第18話 先代皇帝

 「貴様、父上の死が急病によるものではないとでも言うのか? 私は父上を確かにこの目で看取ったのだ。安らかに眠るその姿をな。確かにあの日は急だった。しかし……」


「ちげぇよ。アレは、先代皇帝の息子。現帝国名にもなっているノルデン王の計画的かつ完璧な暗殺なんだよ。

 計画と言っても、理由も動機も本当に単純な物なんだがな。

 理由は簡単。『先代皇帝のあらゆる政策が気に入らなかった』動機も超単純。『先代皇帝が息子の考えを汲み取ってくれなかった』まるで子供みてぇな理由だよなぁ?」


 で、今の帝国の現状ってことかな。恐らくこの人が先代皇帝をどうしても蘇らせたい理由っていうのは、理不尽にも殺された皇帝に暴虐のどん底まで落ちた現皇帝を更生させて欲しいといったところでしょ。

 いやぁ、きっといい国だったんだろうなぁ。でも、やっぱりやり方ってものがあるよね。此処の大墓地を全部ぶっ壊すなんて許される行為じゃあ無い。


「くっ……もしそれが本当だとして、なぜそんなにお前は詳しくそれを知っているのだ! 父上が亡くなったのは、もう300年前にもなる。父上の関係者は既に全員死んでいる筈……だ?」


 エリナさんの言葉が途中で止まる。何かおかしなことでもあったのかな?


「おいおい、まさか現皇帝が余りにも酷過ぎて時間感覚がおかしくなったのか? お前は今こう思ってるだろ。"先代"皇帝が亡くなってから300年以上経過しているのに、なぜその次代に当たる現皇帝が生きているのかってなぁ。

 そもそもてめぇは息子と会ったことは一度もないんじゃ無いか? だって先代皇帝が生きている間はまだ息子は生まれて無えからなぁ。そういうお前は確か300年も余裕に生きていられる種族。エルフのハーフだったか」


 ここでファンタジーあるあるのエルフ来たねぇ……。どうりでエリナさんはこんなにも美しい訳だ。エルフは美男美女が多いって良くある設定だからなぁ。


「その真相とは、俺の得意分野でもある呪の魔式にある。それはとても高度の魔式でな。俺でさえも発動は出来ねえ。で、先代皇帝から息子が生まれ、物心が付くまでの間、生きるか死ぬかギリギリのラインで延命させていたんだよ。まぁ? 娘の前ではピンピンしていたんだろうけど。その時は既にほぼ寝たきりだったんじゃないか?

 そして、先代皇帝をぶっ殺すタイミングを合わせる為に息子と術者自身にも魔式を使っておき、先代皇帝が死んだ瞬間に術者は息子を残して自分の魔式で自殺。いやあ、えぐいねぇ」


 ってことは結局は先代皇帝が殺された理由は不明ってことかい? さらに、息子にその魔式を残したままなんだろう? ってことは……現在少なくとも生まれてから100年以上経過している現皇帝は、不死身状態。300年経っても、のうのうと生きているのか。


 要約すればこうなる。今から300年前に先代皇帝と王妃の間から息子が産まれる。いや、そんな話は無かったけど皇帝の息子だからきっと王妃から産まれたんだろう。

 そこで生殺与奪の魔式を一人の術士が先代皇帝とその息子、自分自身に掛ける。恐らく皇帝と息子の近くにいた人。つまり従者といったところだろう。

 そして産まれた息子が物心付いた瞬間に術士は息子を残して先代皇帝を殺してから自殺。ここで恐らくエリナさんは父である先代皇帝の死を確認。


 そこから魔式を掛けられたままの息子は現在に至るまで300年間生き続けた。

 恐らく、その魔式の発動が現皇帝の死を完全に掴んでいるんだろう。よって衰弱死することは無くなる。

 エリナさんも貴族だと言っていた。皇帝の座を引き継いだ現皇帝に今の今まで仕えていたのだろう。

 エリナさんはエルフのハーフだと言っていた。だからこそ300年という年月があっという間に感じ、息子が300年間生きていることに疑問を抱かなかった。


 そして、現在やっと良く考えてみれば先代皇帝が死んでから300年息子が生きていることに疑問を持ち、先代皇帝の死は息子が関係していたとと、この男から知る。


「そんな馬鹿な……私は今の今まで気付かなかった。ノルデン皇帝の300年を疑わなかったというのか……?」


「んで俺はこれをどこで知ったかと言えば、現皇帝の口から直々に教えて貰ったよ。別に教えてくれとも頼んで無え。まるで突然思い出話みたいに皇帝様が吐いてくださった。

 俺は決意したね。先代皇帝までなら本当に良い帝国だってことは良く聞かされていたから、この大墓地に眠る先代皇帝を蘇らせれば、きっと元の帝国に戻れるってな。

 だからさぁ、見逃してくれねぇかなぁ?」


「し、しかし……」


 そこで僕はやっと口を挟む。エリナさんにちょっと聞きたい事があるからね。


「ねぇエリナさん。そういえばどうして今回の報酬である鎮魂のお守りが欲しかったんだ? これだけの話を聞かされれば『鎮魂』って言うくらいだからねえ。なにか関係があるのかな?」


「そうだ……! 父上が亡くなり300年経った今になって最近私の元に霊体が夜な夜な現れるのだ。その全部が先代皇帝に仕えていた者達の霊で、毎晩毎晩私の耳元で『取り戻せ』って囁くから……だから出来るならお守りの力で鎮めることは出来ないかと」


「ビンゴじゃねぇか! 霊達も蘇ることを望んでいる。もうこれは実行するしか無えよなぁ?」


 あぁ、なんてご都合展開なんだろう。


「いやしかし、その中には肝心の父上の霊は居なかった」


「だーかーら、その父上がこの墓に眠ってるんだろう?」


「んーそれはそうかもしれないど、他に方法は無いのかな?」


「部外者は黙ってろ! 俺はやっと見つけたんだよこの方法を! 他の方法なんて探してたら不死身の馬鹿息子は更に帝国を酷い状態にさせるかも知れねぇんだぞ!」


 んーどうしたらいいんだ。この男を捕まれば大きな報酬が貰えるし、逃せば本当にこの大墓地をぶっ壊すつもりだ。先代皇帝なんて僕の生きる中じゃ全く関係ないことだしなぁ……。


「分かった。やってくれ。これは父上の仇だ。それで父上を魂から蘇らせることが出来るのなら、大きな犠牲を払ってもやるべきだ」


 エリナさぁああぁぁん!? この人正気? まぁ、本当にこの大墓地とも僕は関係無いし……。いやもうこうなったら……。


「あのー、ごめん。それやられるとさ僕の冒険者としての報酬がなくなるから、先代皇帝蘇ったら僕の報酬払ってくれないかな?」


「良いだろう。先代皇帝が蘇れば、てめぇはこの先滅ぶ帝国ではなく、先代皇帝が築く新たな帝国を選んだ者として、報酬を渡すことを皇帝に通してやる」


「え、本当に?」


「おうよ、その選択の目撃者はこの俺と、娘であるエリナになるからな。これ以上に十分な証人は居ねえだろ」


 よし、交渉成立だ。大墓地の管理人さんには悪いけど、僕はこっちを選ぶよ。

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