第2話 国王と教え子

 王室には真ん中にジョンソン、その隣にリンダが座しており、少し離れた位置でパレッタが椅子に座っていた。 


「おお、ヨハン君来てくれたか」


 ヨハンの姿を目にしたジョンソンは椅子から立ち上がり、ヨハンを招き入れた。


「陛下、お待たせして申し訳ございません」

「陛下なんて堅苦しい。今は公の場ではない、いつも通りで良い」

「そうですか……ではジョンソン先生。今日はこの様な決起会を設けていただきありがとうございました」


 ヨハンはジョンソンに礼を言うと、ジョンソンはなになにとなだめた。


「この国の勇者の旅立ちだ、これくらいは当然さ。それに、大切な教え子としてもな」

「はい……ジョンソン先生の教え子である事、自分は光栄に思います。ジョンソン先生から学問を教えて頂けたお陰で、今の自分がありますので」

「ハッハッ! 感謝されるような事はしとらんよ。あの時は父上が政治を行っていたから私にも時間があったからな」

「それでも私のみならず、多くの国民が先生に感謝していると思います」

「そうか……本当にそうであるなら、毎日父上に怒られながらも強行した甲斐があったというものだ!」


 ジョンソンは当時の事を思い出しながら、満面の笑みで笑ってみせる。彼はかつて王子だった頃、王宮を抜け出して学校を密かに開き、町民、農民の身分を問わず学問を教えていた。


 その理由は国民に学をつけさせ、国力の底上げを図るというものであり、事実、彼の広めた学問は瞬く間に民の間に広まっていき、気がつけばグランドームは先代の時代の比にならない、他の王国の追随を許さない程、規模の大きな大国となっていたのだが――


「だがこのままでは我が国……否、人類の発展は叶わぬ夢に終わってしまう」

「狂暴化した魔物達と大魔王フォルトルート……ですね」

「ああ……魔物の力はとても強力で、並大抵の人間では到底敵わん。更にそこへ出現した魔王フォルトムートは、我々人類と同等……いや、それ以上の知力を持っているかもしれん。力と知力の両方を携えた魔物達が本格的に侵略など始めたら……人類は滅ぶ事になるだろう。それだけは何としてでも食い止めねばならん!」


 ジョンソンは抵抗すら出来ない現状に情けなさと憤りの両方を感じ、拳を強く握るがあまり、腕全体が痙攣しているが如く震えた。


「魔物に対抗出来るのは古より勇者の血筋の者だと伝えられているが……しかし私はそれで本当に良いのかと疑問に思う。君の家族にだけこんな重荷を背負わせるのは、実は間違いなのではないのかとも思う。現に君の父と兄は……」


「先生、ご心配して頂き誠にありがとうございます。父と兄は使命を立派にやり遂げました。だから二人のためにも、私は魔王討伐をやり遂げなければならないのです。これは単に勇者ゼロの血を引く者だからとか、人類のためにだとか、そんな大それた事以上に、家族を殺された私自身の復讐のためでもあるんです。だから自分が行くのは当然ですし、機会を与えて頂いた事、誠に感謝しております」


 ヨハンは一礼した後、ジョンソンに微笑む。その顔を見てジョンソンも、この男の方が自分よりも一枚上手かと、感心しつつも、送り出す上で安心感を持つ事が出来た。


「さっきは私が先生である事を君は光栄に思うと言っていたが、その言葉、そっくりそのままお返しさせて頂くよ。君の様な教え子を持てて、私は光栄だ」


 ジョンソンは国王としてではなく、一教師としてヨハンの事を誇りに思い彼に笑いかけると、ヨハンも恩師に絶賛され、その喜びを笑顔で返した。


「そうだ、妻と娘からも君へ伝えたい事があるのだった! リンダ、私ばかり長々話してしまって申し訳無い!」


 ジョンソンはリンダの方へ振り返り謝罪すると、リンダはそんな彼の姿を見てクスクスと笑っていた。

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