね? ガルムラルクは国では無いのに何故王国と言われているのかは、ガルムラルクの中心となるリーダー的存在が王として責務を全うしていたからなんだ。

 基本国と正式に呼ぶには主権・領土・国民が必要だが、主権なんてほぼ個人が持っていてバラバラだったし、領土なんてとりあえず奪えば良いとかで、国民というよりは犯罪者の集まりだったんだ。だから他はあえてガルムラルクを国家と呼んでいるんだ」


「ほへー、それで警戒はしたほうが良いのかな? 僕はその人たちを金で買収したんだけど……」


「そうだな。一応警戒はしたほうが良いかも。例え買収したとしても、それは精鋭部隊なんだろう? つまりは精鋭部隊では無い普通の生き残りも他にいるかもしれない……。

 それにもしかしたらだけど、『王』も何処かに潜んでいるかも……」


「なるほどね。分かった。挨拶しとしてよかったよ。じゃあ僕は行ってくるね」


「あぁ、いってらっしゃい」

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