セイセイを探せ!
あらかた細剣が片付けられてしまったが、セイセイは余裕の表情だ。
「まぁまぁ、やるようですね。ですが……」
セイセイの体がふわりと持ち上がり、中空に浮かぶ。
「この程度だと思われては困りますね!」
セイセイが空中で両手を徐々に持ち上げると、それに応えるように、青く塗られた町の建物が浮かび上がっていく。
「ワタシは青のセイセイ。ワタシは"青いモノ"を操る」
セイセイが両手を振り下ろす。浮かび上がった建物は崩壊し、その瓦礫がイヴイヴらの頭上へと降り注ぐ。
襲い来る石材や建材の群れに、イヴイヴとリスリスは周囲を飛び回るように回避する。ノルンはヴェントを横抱きで抱き上げ、回避を行う。
「さぁ! 青に潰されよ!!」
セイセイが空の手を振り上げ、振り下ろす。荒れた街にある"青いモノ"が次々と浮かび上がっては、イヴイヴ達へと降り注いだ。
青い石材、青い廃材、青い建材、青い馬車、青い扉、青い未熟な果実、青首大根、青春真っ只中の若い魔族……。
「まずい、僕も操られるかも……」
警戒するヴェントに、セイセイは微妙な表情を向けた。
「ひ、酷い……、僕も17歳なのに」
"青春真っ只中"を自称していたヴェントだが、セイセイの表情で否定され、彼は嘆いた。
イヴイヴが降り注ぐ石材を足場として蹴り上がり、宙に浮かぶセイセイへと肉薄する。
「ハァァ!!」
聖剣の横薙ぎが、セイセイの胴を両断する。
「がぁっ!」
呻くセイセイ。だが、
「……、ハッハッハッハッハッハッハッ!!」
聖剣で真っ二つにされ、それでもセイセイは高笑いをしていた。聖剣には青色がべったりと付着している。
「なっ!?」
斬撃を振り抜いた格好のまま、イヴイヴがビクリと硬直する。
真っ二つだったセイセイの胴が結合し、鎧まで傷一つない状態で復元された。セイセイは硬直したイヴイヴの顔を右手で掴む。手から青い液体が滲みだし、イヴイヴの顔を青く塗り替えていく。
「がっ、あがぁぁぁ!」
イヴイヴの口から、苦悶の声が漏れる。
「イヴイヴ!!」
リスリスが地上から悲鳴のような声を上げるが、それはセイセイの高笑いにかき消された。
「フッハッハッハッハッハッハッハッ!!」
そして、セイセイの全身が弾け、青い液体が周囲にばらまかれた。
「なっ!」
リスリスは顔を庇うように腕を振り上げた格好で、全身のあちこちが青く染まる。
ヴェントにも青い液体が迫ったが、直前に割り込んだノルンによって防がれた。代わりに、ノルンも体の一部が青く染まっている。
拘束から逃れたらしいイヴイヴも、全身を青く染めつつ地面に倒れていた。
「イヴイヴ!!」
急いでリスリスが駆け寄り、治癒魔法を施す。
「ふっふっふっふ……」
青い液体が空中に集まり、再びセイセイが形作られる。
「ぐっ、あれは、本体じゃ、ない」
イヴイヴは苦し気な様子で、絞り出すように呟く。
「しかし、これだけの力、本体は近く、に……」
「イヴイヴ、無理にしゃべってはダメ!」
リスリスが治癒魔法を施すも、イヴイヴの具合が改善する様子が無い。
「ぐぁっ!」
苦悶の声をあげ、イヴイヴの体が仰け反る。そして、白目を剥き、明らかに意識が無いような状態のまま、イヴイヴはゆらりと立ち上がった。
「い、イヴイヴ……?」
ふらふらと頭を揺らしつつ、イヴイヴは青く染まった聖剣を振り上げる。
這いずるように後ずさり、その凶刃から逃れようとするリスリスだが、
「うぐっ!」
ビクリと震え、上手く動けなくなるリスリス。青色が着色していない左腕で、青く染まった右腕を押さえている。
「青色に染色された部位に、不可視の負荷がかけられています」
ノルンは自身の左腕に付着した青色を見下ろしつつ、淡々と述べる。
「青い部分を操られているってこと!?」
「そのようです」
セイセイは"青の四天王"という異名を持つに相応しく、"青いモノ"なら何でも操る。これまでヴェント達が"セイセイ"と思って対峙していた相手も、セイセイが青い液体で作り出した偽物であった。
ノルンの左腕からは、セイセイからの操作と反発しているためか、ギリギリという異音が鳴っている。鳴っているが、ノルンの腕が動く様子はない。どうやらセイセイの能力による拘束力は、ノルンを操るほどの威力は無いようである。
「ノルン! 本体はどこにいるかわかる!?」
「念動粒子へ伝達する思念の出どころでしたら……」
ノルンは何かを辿るようにゆっくりと振り向き、ヴェントを凝視する。
「え? ぼ、僕?」
ノルンはゆるゆると首を振る。一瞬疑問に感じたヴェントであったが、ノルンの視線を追うように後ろを振り返った。
「……」
膝を抱え、体操座りをしている若い魔族が居た。
先ほど、セイセイが大量に投げつけてきたモノの中に混ざっていた"青春真っ只中の若い魔族"である。
「……」
「……」
若い魔族とヴェント、目線がぶつかり、なんとも言えない気まずい雰囲気になる。
「イヴイヴぅぅぅ!!」
リスリスの悲鳴が聞こえた。
「てぇい!」
「ぶごっ!」
ヴェントはスペーススーツのパワーアシスト機能により強化された力で、若い魔族に当て身を食らわせた。
途端、"青"にかかっていた圧力の一切が消失し、聖剣を振り上げていたイヴイヴも、糸が切れた操り人形のように地面へと倒れた。
気絶し、簀巻きにされて転がるセイセイの本体。その横で、再びイヴイヴとリスリスは土下座の姿勢であった。
「またも、助けられてしまいました。ありがとうございます」
青く染まったままの状態で、二人は頭を下げる。
「と、とりあえず、四天王倒せたし、いいじゃないですか。そ、それより、青い色を落としましょう!」
"ありがとうございます"と述べつつ、二人は顔に着いた青色を拭い、鎧や衣服の青色を落とすために服を脱ぎ──
「建物で! 建物の中でしましょう! ノルン! ちょうどいい建物探して!!」
まともな形状の残っている建物を見繕い、女子二人は、ノルンに手伝ってもらいつつ身を清める。
ヴェントは、簀巻きのセイセイを引きずってそこから離れ、しばし青空を見上げて過ごした。
「今日はずっと青いなぁ~」
空を見上げて独り言を呟くヴェントは、青春真っ只中である。
その後、イヴイヴの希望により、港湾都市カイカイをしばしの拠点として再び1週間ほどレベル上げを行ったのだった。
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