英雄失敗

楠木黒猫きな粉

英雄主義

怒号と炎に視界が包まれた。

悲鳴と歓喜が鼓膜を揺らした。誰かは叫ぶ自分たちに罪はない、と。震えた喉を誰かの正義が貫いた。炎にその像は揺れ、視界はまた使い物にならなくなる。

青と白の火が街を焼いた。角を折られた同胞が『王』に縋り泣き喚く。

「あぁ王よ、我等に生の喜びを教えし者よ。どうか我等の死を遠ざけてくださいな」

静寂の城。王は玉座にてただ王の言葉を吐き捨てる。

「喜びを学び、生を学ぶ。しかし学びは潰えることはない。死せども探求は続くのだ。恨む事は何も無い。喜びを求め続ければいつか精算が始まる。それだけのことなのだから」

死を学ぶ。生の答えはそこにある。王は民にそう教え続けていた。

その王は王であって王では無い。善政を望まず、民の幸福を望まず、ただ世界の流れを大きく変えている。その王は魔王を名乗る。戦乱と混乱をただ一人で撒き散らす。真性の邪悪。

そして邪悪な王は勇者によって命を奪われる。それこそが『英雄』という歯車を生み出すということだ。万人の望みが王の死であれさえすれば、勇者は善になる。幾万と繰り返された『英雄』の製造。何億の犠牲の上に誕生する神に等しい人間が生まれ落ちる。正しく太陽のような存在。

人として人になれない。王でありながら王とはならない。間違いだらけの真実だ。都合のいい結果だけが物語として残っている。

歯車はとっくに狂っていたのだろう。可能性は二人しか含めていなかったのだから。

だからこそ不都合は波のように押し寄せる。

そう、例えば

『落日』がたっていた

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