第9話 制圧

 僕はただ平穏な生活をするために、金稼ぎを目的に大きな依頼を受けた。それは近頃、ノルデン帝国周囲又は、周辺地域を脅かす狼の繁殖率増加に伴う、狼の群れ討伐。

 それはそれは思った以上に数が多くてね。依頼を受けてから三日経っているけどまだ終わらない。


 多少でも他の冒険者がなり行きで群れの討伐はしてくれてはいるんだけど、あくまでもその状況を知るのは依頼を受けた僕と、依頼を出した政府さんのみ。僕が殆どの群れを討伐しまくっている。

 多分かれこれ十の群れは撃破しているんじゃ無いかな。


 群れを発見したらすぐさまリーダー格の狼を探し、最大限の助走を付けてそれを回避能力の特性を活かして、出来れば一撃で吹き飛ばす。

 意図的には発動出来ないから、僕が突っ込んで来たことをリーダー狼に伝えるために、大声で叫びながら突っ込むんだ。するとリーダー狼はなんどやっても突っ込んでくる僕を返り討ちにしようとするんだ。

 そこで回避能力の発動さ。全力で助走をつけた分が威力に上乗せされて……リーダー狼を吹っ飛ばす!

 で、終わったら残りの縄張りの中にいる狼を片っ端から撃破。


「いやぁ、これで今や報酬は50万オロは行ってるかなぁ」


 依頼報酬はボス又はリーダー格を倒せば5万。勿論ノルデンの政府は全滅させろとは言ってないし、僕が全滅させる気だとは知らないだろう。だからこれは成功報酬じゃなくて、一つの群れに対して5万オロだと思うんだよね。だから約十の群れを殲滅した僕の報酬は恐らく50万オロ。素晴らしいね。


 それともう一つ。本来なら三日もあれば十の群れは愚か、二十の群れも出来るっちゃできるんだけど……ギルドから注意されちゃってね。

 倒した狼はしっかり回収してくださいってさ。なんだか近くを通った冒険者や旅商人達が無数の狼の死骸を見つけたらしくて。まぁ、その光景はかなり惨いんだとか。


 狼の死骸は解体して部位ごとの素材にしてもお金に出来るらしいから、随時全ての狼を回収するようにってね。

 回収用の大袋を持って来てはいるけど、狼の群れ一つで袋は満杯。それもめちゃくちゃ重い。

 だから、一つの群れ撃破→全回収→ギルドに持ち帰り→再度討伐出発。これの繰り返し。そんなのやってたらいつの間にか三日が過ぎてしまった。


 だから……解体した売却料も合わせると100万オロいってるんじゃあ無いかな。


 はぁ〜それでも届かない。家の購入は日本じゃ3〜4000万掛かるから……いや、ここではまだ値段確認してないけど、もし日本と同じ値段だったら気が遠い……。


◆◇◆◇冒険者ギルド◆◇◆◇


「はーいこれで十二の群れだよー。解体してくれー」


 大量の狼の死骸を持って帰ってくる僕の所に忙しそうに冒険者ギルドの受付さんが駆け寄ってくる。


「はぁ……はぁ……ハクさんは余裕かもしれないけど、ギルドは大忙しですよ。街中の解体師をかき集めて、ハクさんの持ってきた狼を解体。いくら解体しても追いつきません! これはギルド最短速度でブロンズからシルバーに昇格出来るのでは? はぁ……」


「ははは……まさか狼の群れ撃破してるだけでそれは無いよ。いくら僕が普通以上の快挙を成したとしても、それだけでシルバー昇格は逆に僕がギルドに対する信頼を失うね」


「そ、そうですかぁ……はぁ……」


 冒険者ギルドのランク昇格はポイントとかじゃなくて、ギルドの依頼を多くこなし、ギルドと依頼者の信頼を得ることで、ギルドの裁量で昇格を決める。

 だから今の受付さんが言ったように、ちょこっと活躍しただけでランクを昇格させても良いなんて、実はランク昇格がどの程度なのかは曖昧だったりする。


 さて、ギルドの解体師さん達も体力が限界だ。此処は一つ元気付ける言葉を与えよう。いや、余りやりたくは無いんだけどね。


「解体師さん! 次々とくる狼の解体お疲れ様! もし全ての解体が終わったら僕の報酬を山分けしよう!」


 解体師達の歓声が湧き上がる。


「うおおおぉ! 兄ちゃん。それは本当だろうなぁ! だったらまだまだ解体しまくるぜええぇ!」


 今の解体師の数はノルデン帝国中から作業の短縮のために腕の立つ人をかき集めているから、今此処にいるのは大体十五人程。

 つまり、此処全員に僕の報酬を分けるとなると、僕を含めて約100万÷16で、62,500オロ。

 僕の手取りが凄まじく少なくなってしまう……。

 

 だから此処は悪いけど、解体師と僕で7:3でお願いしようかな。そうすれば十分な取り分になる。まぁ、そもそも本当に一つの群れ当たりの報酬なのかも分からないけどね。その時はその時だ。


◆◇◆◇一週間後◆◇◆◇


 依頼を受けてから一週間が経った。僕のレベルも気づけば6に。え? 少ない? それがね。僕だけなのかは分からないけど、一つレベル上げるのに異常な量の経験値が必要なんだよねぇ。

 今や勇者一行は何レベなんだろう。ここで大きな差が付いていたらやっぱり僕って逸れ者なのかなって改めて思っちゃうよ。


 さて、この一週間で僕は途中でグレイ達の協力も得ながら、三十の群れを殲滅した。そして次はこれで三十一の群れだ。遂に辿り付いた。僕の周りにいる狼はみんな今まで戦ってきたリーダー格ばかり。流石はボスの縄張りだ。雑魚は一匹もいないね。

 今日こそは苦戦しそうだ。


 すると僕の視界のずーっと奥の方で声が聞こえた。念話だ。魔物が僕に念話を使ってるよ。


『遂に参ったか狼の駆逐者よ。我が名はグレートウルフ。ルヴドーだ。我の築き上げた狼の群れはまだまだ世界中に点在するが……まさか我がボスの縄張りまで辿り着くとは見事なり。

 だがお前の命運もここまで。お前がどれだけ強かろうとも我が元に辿り着くなど不可能。まぁ、せいぜい足掻くと良い。死ぬ気でかかって来い!』


「じゃあお言葉に甘えて、行かせてもらうよ」


 なに。今まで通りに行けば良い。此処からボスまではかなり距離があるけど……。

 周囲の狼は僕を見つければすぐに飛びかかってくる。

 そこで時は遅くなる。この瞬間だ。自由に動ける今こそ、ボスまで突っ走る!


「うおおおおお!」


 僕は若干の体力切れを感じながらもボスの目の前で来た。だがその瞬間に、僕が特殊な時間の中で高速で動けることを知っていたかのように、僕の視界でゆっくり動くボス。ルヴドーは、遠吠えをあげてなんと雷を落として来た。


 たしか魔式だっけ? まだ説明されていなかったけど、まさか此処で攻撃の魔式をお目にかかれるとはね!


 その雷も避けれる程度に遅くなっている。でもやっぱり流石雷か。スーパースローと比べるなら雷はスローだ。

 僕は雷の落下地点をしっかりと確認しながらザクザクにボスに向かって走り抜ける。


「ぶっ飛べええぇ!!」


 ルヴドーは体格はとにかくでかい。今までリーダー格の狼とは桁違いに。高さは約十メートル。大体一軒家の二階建てくらいの高さで、奥行きは多分十五メートル超えてるんじゃ無いかな?

 そこに僕は思いっきりジャンプして、鼻っ柱をグーで殴る。


 そして時は動き出す。


『速いッ!? ぐうぅ!』


「流石にこの大きさ、一撃でじゃどうにもならないか……」


『ふざけおって……この人間風情がぁ!』


 ルヴドーは大きく体を逸らし、片手で僕を殴ろうとする。が、やっぱり時は遅くなる。

 いやもうこれチート認定かな。でも完全に止まっている訳じゃないから、多分この先この能力でも抑えられない速さのある化け物とか出てくるんだろうなぁ……。


 僕は腰の鞘に刺していた剣を引き抜く。

 今まで血を流さずに狼を倒していたからね。でもこの大きさの狼にはそろそろ刃物じゃ無いと厳しそうだ。

 僕は再度大きくジャンプして、脳天に向かって垂直し剣を突き刺す。


 刃渡り約三十センチが、ルヴドーの脳天に深々と刺さる。そして時は動き出す。


「グガアアアァァァッッ!!!」


「うわわわわ! うわああぁ!」


 あまりの激痛にのたうち回るルヴドーから、決して剣から手を離さないように踏ん張るが、その反動で僕の突き刺した剣は勢いよくルヴドーの顔面を切り裂いて抉る。

 そしてルヴドーは何を誤ったのか、自分の頭上に雷を落とした。僕は咄嗟に手を離す。


「やばっ!?」


 ルヴドーの落とした雷は脳天に突き刺さる剣にぶつかり、そこから身体全体に電流が伝導する。


『ぐああああぁっっ!』


 その力は予想以上で一撃でルヴドーの全身をまる焦げにしてしまった。ドスンと体勢を地面へと崩すルヴドー。


 うわぁ……これくらってたら僕も流石に死んでたかな。ははは……。

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