〜凡人の成長物語〜才能だけの女が才能もある女へと成長する話〜

如月二十一

入学編

第1話前編 蟹の月の4日午前。《入学式》

 勇士育成学園【コルネア】。300年前の【大征伐戦】にて活躍した4人の英雄、【四勇士】。【大征伐戦】のきっかけとなった【魔王】の復活に備えて次代の勇士を育て上げる事を目標に作られたこの学園は世界中から人が集められており、その殆どが英雄となり得る可能性を秘めている人ばかりだ。





 ……但し、私を除いて、であるが。





ーー第一章 勇士育成学園コルネアーー







 改めて自己紹介させてもらおう。私の名前は『レイ・S』。苗字についてはイニシャルで伏せさせてもらう。今の私にとって家の名前は忌むべきものなんだ。


 さて、先程言ったようにここ【コルネア】は世界中から英雄となり得る可能性を秘めている人が集められている。魔力が常人の数倍あったり、身体能力がとてつもなく優れていたりとその種類は多種多様だ。そんな中私はというと。



 身体能力:平凡。運動音痴という訳では無いが、特別身体能力が高い訳でもない。


 頭脳:平凡。勉強ができないわけではないけど、得意ってことも無い。


 魔力:少ない。その魔力総量は同学年と比べると大幅に少なく、平均以下である。魔法を使うにはあまりにも魔力が少なすぎる。火をつけたりとかは出来るけど炎の塊を飛ばしたり津波レベルの水を出したりとかは出来ない。



 このとおりである。



 特に魔力が酷くて、入学前に【魔法科】という授業を担当するらしい先生に哀れみの目で見られて、



『単位についてはレポート提出とかで補えるよう学園長に交渉してみるから諦めないで』



 と言われたくらいだ。実技基本のこの学園に置いてレポート提出での単位取得者は私くらいだろう。学園の歴史に残る快挙かもしれない。やったぜ(白目)。


 既に先行き不安な学園生活に表情を曇らせ、学園長挨拶も上の空で聞いていたら隣の女の子から可哀想なものを見る目で見られた。 そんな目で見られると照れるな!




「えっと……大丈夫?」


「大丈夫大丈夫、ちょっとこれからの学園生活に不安を隠せないでいるだけだから」


「どう考えても大丈夫じゃなさそうなんだけど!?」


「ふふふ、大丈夫か大丈夫じゃないかと言うのはその人の主観によるからね。例えあなたから見て大丈夫そうじゃなくても私は大丈夫と思い込んでいるから大丈夫」


「それ無理やり誤魔化しているだけで大丈夫じゃないから!危ないから!」


 



 私の横で小さな声で叫ぶとかいう器用な事をしている彼女は何者なのだろうか。取り敢えずこんな風に死んだ目で空を仰いでる私に対して親身に話しかけて心配してくれるのだからいい子なのは確定だ。こんな美少女に心配して貰えるとかここは天国かな?


 学園長の挨拶も終わり、解散しそれぞれの寮への移動となる。入学前に渡された校章の刻まれた手帳に書いてあったがこの学園は寮は5つに別れているらしい。





 帝国出身者の寮で、貴族と平民で棟が分けて造られている鷹が寮章の【白鷹】。





 大国出身者の寮で、異種族も住みやすいように特別な設計がされている鷲が寮章の【黒鷲】。





 日ノ国出身者の寮で、他の寮がホテルのような作りになっている中、日ノ国独特の作りである屋敷作りとなっている燕が寮章の【青燕】。





 王国出身者の寮で、開発や改造、設計などが自由にできるように工場が隣接している鴉が寮章の【赤鴉】。





 これら4つに加えて、【灰雀】と名付けられている雀が寮章の寮があるのだが……不思議な事に、他の寮が簡単な特色の説明が書いてあるのに対して、ここだけなぜか何も書いていないのだ。


 まぁ、私は王国出身者なので【赤鴉】寮所属になるだろう……





 ……と思っていたのだが。





「レイ新入生、君はこちらだ」





 何故か恰幅のいい白ひげをたっぷりと蓄えた壮年の男性に呼ばれ、私だけ【赤鴉】に向かう通路ではなく、学園の外の外れに連れていかれた。







 なんで?







━━━━━━━━━━━━━━━







 意味も分からずついて行くこと5分。なにか聞こうかと思ったが全身から話しかけるなオーラを放っている人に話しかける程私はコミュ強では無いので黙ってついていく。




「……ふむ」




 とかなんとか考えてたら案内してくれていた男性がいきなり立ち止まり、こちらを振り向く。なんでごぜぇましょうか。別に疑問とか抱いてないから!ただちょっと一応私王国出身なのになんでほかの王国出身らしき人達と同じ通路じゃなくてこんな校舎からも離れたへんぴな所に連れてこられてるんだろうとか考えてないから!これ本当。




「疑問を抱きながらも口にしないのは感心しないな」


「すみませんどうして私1人だけ【赤鴉】に行く通路ではなく校舎外れに連れてこられてるんですか」


「素直か。それもまたよし」




 いやそんなふむふむと頷いてないで早く説明プリーズ。はよ、はよ。




「君は【王国】出身者。しかもあの発明家【スタンアームス】家の娘だ。本来なら【赤鴉】寮のスイートルームが与えられるべきだろう。」




 おいなんで人が自己紹介で隠した苗字を勝手に公開するんだ個人情報の漏洩だぞ。もしかしたら何か盛大な伏線や裏設定があるかもしれないのになんでこんな簡単に出すんだよ。





 まぁどうでもいいんですけどね。





「というか【赤鴉】寮スイートルームとかあるんですか。そういうの【白鷹】だけかと思ってました。あそこ貴族棟がありますし」


「【白鷹】寮の貴族棟は全室スイートルーム同様の作りをしている。故にスイートルームと言うのが存在しない」


「無駄に手厚い……」





 全室スイートルームとか【王国の】最高級ホテルでもないぞどんだけ金使ってんだよ【白鷹】寮羨ましい。手間かかってそうだなぁ……。




「話の続きをしよう。本来なら【赤鴉】寮に入寮するのだが、【灰雀】寮に入寮してもらう。恐らく心当たりはあるかと思うが……」


「……あー」




 魔力、かなぁ……基本的にこの学園は実技試験がメインとなる。だが、私の魔力量は平均以下。【魔力科】とやらの授業の実技による単位取得は絶望的と言っても過言ではない。




「でも考えてみたら魔力量が少ないのと私が【灰雀】寮に入寮しなければならないのは関係ないのでは?」


「その疑問に答えよう。【灰雀】寮は君のように魔力量が少なかったり、性格に難があったりする、何らかの事情がある生徒のみを集めた場所なのだ。だが、君が【灰雀】寮に入寮する理由はそれだけではない。先程も言ったが、君は【スタンアームス】家の娘だ。君の事を知らない人間は知らないだろうが、王国出身の生徒で君の家の名前を知らない者はいない。それによって畏怖や敬意の念を向けられるだろうが……同時に、妬みや恨みも受けるだろう。」


「あー……」


「馬を使わず走る馬車……自動車と火薬を爆発させ、鉛玉を放つ筒……銃の発明をし、その他にもガス灯、印刷機、蒸気機関、電球、鉄道……それらを発明した【技術の革新者】……その娘。ともなれば、短絡的な奴らが何をやるか、想像できなくもないだろう?」


「まぁ……慣れてはいますけど、やっぱりそういうのってどこに行ってもあるんですね……」


「ここは勇士育成学園【コルネア】。ここに集うのは全て英雄たる資格を持つものばかりだ。だが英雄となる資格があるとはいえ、所詮はまだ子供だ。しかも中途半端に力と才を持ったヒヨっ子が大半だ」




 そういった虐めを受ける可能性を少しでも少なくする為に私を”魔力量の少なさ”を理由に【灰雀】寮に入寮させることにした、ということなのか。





 ……めっちゃ生徒の事考えてくれているじゃんこの学校……





「我々も全力でサポートするのだが、教師という立場上必要以上に贔屓することができんのでな」


「いやいや、十分ですよ。むしろ手厚すぎて申し訳ないくらいです」


「そうか。その感謝、素直に受け取ろう。先程も話したが【灰雀】寮の生徒は全員何らかの事情持ちだ。困った時は先輩や同僚、寮母などに頼るといいだろう」




 さて、では【灰雀】寮に向かおうか、と言って再び歩き始める。


【スタンアームス】の娘だから出来て当然、みたいな雰囲気の人ばっかだった向こうの中学とは大違いだなぁ……。





 ……でも。





「やっぱし、友達と離れ離れなのはしんどいなぁ……」

「何か言ったかね?」





 いえ、なんでもないです。行きましょうか。



 



「……ふむ。了解した」





 今は蟹の月。まだまだ春風の季節だ。





 だが、春の日差しに反して風は少し冷たかった。












 ところで【灰雀】寮ってどんだけ離れてるの……?

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