屋上の冷たさ

バブみ道日丿宮組

お題:鈍い言い訳 制限時間:15分

屋上の冷たさ

 僕が選定の剣を引き抜いたとしたら、こうはなっていないだろう。

 誰にも認められ、英雄のように扱われる。そう……主人公になれたはずだったんだ。こんな存在価値を疑われるようなポジションになんてなってない。

 それは絶対に絶対だ。

「こいつ笑ってますよ?」

「真正のドMなのかもしれんな」

 いじめっこたちに蹴り飛ばされてる僕は、笑ってた。

 声を大にして、表情を歪ませる。

「気持ち悪いやつだな」

「そうですね。これじゃ、こっちが汚染されますよ」

 屋上の床はほどよく冷たく、居心地がいいような悪いような状態だ。

 もっとも僕は押し付けられたり、吹っ飛んだりしてるので、あまり感じるということはできてない。いじめっこがいうドMという言葉に対しては流石に否定したいところだが笑いは止まらない。

 痛みという痛みはもう麻痺しててよくわからない。

「動かなくなりましたね」

「やりすぎたか? まっでもこいつはクラスのゴミだからくたばってくれてもいいか。どうせ俺らがやったっていう証拠はでないんだ」

「ふふ、そうかもしれないですね」

 ゴリッと蹴りがお腹に突き刺さった。

 胃の中が潰れ、口から体液が溢れた。

「きったない。お前のよだれで制服汚したくないんですが? それになにあたしの下着を見てるんですか」

 見たくて見てるわけじゃない。頭がこれ以上動かないんだ。それで仕方なく視線を固定しただけだ。少しでも楽な姿勢を保とうという危機回避行動だ。

 それに赤のレースのパンティなんか興味はない。フリルがついた下着こそが至高で、緑の色はさらによい。

「なんだお前……こいつにパンツ見せてるのか?」

「違いますよ。位置的にそうなってるだけで、これっぽっちも見せたくないですよ。見せるのはあなただけ。ううん、もっと奥まで見せるのもあなただけ」

「へへ、そうかよ」

 頭に衝撃がくると、視界の向き、色が変わった。

 赤い、ただ赤いコンクリートの床が見える。

「さすがにやばいんじゃないですか? 血だらけですよ、こいつ」

「前もこうだったから大丈夫だろう。耐性ってのがついてるだろうしな」

 つくわけがない。

 痛みになれることはあっても、傷つかないわけじゃない。

 死なないことなんてないんだ。

「行こうぜ」

「わかりました」

 予鈴が3度鳴り響くまで、僕は屋上から動くことができなかった。

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屋上の冷たさ バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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