改変世界の幕開けの音

バブみ道日丿宮組

お題:俺はバラン 必須要素:海苔 制限時間:1時間

改変世界の幕開けの音

 天は俺に生を与えてくれた。地は俺に自由を与えてくれた。そして親は俺に言葉を教えてくれた。兄弟たちは俺に愛をくれた。

 俺はそんな彼らが生きられる資金を、国の道具になることでもらっている。

 それは絶対命令で、誰も逆らえない。逆らえばこの国に存在する白銀の鎧を持った人間によって、追い出されてしまう。

 それに反抗するものなら、彼らによってさらし首となり、一族が全てが根絶やしになる。だから、この国の最下層民の一族のうち少なくとも誰か一人は国の道具となることで、この国にいさせてもらっているのだ。

 だから、こんなものは自由なんかじゃなく、強制労働だと俺より歳の若い連中や、上の連中が話す。そういう気持ちもわからなくもない。

 女王たちを憎み、いつか同じ目に合わせてやろうと考えている奴らもいるくらいだ。

 

 俺もあの時、あの言葉を聞くまではそうだった。

 

 それがなければ、ここにはいなかっただろう。

 強制労働だと言っている奴らも内心ではそう思っているに違いない。でなければ、すぐにでも笑顔を忘れ、倒れている。

 国は道具だというが、そういう意味で言えばーー道具の手入れが上手だった。病気や怪我をした場合、必ず完治するまで休ませてくれる。医療費を肩代わりしてくれる。

 そういうこともあり、俺はどちらかといえば、ここは自由の居場所だと思っている。無論そこまで思っているのは俺だけなのかもしれないがな。

「……ふぅ」

 俺は、心底この生活に満足していた。

 首輪が痛かったり、腕輪が重たかったりするが、俺が必死に働くことでこの国のお姫様が裕福になり、幸せを感じてくれるなら、この生命をを捧げてもいいと思った。

 もちろん兄弟たちや、親が生きていける環境を作れている満足感もある。

 国の道具たちが集められた施設の中は、それなりな環境だった。万全なものはいえないが、普通よりは良いものだ。無論、脱走などされないように今いる大広間の窓には鉄格子がある。

 ただ、兵士などはいない。そしてこの施設の扉も施錠されていない。

 誰も逃げる奴がいないからだ。

 

 それにはいくつかの理由がある。

 まず最初に話しておくが、俺の名前はバラン。最初に話したように俺は最下層民の人間だ。

 そして好きな食べ物は、この国の名産地の海苔。

 散々言っているが長男だからという単純な理由や、責任感で俺はここにいるわけじゃない。自分で進んでここにきたのだ。親は俺を行かせないと裏工作を色々としていたようだが、俺も同様な裏の術を使わせてもらった。

 皮肉の手紙が、そして感謝している言葉が毎日くる。

『お前のおかげで、私たちは生きていられる』と。

 その手紙を読む度に俺はきてよかったと思う。何よりも、ここは最下層民が、唯一お姫様にお近づけになれる場所でもある。

 俺の隣にちょこんとド派手なドレスで座っているのが、

「ねぇ、バランはどうしてそんなものばかり食べているの? 美味しいの? ただの海藻という話じゃと聞いておるが?」

 そのお姫様だ。

「まぁ、仲間たちも同じようなことを言いますがね……これは俺の好物なだけですよ。それにお姫様にきちんとこの美味しさをお分かりして頂くには、実際に同じような労働をしてもらわなきゃならないですが、それは無理な話です」

 つぶらな瞳でお姫様がこちら見てくる。その瞳にはどうしてなのかという疑問に満ちている。

「お姫様に手伝ってもらったとなったら、すぐに打首になるでしょう」

 無論こうして話しているのを見つかれば、ただじゃいけないだろう。とはいえ、見つかるわけもない。その自信は、お姫様もあるようだし、仲間たちも今までに隠し通してきている。いつまでもこんなことが可能かはわからないが、少なくともあと数年耐えれば体制が変わる。

「それは嫌じゃ、バランたちには長く生きてもらいたい」

 俯いて、悲しげな表情をお姫様が見せるものだから、つい頭を撫でてしまう。このお姫様が実権を握れば、全てが変わる。もっと素晴らしい国ができる。

「……妾はそうされると、どうしてだか泣きたくなる? これは哀しいことなのか、バラン?」

 お姫様の顔は笑っていらっしゃるのに、愛らしいその瞳には滴が溜まっていた。

「こうさせているのは、妾の母君と父君がいけないのに、笑ワはバランたちに何もしてやることができない」

「……その気持だけで十分です」

 お姫様はお忍びで、こうやってたまに俺たちの働く場所を遊び場にやってくる。無論忍び付きであるが、理解ある忍びなのか今までみたことはない。お姫様がいうにはすぐ側にいる、すごく温かいやつだそうだ。

 お姫様がこうやってくるものだから、新入りなんかはすぐにひっ捕まえて干物になんかしちまおうというんだが、俺を含めてここで働いているお姫様を知る人間はそれを鼻で笑ってしまう。

 そう……自由の居場所ーーそれをいつかこのちんまいお姫様が作ってくれると、あの時この国の全てが集まったお祭りの時言ってくださったのだ。

 だから、俺は自ら進んできたのだ。

 お姫様はその発言後、女王や王に叱咤され軟禁されたと聞くが、それはわからない。お姫様はそれを口にしたことは一度もない。

 言ってくださる言葉は、いつか変えてやる。汝らをいつか護衛としてお城の重役にするとまでいう。さすがにそれは無理があるだろうと思うが、実際お姫様はここの体制を少しずつだが変えている。

 そう病気や怪我をした人間にーーどうして奴隷のような国の道具を使い捨てにしないのか、理由はここにある。

 お姫様が少しずつ女王様に意見を言い、変革をはじめているからだ。もちろんそれは王家内部の反乱を派閥にわける出来こととなったらしい。

 だが、そうあるべきだと少しずつ折れてきているらしい。

 そして、その全ての実権をお姫様に渡すという約束までもし始めたとのことだ。

「バラン、妾は良き王になれると思うか?」

 俯いてお姫様は、俺が思い出にふけている間に人が変わったように、真剣な目でこちらを見ていた。

「……それは俺たちで決まる問題でも、お姫様だけの問題でもありません」

 そうかとまた俯きそうになったお姫様の頭をもう一度撫でると、

「ただ、そう思ってくださるか、くださらないかで、国は変わるかと思います」

「そ、そうか!」

 俺の言葉にはにかんだお姫様は、本当に美しく……この国の貴族様なのだと思い知らされる。高嶺の花というのは、本当のことなんだと残念に思う。

 だが、そのために俺はここにきたわけじゃない。

「では、そろそろ妾は戻るのじゃ。そろそろ教育係のうるさい奴がくるのでな」

 お姫様は、その場に立ちあがると、指をならした。すると、一瞬にしてお姫様の姿はどこにもなかった。

「……こうしてみると、この世の人間じゃないように思えてならない」

 自然と漏れた言葉に、

「妾は同じ人間だぞ、そこは忘れてはならぬぞ、バラン」

 どこからか声だけが聞こえてきた。

 俺は笑うと、

「さて、行くかお前ら!」

 立ち上がり、仲間たちに声をかけた。


 俺の言葉に続くように、施設の扉をあけると後ろから音から聞こえてきた。

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