第10話 報酬
僕はお金稼ぎの為に帝国周辺で大量発生していた狼の群れを撃破する依頼を受け、最終的に大きな縄張りのボスまで倒した。
体格は高さ十メートル、体長十五メートル以上。超巨大狼だ。
流石にこの大きさ。僕の持つ袋にも入らないので、冒険者ギルドにいた解体師を此処へ連れてきた。
「兄ちゃん……これホントにやったのか……?」
「あぁ、僕がやった。凄いだろう?」
「すげぇってもんじゃねぇ。まるで勇者様みてぇだなおい」
「ふーん勇者様、ねぇ」
僕は別に勇者と言われても悪い気はしない。でも僕はもう勇者では無いんだ。怒ったり悪い気分にはなったりしないが、それでもやっぱりあの時の記憶が掘り返される。
「さぁ、早く解体してくれ! 報酬は山分けだよ」
「そうだった! みんなァ! 全力で解体するぞおお!」
そうして解体を初めて一時間。狼の半分の解体が終わった所で解体師達を休憩させる。
にしても馬鹿でかい狼だなぁ。何食ったらこんなにでかくなるだろうか。
さっき俺のことを勇者様のようだとか言っていた解体師のおっさん。あれが単なる褒め言葉なら別に良いんだけど、グレートウルフを一騎で倒すことが勇者に匹敵するんだとしたらまずい事したかなぁ……なんて。
たしか勇者は全部で僕を含めて四十人。それが多すぎるから五人ずつに分けて八グループにしたんだっけ?
それで勇者は決まって王様から魔王を倒すことを命じられて、それぞれの目的地を大体で指定されているとしたら……僕はまだノルデン帝国に到着して一週間程度だけど、未だに勇者一行の話は聞いたことがないんだよねぇ。
だからこそ勇者に匹敵する力を持ってグレートウルフを倒したという情報が公になれば、国外追放で死んだと思われていた。追放したはずの勇者がのこのこと生きていると知れ渡れば、恐らく王国は僕をまた殺しにくるのでは?
そうなったら嫌だなぁ……。周りにばらさない用にギルドに申し出ておこう。
それからさらに一時間。漸く解体作業が終わった。解体師は十五人もいたのに、全て解体し終えるのに二時間かかるなんて少し予想外だよ。まぁ、長くても短くても何も悪いことはないんだけどね。
「よおし、みんなお疲れ様〜! さぁ、報酬の精算へと行こうか」
僕は細かく解体された狼の肉や革を解体師十五人と、ギルド関係者とで袋詰めにしてノルデン帝国のギルドへ戻って行った。
◆◇◆◇帝国ギルド内◆◇◆◇
ギルドに戻るとすぐさまギルド受付の女性が今までの狼討伐数とグレートウルフ討伐の精算をしてくれる。
「ハクさんお疲れ様です。ギルドとしては狼の縄張りを少しでも減らす為にという目的で、難易度Eに設定していたんですけどね。まさかグレートウルフの討伐までこなしてしまうとは想定外でした。
それでは今回の報酬は狼の縄張り制圧に伴う、狼の討伐数。歩合制ですので、精算しますね」
狼の一つの縄張りに何匹の狼がいるまでは分からないので、縄張り一つを丸ごと制圧した場合、三十匹の討伐と統一されるようだ。
ただし今回の依頼に関しては一匹当たりの報酬が無く、成功報酬で1万オロ。リーダー又はボスの討伐で5万オロの為、狼の討伐数報酬はギルド公式の精算方法となり、一匹に当たる報酬は1,000オロ。
そうして結果僕は計三十一の縄張りを制圧したので31×30で九三〇匹を討伐したらしい。え、そんなに狩ったんだ……。
そこからボスとリーダーを除くことで、正確には八九九匹。これで討伐報酬は、899×1,000で89万9000オロとなった。
さっすが! 百万近いとは思ってたけど!
更に、依頼ではリーダーとボス討伐で5万オロなので、5×31で155万オロ。
これで僕の合計報酬は204万オロ! 素晴らしい……。想定を百万超えるなんて……。
そして更に更に。今回の依頼者であるノルデン帝国の政府が僕がグレートウルフ討伐に功を成したことに、感銘を受けてプラス10万オロを贈呈だって!
はは……ははは……。僕はただこの依頼に関しては小遣い稼ぎのつもりだったんだけどなぁ。まさかここまでになるとは……。
「ハクさん。計算が終わりました。報酬は214万オロです! お受け取り下さい」
「うん。ありがとう」
僕はギッチギチにコインが詰まった金袋を受け取った。カウンターから受け取るも手からぶら下げようとするとあまりの重さにバランスを崩しそうになった。
さて、金額で喜んでいる所で悪いが、僕は解体師の人達に報酬は山分けすると約束してしまったんだ。僕の入手額は幾らになるかな?
全部で214万オロではあるけど、その内10万は政府から直々に贈呈してくれた物だ。流石にこれだけは取っておこう。
そして山分けするのは204万オロ。僕は僕の判断で7:3に分けると決めていたから、計算すると解体師さんが受け取る総額は、61万2,000オロ。そして僕が受け取る金額は、政府のも合わせて、152万8,000オロとなった。まぁ、妥当な金額だね。
「解体師さん。はいこれ報酬の山分けだよ」
「よっしゃあ! さてさて、これを全部均等に分けると、一人当たり4万800オロだと……? マジかよ! 依頼の基本報酬より安いじゃねぇか! なぁ兄ちゃん。普段解体業やっているだけでもかなり給料が安いんだよ。もうちょっと分けてくれねえか?」
「ごめん。ちょっとこれ以上は……そうだ! なら政府の人に掛け合ってみるよ。僕は今回のグレートウルフ討伐で特別に10万オロくれたんだ。解体師さんはグレートウルフと千匹近い狼を解体してくれたんだ。少しは報酬を増やしてくれるかもよ?」
ファンタジー小説の中の政府や王族、貴族とかいうと大体悪いイメージが付きそうだが、この世界の政府は此処のノルデン帝国の皇帝より話の分かる人達だと僕は思う。
きっと話せば分かってくれるはずだ。今回の報酬をもう少し増やしてくれって。
「そうか。なら頼むわ。俺達はあくまでも個人じゃあなくてギルドと提携して仕事してるからな。解体報酬はギルド払いで、冒険者の働き次第で金が決まるから、安い給料ってのは分かっている前提で働いてるんだ。
だからこそ、政府にはこんな個人的な文句は言えねえ。もしやってくれるってんなら頼む」
「分かった。任せてくれ。期待通りにはいかないとは思うけど、少しでも増やしてくれるよう頼んでみるよ」
「よっしゃあ! 待ってるぜぇ!」
そうして僕は依頼者である政府と話がしたいとギルドに掛け合ってもらい、政府関係者がギルドまで来てくれた。
どんな顔かは予想していなかったけど、これまた意外にも気前が良さそうで、爽やかイケメンだった。そして性格も気前が良くて結果、解体師達にも特別報酬10万オロを当ててくれた。
いや凄いな。十五人全員分だから、特別報酬つっても150万オロも渡したって事だろ? 逆に気前が良すぎて怖い……。
僕は頼まれたから政府の人と話し合ったけど、これがきっかけに更に解体師達の仕事がハードにならなければ良いけど……。
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